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月がぽっかりと浮かんでいた
大都会東京、その中でも特に賑やかな街、新宿
この大都会の空はとても狭くて
星の光なんて掻き消してしまうほど明るくて
暗い夜空に一人だけ残された月が、なんとなく哀れに見えた
「・・・一人は、寂しいわよねぇ」
なんとなく取り出したビール
それを持ってなんとなく出てきた屋上
フェンスに寄りかかって新宿の明かりを眺めていたはずが
いつの間にか、月ばかりを見ていた
こぼれた独り言は孤独に浮かぶ月へなのか
それとも今夜も帰ってこないであろう男を待つ自分へなのか・・・
「泣いたら、寂しいって気づいてくれるのかしら?」
こっそりでも泣いたら、誰かが寂しいんだなと気づいてくれるだろうか
ひっそりと涙の跡を残したら、あの男は気づいてくれるだろうか
「・・・・て、そんなことする度胸も素直さも持ち合わせてないわよねぇ」
「泣いていたのか?」と聞かれたら「欠伸が出たのよ」と可愛くない言い訳をするだろう
怒り呆れながらでも「おかえり」と言えたらいいほうだ
「・・・・結局、待つことしかできないのよ」
ぬるくなったビールを一口飲み、ぽつりと呟く
新宿の煌びやかな街の中に隠れている男
今は見えないその人を、朝が来るのを待つのと同じように
ここで戻るそのときまで待ち続ける
泣いても、呼んでも、きっとあの男はここへは来てくれない
それどころか、逃げて、隠れて、二度と自分の下へは戻ってきてくれないかもしれない
だから、涙も声も全て隠して待つことしかできない
「ねぇ・・・・アンタは今、どこにいるの?」
もう一度だけ新宿の街を見下ろしながらそう呟き
女は残っているビールを全て飲み干し街に背を向け
アパートの中へと入って行った
・・・・あの街で一人孤独に戦う男が無事に帰ってくることを祈りながら・・・・
「あなたへの月」 by Cocco
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