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ありがとう・・・

夕暮れの街を歩く、買い物袋を抱えなおして
はぁっと息を吐き出せば、真っ白な煙となって目に映った

「・・・・冬、ね」

ポツリとそう呟いたら、なんとなくおかしくなった
当たり前のことなのに、今気づいた自分がいたから
寒がりの自分は厚着をしているのに
風景はすっかり冬の様子をみせているのに
何故か、そのことに気づけなかったのは・・・きっと、心に余裕がなかったから

「いろいろ、あったものね」

見下ろした買い物袋
1年前とは違い、量の少ないソレは当然1年前より軽くて
なんだか余計に寒さを覚えた

1年前の冬に、男と別れた
ずっとやってきた男のパートナーを辞めた
原因はなんだっただろうか、そもそもの原因は思い出せないけど、たわいもない喧嘩が発端だった
いつものように終わらせればよかったのに、アイツの「そんなに嫌なら出てけばいいだろうがっ!」という言葉に
あたしもカッとなって「そうするわよっ!!」と答えてしまい、結局本当に出てきてしまった

「・・・・今考えれば、ばっかよねぇ」

あたしは休憩を兼ねて近くにあった公園のベンチに座り、くすくすと笑った
途中見つけた自動販売機でコーヒーを買ってあったから、それを空けて喉を潤す

あのとき、あたしは「行くなよ」という言葉が欲しかった
もしかしたら、僚も「嘘、冗談よ」ていう言葉を待っていたのかもしれない
・・・お互い意地っ張りだから、言ってしまったらなかなか後には引けなくて
素直になんてなれなかったから・・・・ある意味、こうなるのは当然だったのかもしれない
むしろ今までよく持った方なのかも・・・・

「・・・・届いた、かしらね?」

ふと、先日自分が起こした行動を思い出し、ポツリと呟いた
1年たって、ようやくアイツとの出来事を思い出せるようになってきて
あの別れの瞬間、2人まともな別れの言葉を言っていないことに気がついた

「さよなら」とは言わず、「じゃぁね」と出て行ったあたしと
「さよなら」と言わず、「おう」とだけ答え軽く手を上げた男

長年暮らしていた2人の別れにしてはあんまりだと思い
なんとなく買ってしまったのが、シンプルな白いレターセット
そのレターセットを使って、柄にも無くアイツに手紙を出した
何枚も何枚も便箋をぐしゃぐしゃにしたくせに、書き終えたその内容に、思わず自分でも苦笑した


『 ありがとう 』


たった一言、それだけを書いた
名前も住所も書かず、ただそれだけを書いた
それ以外に何も浮かばなかったから、それしか書けなかった


「・・・・・・ありがとう」


あたしと出会ってくれ
傍にいてくれて
慰めてくれて
大切にしてくれて
わがままを聞いてくれて・・・・


『 あ り が と う 』


言えなかった言葉全てが凝縮された言葉
それだけで十分な気がしたから、だから、それだけを書いて封筒に入れた

読んだアイツはどんな顔をするだろうか
イタズラだと思って捨てるだろうか?
名前も住所も書いてない相手から『ありがとう』って言われたら、気分がいいものではないから
可能性はかなり高いと思う・・・
そもそも、郵便受けを見ているかどうかさえわからない
今も気づいてない可能性のほうがさらに高いかもしれない

(・・・それでも、いいけどね)

これは自己満足だから、最後のあたしのわがままだから
だからいい、捨てられても、読まれていなくても
届いていなくても・・・・・・アイツに、僚に言えたのなら、・・・・それでいい

「自己満足もいいとこね」と思いながら、クスリと笑い
缶コーヒーを飲み干し、近くにあったゴミ箱に空き缶を捨てた
そして、軽いスーパーの袋をヒョイッと持ち上げ、立ち上がった
けど、そこから動くことはできなかった


「おまぁ、手紙の書き方も知らんのか?住所と名前くらい書いとけよなぁ」


「おかげで探すの結構苦労したんだぞぉ」と言って
公園の出口で、あの白い便箋を持ちながら、寒そうに首をすくめる男がいたから・・・

あたしは、どうしたらいいのかなんて・・・・わからなかった
わからなかったけど


『ありがとう』 という言葉に隠した、『寂しい』という意味を
コイツが読み取ってくれたような気がして
どうしようもなく・・・・嬉しかった・・・・・・




「ありがとう・・・」 By KOKIA

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