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今宵、月が見えずとも



眠れない夜がある
薄暗い闇夜にも関わらず、カーテンの隙間から入る都会の明りをぼんやり見ていた

別に不安なんて無い
今日僚は出かけなかったから同じマンションにいる
今頃は自分の部屋で高イビキをかいている頃だろう

怖くなんてない
一人じゃない
孤独でもない
辛くなんてない


「・・・なのに、なんで・・・・眠れないんだろう」


ベッドの上でもうどのくらいこうしえ膝を抱えていたのか
一時間か、二時間か・・・それすらもうわからない
明日だっていつもと同じ、早く起きて、家事をしてとやることはあるのに
寝なくちゃいけないことはわかっているのに、一向に眠気がこない・・・


「・・・・あ」


ふと目に入ったものに引き寄せられるように
あたしはベッドから降りると、そのままカーテンを開け・・・窓の外を覗いた
そこにあったのは、東京で唯一見れる天体・・・月
真珠色の綺麗な光をこの大都会でも照らす星
特に珍しくもなんでもないのに、何故か今のあたしにはひどく魅力的に見えた


「・・・・手を伸ばせば触れそう、だよね」


それは紛れもなく月に対しての言葉だった
だが、言葉と違い、脳裏を過ぎったのは・・・今、眠っているであろう・・・・男の姿だった

 

「・・・何を、考えてるんだか」

 

わざと呆れた声を出してみた・・・なのに、どんどんと溢れるように
僚の姿が浮かび上がってきて、あたしはそれから逃れるように目を閉じ・・・
そっと額をつめたい窓へと押し当てた・・・・


「・・・・もう十分、幸せなはずなのに」

 

怖くなんて無い、一人じゃないから
孤独なんて無い、いつも傍にいてくれるから
辛くなんてない、なんだかんだ言って助けてくれるから


じゃぁ・・・なんで
なんで・・・あたしは・・・・

 

「・・・・苦しいよ、僚」

 

触れられない月に触れるように、そっと手を伸ばした・・・・

 

 

 

**************

 

 

「・・・・・暇だな」

 

珍しく歌舞伎町に出かけなかったため、早々に眠りにつこうとしても
なかなか身体は睡眠を欲しがらない
仕方なく、暇つぶしお兼ねて愛銃の手入れをしていたのだが・・・それもとうに終わってしまった
今からでも出かけようか、とも思ったが生憎そんな気分にはなれず
ぼんやりとベッドの上でタバコをふかしていた

 

「・・・もう、寝てるよな」

 

自分とは違い規則正しい生活をしているパートナーの女を思い浮かべ
ひっそりと苦笑した
最近、こういうぼんやりとした時間に香のことを考える時間が増えていることは
なんとなくわかっていた
それだけタイムリミットが迫っているという証拠なのだが
気づかぬフリをして、今までのような態度を取り続けている自分がいる


「・・・・・・・不安に、させてるのは・・・わかっているんだが」


今日出かけなかったのもそうだ
「いってらっしゃい」と言いながらも、捨てられた仔犬のような不安そうな目をしている女を
一人このアパートに残していけなかった
情報収集だけ、酒は飲んでも女を抱いてはこない・・・
そうわかっていても、出向く足は鈍り、結局こうしてここにいる


「『愛しい者』・・・・か・・・・」


あの言葉に間違いはない、確かな真実だった
だが、だからといって一歩踏み出せるかといえば、また別問題で
香の気持ちを知っていながらも二の足を踏んでいる


愛しいが故に、迷うのか
それとも、自分に覚悟がないのか・・・


「あー・・・止め止め、ったく、余計眠れなくなるつーの」


ここ最近ずっと考えている内容を頭から追い出し
まだ長いタバコを灰皿へと押し付けた


「寝よ寝よ・・・・あーあぁー、リョウちゃん疲れちった、と」


誰も聞いていないとわかっていても
やらずにはいられない、道化のふりをしながらベッドに横になろうとしたとき
ふと、カーテンの隙間から見えたものに動きを止めた


「・・・・月、ねぇ」

 

それは月だった
人工の明りが照らすこの街で唯一見える自然の光
たいして珍しいものでもなんでもないのに・・・俺は身体を起こし
もっとその月を見ようとカーテンを開けた

 

「触れそうなのに・・・触れないもの・・・・か」

 

まるでどこかの誰かのようだと苦笑し
オレは決して触れることのできない月に、そっと手を伸ばしてみた

 

「なぁ・・・・触れても、いいか?」

 

口から漏れたその言葉に、俺は苦笑し・・・
そして、ゆっくりと伸ばした腕を下げた

 

 

 

 二人、同じタイミングで伸ばされた腕も、呟きもお互いが知ることはなく
・・・・ただ、伸ばされた先にある月だけが、そのことを知っている






「今宵、月が見えずとも」 byポルノグラフィティ
 

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