[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「・・・綺麗な月」
ポツリと漏らした声と同時に出た息は白く
まるで舞い上がるように空へと昇り、消えていく
そんな白い息を見て、あぁ、寒いなぁっと思いながらあたしは買ったばかりの缶コーヒーに口をつける
寒いのは苦手
だからよっぽどのことがなければ好き好んで夜に外になんて出ない
・・・・まぁ、今も好きで外にいるわけじゃないんだけど
「ふんっ、・・・僚のばぁか」
いつものごとく・・・僚と喧嘩した
最初の原因なんか忘れちゃった
ただ、それをきっかけに喧嘩はヒートアップして、あんまりにも腹が立ってハンマーで叩き潰した後
近くにあった上着を掴んで外に出た・・・それがだいたい1時間くらい前
今着ている服は・・・・たぶん、発信機がついてるから僚にあたしの場所はとっくに知られてる
アイツにバレてるとわかっているからこそ、なんだか癪で余計にこうしてアパートに帰れない
(・・・・あたしは、悪くないんだから)
わずかに持っていた小銭で買った缶コーヒーを
大事大事に飲みながらも、外の冷たい空気にどんどんそのぬくもりは失せていく
夜の公園にはあたしだけ
寒くてポケットに手を突っ込みながら、はぁー・・・と息を吐き出す
本当はわかってる、意地なんて張らずに帰ればいい
風邪引いたりなんかしたら、それこそ僚にバカにされるのなんて目に見えてる
心配は・・・・されてないと思うけど、それでも、ちょっとは気にしてるかもしれないから
だから帰ればいい・・・・帰ったらいいのに・・・
「・・・・帰りたくないなぁ」
ポツリと再び呟き、消えていく白い息を眺める
何度何度も立ち上がろうとしたけど、結局こうして一人ベンチに座って月を、自分の吐き出す白い息を見ているのは
・・・・帰る先が、わからないからなのかもしれない
帰っていいの?
戻っていいの?
そこに、アイツはいるの?
あたしは・・・・・ひとりぼっち?
僚への怒りなんて、本当はとっくに消えてる
あるのは、取り残されたような孤独感だけ
戻ったところで、僚があたしを出迎える可能性なんてほとんどない
怒って歌舞伎町で飲み歩いているのかもしれない
アパートに戻った先にあるのは、冷たい空気、誰もいない空間
ここよりも、寒い・・・寒い場所
「でも・・・・帰らなきゃ」
戻った先が、迎えてくれる人がいなくても
冷たくて、寒くても・・・・・・・そこが、あたしの「いたい」場所には変らないから
どこにも行けないわけじゃない
戻らなきゃいけないわけでもない
むしろ、僚のことだからこのままあたしが表の世界に帰ればいいとかおもってるかもしれない
(・・・・あたしは、あたしの意思で・・・・あの場所に居る、帰るのよ)
僚に何を言われても、何とおもわれようと・・・パートナーが解消されるまで
あたしはあの場所にいる
そう改めて決意すると、残りのコーヒーを一気に飲み干した
そして、トンッと靴音をたてて勢い良く立ち上がり、んーーーっと伸びをした後
公園の出口に向おうと、体の向きを変えた
「気がすんだわけ?」
「・・・・・・・・・・・頭は冷えた」
座ったあたしからは見えなかった場所
立ってはじめて気づく場所で、見慣れた紫煙を吹かす男
あたしの吐き出した白い息と同じように、上に立ち昇って消えていくソレをアイツも見ていた
「んじゃぁ、帰るぞ」
「・・・・・・・迎えにきてくれたの?」
そう言って背を向ける僚に、思わずあたしは声をかければ
僚は振り向き・・・そして・・・・
「ばーか、甘ったれんな・・・リョウちゃんタバコ買いに来ただだもーん」
「・・・・・こんなとこまで?」
「そっ、たまには散歩がてらっつーのもいいもんだろ?」
「珍しいわね」
「たまにはいいだろうが・・・ホレ、ぶつくさ言ってねぇで帰るぞ、あー。寒ぃ寒ぃ
慣れんことはするもんじゃねぇーなぁ」
(ねぇ、それって・・・散歩?・・・・・それとも、寒い中あたしを待ってたこと?)
今度こそ振り向かず、スタスタと歩き出す男に向って、あたしも慌てて追いかけながら
ギリギリまで出掛かった言葉を、あたしはグッと飲み込んだ
影踏みエトランゼ by Substreet (ニコニコ動画:sm13434014)
≪ 愛迷エレジー | | HOME | | Snow Dance ≫ |