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03 言葉に出来ないほどの




コトコト・・・と小気味良い音を奏でる鍋
香ばしい匂いを充満させるフライパン
あつあつのそれらは、もうすぐ完成だというのに
この大量の料理をほぼ消費するであろう欠食児童モドキの相方は未だ帰ってこない


・・・チラっと時計を見れば、いつもならとっくに帰ってきている時間に
つい、手に持っていたお玉に力が入る


「僚のヤツ!もしまたツケで飲んでくるようだったらただじゃおかないんだからなっっ!!」


ぐっっっとおたまを握りしめ、お決まりの怒りの台詞を言うも
「まぁまぁ、おさえておさえて」となだめてくれる友人も
「ヤバっっ!」と声をあげて逃げ惑う馬鹿もいない
おいしそうな匂いが充満するキッチンはもちろん、リビングにも、お風呂にも、誰もいない
無駄に広いこのアパートにいるのは、自分一人という現実に、妙なむなしさを感じ
再びくるくるとお玉で鍋の中身を廻しはじめる


(まさか・・・・まさかね・・・・?)


一瞬脳裏をよぎる不吉な予感に、ブンブンっと頭を振り目の前の料理に集中する
「ははは、考え過ぎ考えすぎ、ばっかねぇ~あたしってば」
ははははは!と笑い声をあげながら、勢いよくお玉をまわす

くるくるまわるお玉
くるくるとまわる今夜のお味噌汁


くるくる・・・くるくる・・・・


渦巻く味噌汁
止まることのない手
でも、それ以上にまわっているのは・・・・ぐるぐる、しているのは・・・・・



「たでーーまぁー・・・・あ~、リョウちゃん腹減ったーー!!」




聞こえた声に、半ばお玉を放り出す勢いで台所を離れる
小走りで玄関に向かえば、数時間前に会ったときと同じ格好をした僚が
いつものように締まりのない顔で、「カオリチャーーン、飯まだー?」と子供のような台詞を口にしている様子に
自然と口元が上がっていくも、それを隠すようにわざと眉をしかめ腕を組んでみせる


「・・・お、おかえり、遅かったじゃないの・・・あ、さぁーっては、まぁーーったナンパしてやがったな!!」

「お!カオリちゃん鋭い!!そぉーなんだよ!最後の最後で相手に逃げられちゃってさぁー
結構イイとこまでいったのになぁ~~なぁんで、あそこで逃げられちゃったんショ?」

「ほぉんとーに懲りないヤツねぇ、そんなのアンタが遊ばれたに決まってるでしょ?
ほら、そんなとこでだらだらしてないで、さっさと手洗って来なさい!!
じゃないと、アンタの分だけおかず一品減らしちゃうんだから」

「へーい・・・たぁっく、俺はガキじゃねぇつーの」


ぶつぶつ文句を言いながら洗面所へと向かう僚を見送り、再びキッチンへと戻る
投げ出したお玉はなんとか味噌汁の中に沈むこともなくひっかかっており
苦笑を浮かべながらゆっくりと取り出す
くるくるまわっていた味噌汁が、弱火で煮込まれていく様子をじっと見つめながら
・・・ゆっくりとバレないように、安堵の溜息を吐き出した


(・・・・よかった、無事で)


硝煙の匂いは、いつものこと
でも、それがほんのちょっと強かったから、もしかしたら1、2発撃ったのかもしれない
ジーンズの裾にも泥が少し跳ねてた
今日は雨が降ってないけど、昨日は結構大降りだったから陽の差さない路地裏でやってきたのかもしれない


(・・・・話してくれないってことは、そこそこの相手だったんだろうなぁ)


