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愛迷エレジー




今回の作品は、ブラックな部分、病んでいる様子を伺わせるものがあります
流血・自傷などの表現はありません。
ただ、そういうブラックな表現が苦手な方、ブラックな面を見せている二人が苦手な方は
続きを読まないようお願い申し上げます




 





笑っている

怒っている

笑っている

泣いている

笑って・・・笑って・・・そして、気づく



「・・・限界か?」



吐き出した言葉は、部屋の静けさの中に消える
誰に言っているわけではない
本人を前にしているわけでもない
だからこそ、胸中で呟くべき台詞を言葉にして外に出す


いつからかは、わからない
わからないが・・・もはや、それはどうでもいい
こうなってしまったのなら、もう、どうにでもなればいい



「・・・僚」



カチャリと音をたてて、扉が開く
立っていたのは香
笑みを浮かべ、なんでもないようにそこにいる
何も気づくことなく、笑ってそこに立っている

・・・・俺が気づいてないと思っているのか
それとも、香本人が気づいてイなのか
・・・・その笑みは、絶えることなく浮べていた


「お風呂沸いたから早く入っちゃって」

「・・・・あぁ」


何も言わず、何も言えず
俺は立ち上がり、逃げるように香の脇を通り過ぎる
一瞬だけ香を見る
あいもかわらず浮かんだままの「笑み」
・・・・その笑みにわずかに眉を寄せ、俺は風呂場へと向った

乱暴に服を脱ぎ捨て、温まる前のシャワーを浴びる
冷たい水が体を叩く
冷えた風呂場でソレは痛みにも似た感覚を俺に与える
だが、今の俺にはそれすらも丁度良く感じた



「・・・壊れた、か」



水音の激しい中で再びポツリと呟く
全力で笑い、怒り、悲しみ、喜ぶ・・・
そんな喜怒哀楽のはっきりした香の中に確かに・・・「光」のようなものがあった
まるでアイツ自身のようにはっきりと、鮮明なまでに輝いていたもの・・・だが、今はソレがない
代わりのように、空っぽの人形が無理矢理浮べたような作り物の笑みが張り付いている


光は今までにも何度も消えそうになった
悲しみに、哀しみに、怒りに、空しさに、己の力不足に
それでも、香はその光を何度も何度も蘇らせては、俺のそばに居続けた
どれだけ苦しくても、悩んでも、結局はあの眩しいほどの笑みを俺の傍で見せ続けた・・・

だが、今回は・・・・おそらく、無理だ


限界だったのか・・・もう、無理だったのかは、わからない
ただ、何度も何度も這い蹲ってでも立ち上がってきた香の限界だったのか
今のアイツに、「光」は無い
そして、そこまでアイツを追い詰めたのは・・・紛れも泣く俺自身だ


躓くたびに、座り込むたびに、光が揺らめくたびに
俺は知らぬふりをして、見ないフリをして
アイツが俺から離れるのを待った
離れてほしくて、突き放した

それで、俺が満足するかのように見せたこともあった・・・


「・・・・・なぁんで、ここまで粘っちゃうんだか」


早く諦めればよかったのだ
俺という男をさっさと見限ればよかったのだ
捕まらなければ、逃げ出せば、離れれば・・・平穏も、一般的な幸せも、きっとアイツは掴めた
そして、それはアイツを俺に託した亡き親友の願いだったはずで・・・俺の願いでも確かにあったのだ




「これが、粘り勝ち・・・・ってヤツかぁ?」




そっと目を瞑り・・・俺はゆっくりと・・・・『哂(わら)った』


手放せてやれた
手放そうとした
追い詰めて、何度も何度も置いてきぼりにしようとした
・・・・だが・・・・今は・・・・



「・・・・壊れたなら、戻してやるさ・・・無理矢理にでもな」



逃げることなどさせぬために
永遠に縛りつけるために
手を差し伸べよう
優しい言葉をかけよう


ただし、無条件じゃない
ちゃんとした、『報酬』はもらうつもりだ




「タイミングも、チャンスも、全て逃したおまぁが悪いんだよ・・・」



行き着く先に、俺と槇村が願ったものなど無い
『光』など、二度と手に入らないほどの暗闇しか無いとしても


逃げ出すことなど許さない
己の手を振りほどこうとも
暴れ、泣き、叫ぼうとも
例え、溢れるような激情をぶつけてきたとしても



その手を、二度と離しはしない・・・・
離すことなど、許したりしない


離れるなら縛りつけよう
罵声を浴びせるなら、息をするのも苦しいほどに口を塞ごう
何もかも見えなくなるほどに、俺だけを見せつづけよう
激情をぶつけるなら、それ以上の激情をお前にぶつけよう・・・


全てのチャンスを逃し続け
それでも、俺の傍にいた、俺を動かした・・・『勝利』は彼女のもの
だが、その『勝利』の先にあるものは・・・・果たして、彼女の望むものだったのだろうか?



響く水音の中、ただただゆっくりと笑みを浮かべ
俺は、ゆっくりと目を開いた・・・・



さぁ、哀れな子羊サン?
地獄に堕ちたとしてもそのサキまでずっと




アイシヌイテアゲマスヨ ?

 

 



愛迷エレジー by DECO*27 (sm1290582619)

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