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キミにKISS


 

 

やめなければいけない
止めなければいけない


そう思っているのに


心と裏腹に、足はいつもあの場所へと向う

 

コレが始まったのは一体いつだったのだろうか
そもそも、どういう経緯でコレを始めたのだろうか
間違いなくまともな思考だったわけではないことだけは覚えてる
酔っ払った勢いか、それとも抑えきれなくなった感情からか
夢うつつの行為が、現実だったと知ったあのときの絶望感だけは
今でもありありと思い出せる


(・・・・後悔することなんざ、目に見えてるのになぁ)


かすかに漏れそうになるため息すら、飲み込み
再び視線を目の前の扉へと向ける

なんの変哲も無い、いつも見ている扉
さらに言えば、そこには『客間』というプレートと一緒に
『香の部屋』というプレートがしっかりとかけられている

己の気配を消し、中の気配を探れば確かに感じる香のソレに
さらに盛大なため息をつきたくる


時刻は深夜、今頃夢の国の住人になっていて当たり前とされる時間帯なのだ
ここに香がいることは当たり前で
実際、つい数時間前に「おやすみ」と言って部屋を戻る香を確認したのは
他でもない俺自身だ
(もちろん、その前に『なにしてやがったこのロクデナシもっこり野郎っ!』という罵声と共に
特大のハンマーでお出迎えされたのだが・・・・・)


俺はゆっくりと息を吐き出すと、より一層気配を消し
香の部屋へと侵入するために、ドアノブへと手を伸ばした・・・

暗い部屋にキィッとかすかに音が鳴り響くも
香はその音にも気づくことなくベッドの上で気持ち良さそうに寝息をたてている
その眠りを妨げないように俺はそっと部屋へと侵入し
香の寝ているベッドの脇へと移動した

 

「・・・・香」

 

小さく、本当に小さな声で彼女の名を呼ぶ
だが、聞こえてくるのは規則正しい寝息だけ・・・
香が熟睡していることを確認し・・・俺はゆっくりと香へと近づく

柔らかな髪、白い肌、鼻腔をくすぐる香自身の香りに眩暈を起こしそうになりながらも
それらの誘惑を撥ね退け、目的の場所へと・・・そっと、唇を押し当てた

そこは香の耳のすぐ下のあたり
髪ですぐ隠れてしまいそうなその場所に俺は自分のソレを押し当て
僅かに力を込めて吸い上げれば、うっすらと赤い花びらが香の肌に刻まれる
その小さな花の存在を確認し、俺は内心で盛大なため息を吐いた


(何をしているんだ・・・・俺は)


最初は夢だと思った、真夜中に香の部屋に忍び込んで
彼女の肌に一輪の赤い華を咲かせる夢
目が覚めたときは自分のベッドにいたから、アレは自分の欲望が見せた夢なのだと思った
だが、その後顔をあわせた香の首にうっすらと刻まれたソレに、あれが夢でなかったことを知った

夢で刻んだ場所とまったく同じ場所にある花
瞬間、夢だと思っていたものが、いっきりに現実として俺を襲った
白い肌も、香りも、柔らかさも、吸いついたあの感触も
できるならばあの場で頭を抱えてしまいたかった
だが、そんなことをしたら香に気づかれる可能性があった
それだけはなんとしても阻止しなくてはならず
俺はわざと「おまぁ、んなとこ赤くしてどうーしたんだ?」と言い香に「花」の存在を気づかせ
さらに「虫にでも刺されたんじゃねぇの?」と言って、花の存在を隠した


あの瞬間は
「やっちまったものはしょうがない」とか「あれは夢だ、夢なんだ」と自分に言い聞かせた
一回限りの過ちだとして忘れようとした・・・・・だが、現実だとわかってしまえば
あの柔らかさが忘れることができなかった、吸い付いた感触がたまらなく欲しく
鼻腔をくすぐる香りを胸いっぱいに吸い込みたかった


そして、気がつけば足は香の部屋へと向かい
こうして、香には気づかれるよう細心の注意を払い
俺は最初の場所よりもさらにわかりづらい場所に花を一輪咲かせるようになった
最初は一週間に1回
それが5日に1度、4日に、3日に・・・と期間を狭め
今ではほぼ毎日こうして香の知らぬ内に花を咲かせるようになった


(・・・・卑怯だと、お前は言うだろな)


昼間は他の女を追いかけ
夜になれば、ひとりアパートにお前を残し歌舞伎町へと消えていく
お前の気持ちに気づかぬフリを続ける男が・・・
知っていて、知らぬふりを続ける男がこんなことをしていたんじゃ
怒るな、という方が無理な話だろう・・・・


(・・・でも、な・・・香・・・しょうがねぇんだよ)


香を起こさぬよう、そっと髪を撫でる
閉じられた目蓋、寝息を吐き出す唇
生きていることを示す赤みを帯びた頬
それら一つ一つに目を向け・・・そして、そっと目を閉じた


(・・・・もう、限界なんだよ)


目の前の女が愛おしくて、・・・どうしようもなく愛おしくて・・・・

だが、愛おしいからこそ手が出せなくて、大切にしたくて

決して交わることのないジレンマに気が狂いそうになる

行き場のない感情を吐き出したくてたまらないのだ

 

(・・・・こうでもしなければ、俺は・・・・狂ってしまうかもしれない)

 

このままではいつか・・・・俺は、お前を傷つけてしまうかもしれない

今以上に、痛烈に・・・・

泣き喚き、嫌がる香を組み敷き
己の欲だけを無垢な身体に押し付けてしまう時がくるかもしれない


そうしたら、今度こそ・・・・俺と香の関係は変わるだろ


香がそれを許そうと、許さなくとも

もう2度と・・・この曖昧な関係には戻れない

許せば、香は俺の元にいるだろう・・・そして永遠に表には返せない
いや、返させやしない・・・

許さなければ、今度こそ香は表の世界に帰り、そして二度と俺と会うことは無い
影から守ることとなっても、二度と顔を合わせることはしない


(・・・俺はまだ・・・・どちらも選べない)


卑怯でも、情けなくとも・・・・それは香の人生の大きなターニングポイントになる
一生を左右する問題になるのだ・・・それを背負う覚悟が・・・まだ、俺には無い


守りきる自信はある
愛し続ける自信もある


だが、もし香を手に入れたら・・・俺はたぶん、香無しでは生きれら無くなる
今以上に、香を束縛することになるのが目に浮かぶのだ


この手が冷たくなることになったら生きてはいけないだろう
この手が他の男に触れることすら許せなくなるだろう


誰にも渡したくない
自分だけのものにしたい・・・・今ですらあるこの感情に、おそらく歯止めが利かなくなる


それが嫌ならば手放せばいい
今度こそ手の届かない場所へ、香を置いてくればいい


・・・・しかし、その覚悟もまた、俺には無いのだ

 

「・・・・・香」

 

再び香に呼びかける
だが、やはり帰ってくるのは規則正しい寝息だけ


「・・・・・許せ」


小さな呟きと共に、俺は初めて・・・2回目のキスを香に落とした
額でも、耳でも、頬でもない・・柔らかな唇に掠めるように触れた

 

(俺が狂ってしまうまで・・・俺はお前を守り続けるよ)


(例え決して満たされることがなくとも、お前を泣かせる結果になろうとも・・・)


(それでも・・・・俺は・・・・)

 


それ以上の言葉が出てくる前に俺は、そっと香から離れ
そして、来たときと同じく、小さく鳴るドアの音だけをたて部屋を後にした・・・・

 














キミにKISS by hitomi

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