さっきの僚の状況から見て、怪我はしてないと思うけど、やっぱり話をしてくれない事実に悔しさがこみあげてくる
僚は基本秘密主義だけど、必要だと思ったことは話すし、話さないなら話さないで理由がある
その理由も色々だけど、例えば、そもそもあたしに知られたくないか、済んでしまって話す必要がないとか・・・
あげたらきりがないけど理由の真意は僚にしかわからない・・・最初はそんな僚がすごく水臭く感じたし、距離を置かれてるみたいで嫌だったけど
でも、・・・・今は、僚には僚の考えがあるんだって知ってるから、無理に聞きだすことをやめてしまった
今日みたいに出迎えたときに誤魔化してるのは、特に・・・・『聞くな』という無言のアピールに、あたしはただ、従うしかない
どんなに悔しくても何でも、こういうとき、あたしも僚に合わせてピエロを演じる・・・もう、ずっと長いこと続けてきた嫌な習慣




(雑魚だったら、軽口で話すぐらいはしてくれるようになっただけ・・・・マシ、なのかなぁ)


味噌汁とごはんをよそって、おかずを並べる
ほかほかとおいしそうな匂いに、食欲をそそる湯気をたてる料理たちに
知らず知らずの内に、くすっと笑みをこぼしていた


「なーんだぁ?急に笑いだしたりしてー・・・そういやぁ、思い出し笑はむっつりだって話があったけど
さては、カオリンってばムッツリスケベ・・・・ぐぅぉ!?」

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと席につけ、このスカポンタン!
・・・・せっかくの夕飯が冷めちゃうでしょうが」


1tハンマーを綺麗に僚の顔に埋めてから、席につき
「いただきます」と食事開始の言葉を言えば、僚もそれにならうように、席についてガツガツと食べ始める


「そういえば、今朝新宿駅の近くで・・・」


なんだかんだ文句を言いながらもガツガツ食べる男の姿を見つつ、あたしは普段通りの会話を口にする
それにたまに僚が相槌を打ったり、気になったりしたら「それで?」なんて聞いて来たりしながら夕食は続く


僚についてる強い硝煙に匂いも、裾に跳ねてる泥も、一切触れず
あたしは、あたしの「役」を演じる
嫌な習慣だわ・・・・あたし、基本誤魔化すとか、嘘とか苦手だから余計に


でも・・・そんなこと、もうこの際どうでもいいのよ


「たまにはおいしいの一言くらい言えないの?・・・それがダメでも、もうちょっと味わって食べなさいよ」

「うるへー、俺がどう食おうと俺の勝手だろうが!!それに、おまぁも結構飯作ってんだから
もうちっとマシなもん作れるようになんねーのかよ!!」

「なんだとぉっ!!!人が一生懸命作ってるつーのに、嫌なら食うな!!!」

「あ、嘘です!ごめんなさい!!カオリ様の料理は最高ですー!!だから、リョウちゃんの鮭の南蛮漬け返して~~!!」





できたての夕飯を食べさせることができる
向かい合って座って一緒にご飯を食べれる
話を聞いてもらえる、たまにこうやってじゃれられる

全ては、僚が目の前に立っていて、生きているからできること



(怪我せず、無事に帰ってきたなら・・・あたしは、何も言わないわよ)



「ただいま」を言ってくれる
無事でいてくれる、それなら・・・・何も聞かない、ただ、アンタを迎えるだけ
でも、もし・・・・アンタが少しでも怪我をしているんであれば、問い詰めるわよ、徹底的に
それこそ、怪我するだけじゃなくて・・・何かに迷い、立ち止まるのであれば・・・アンタが拒もうと、突き放そうとも、あたしはアンタの傍にいるわ
絶対に、離れたりなんかしてやらない、弱くて頼りなくても、できる限り支えてみせる


・・・・だから


「しょーがないわねぇ・・・・、ま、そこまで言うなら、許してあげるわよ」


黙ってることも
誤魔化してることも
全部、許してあげる


だから、また・・・・ちゃんと帰ってきて、こうやってあたしのごはん・・・・食べなさいよね
あたしは・・・・いつだって、ここで待ってるんだから、さ



fin







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お題サイト「loca」さまより

雰囲気的な5つの詞:想 をお借りしました



あとがき

カオリンは、言葉にしなくてもいい女だと思います



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