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『 僚 』
目の前で女が笑う
色気のないジーンズとセーターという格好で
何が嬉しいのか、満面の笑みを浮べて俺の名前を呼ぶ
「どうした?何かいいことでもあったのか?」
そう問いかけようと手を伸ばした瞬間
満面の笑みを浮べていた女は霧のように消え去り
代わりに、コンクリートの天井が目の前に現れた
「・・・・・夢、か」
ため息を吐き出し身体を起こす
ここは住み慣れたアパートでもなければ
毎朝うるさく起こしに来るパートナーもいない場所
毎回のごとくやっかいななものを持ってくる冴子からの依頼で
俺と香は今回別行動
もうかれこれ一週間ぐらい香と触れ合うことはおろか、声すらまともに聞いていない
(・・・まいったねぇ、こりゃぁ)
まさか夢でアイツが出てくるなんて思わなかった
現実で見ないから夢で出たのだとしても
耳にしたあの声と、目にしたあの笑みにどうしようもなく香に会いたくなる
できることならさっさとこんな場所オサラバしたいのだが、生憎冴子からまだGoサインが出ない
何をちんたらしてるんだか、と内心苛立ちできるなら強行突破をしたいところなんだが
さすがに、勝手な判断で動けば命は無いことぐらいはわかるわけで
結局は、ここは大人しく我慢するしかない
(・・・泣かせるわけには、いかねぇからな)
今もきっと不安を抱きながらも帰りを待っている相棒を思い
必死に己を静める
帰るべき場所がある
帰りたい場所がある
会いたい人がいる
共に生きたい女がいる
ジャングルにいたときにも
アメリカにいたときにも知りえなかった幸福感
身分不相応なほどの幸せを与えてくれる女の顔を、これ以上涙で曇らせたくは無い
「・・・・さぁって・・もうちょっと頑張りますかねぇ~」
どんな格好だろうと、「ただいま」と言って笑えるように
あの家の扉を開けれるように
女の心配そうな顔でも、笑顔でも、「おかえり」という声が聞けるように
『幸せ』を抱きしめるために
生きて、香の元に帰るのが絶対条件
「ま、帰ったらたぁ~っぷり労わってもらうがな」
ぐふふっと笑いながら、男は立ち上がり
マジメな顔の下で愛しいパートナーをどう可愛がろうかと考えながら部屋を出た
「May」 by B'z
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