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どうしても君を失いたくない






たまに、自分がどうしようもなく狂っているんじゃないかと、そう思うときがある


「なぁ・・・香」

「んー・・・なぁに?」



いつものように忙しくなく動き回る香を呼び止める
香は香で、忙しいにも関わらず
なんだかんだと手を止め俺の方へと顔を向ける

それは香の中での優先順位を垣間見たような気がして
なんとなく気分がいい
俺はそんな内心を表には出さず、さもメンドクサそうに
チョイチョイと手で香を呼ぶ


「ちょっと、あたしは犬じゃないっつーの!用事があるなら
ちゃんと言いなさいよね!!」


プンスカ怒りながらも、香は俺へと近づいてくる
言っていることと行動が噛み合ってねぇぞ内心呟きながら
傍によってきた香の腕を取り、そのまま引き寄せる



「ちょ、ちょっと!?僚!?」

「んー・・・・?」

「んー?じゃない!!急にこんなことして、危ないでしょうが!!」



抱き寄せた香の首筋に顔を埋めながら返事のような声をあげれば
香はそれが気に食わないのか、ポカっと俺を殴りつけながら文句を言う


「なに?カオリン、俺がドジると思ったわけ?」

「一般論よ!一般論!!あと、いくらアンタでも全部が万事うまくいくわけないでしょうが!!」


何を言ってるんだ!!と憤る香に、「確かに」と内心は同意しつつも
「これぐらいのことじゃ、リョウちゃん失敗しないもんね~」っと軽口を叩きつつ
香の首筋をすっと指で撫でる


「ひゃっ!!あ、アン、タは・・・・な、なにを!!」


真っ赤な顔で撫でられた首筋を押さえる女に
昨晩自分の下でみせた妖艶さは無く
同一人物なのかと、一瞬疑いたくなる


汚しても、汚しても、汚れない
捻じ伏せ、泣かせ、怒らせても、「槇村香」という女のままでいる香に
安心すると同時に、わずかな苛立ちを覚える



「なぁ・・・・おまぁ、こうされるの嫌か?」

「・・・・なによ、いきなり?」

「嫌か?」



俺の行動、言動がわからずに香が混乱しているのがわかる
そりゃそうだ、俺も自分のやってる意味なんざわかりゃしねぇんだから
この行動になんの意味があり、香の答えに何を求めているのか・・・
自分でも判断つかねぇもんを香に押し付けてる・・・なんざ、情けないったらねぇだろ



「・・・・嫌、って言ったら、止めるの?」

「・・・・・・・止めてほしいか?」

「どうだろう・・・・でも、僚は止めそうな気もするし、止めなさそうな気もするわね」


「もっこりスケベだけど、妙にやさしいしからなぁ」と言って寄りかかってくる女に、内心驚く
そして、わずかに口角をあげた


「俺をやさしいなんつーのは、おまぁぐらいだろうな」

「年がら年中思ってるわけじゃないわよ、あ、ロクデナシならいつでも思ってるけど」

「うげっ、ひっでぇオンナ」

「自分の行動を顧みたらわかるってもんでしょうが」



ソファの上で香を抱き寄せながら、お互いクスクスと笑いながら会話をする
キスをするわけでも、そういった行為をするわけでもなく
ただ単に、互いの体温だけを感じて会話をすることに・・・・何故か、妙な安心感を感じずにはいられなかった


「ねぇ・・・・僚」

「んー・・・?」

「・・・・なんか、あった?」



会話を終え、香の髪をいじっていると香がおずおずと聞いてきた
普段はあれだけ鈍いくせにこういうときだけ鋭いのはやはり「女」だからなのか
それとも、それが「香」だからなのか・・・・
そんな香に思わず苦笑しながら、俺は「さぁな」とだけ言って香をより俺へと引き寄せるために
腕に力を入れる


たまに、自分がどうしようもなく狂っているんじゃないかと、そう思うときがある



なにがどう狂っているのかわからない
ただ、普段の、穏やかな日常の中で、ふいに何かが俺を襲う
何が原因なのかはわからないが、妙な不安感が俺を襲う
・・・・・こういったとき、香を抱き寄せる

香の声を聞き、表情を見て、ぬくもりを感じる

いつも当たり前にあるそれを感じれば不安は徐々に治まるものの
同時に得たいの知れない何かが暴れだしそうになる


まっすぐな眼

俺の名を呼ぶ声

信頼と愛情を教えるぬくもり

香という存在



安心を与えられると同時に、不安も煽られる
もうコイツを手放すことなど無いとわかっているのに
それでも、いつか・・・・この眼が、声が、ぬくもりが、俺を拒絶したら
香という存在が、俺を否定したら・・・・そう思うと、たまらなくなる



「・・・・・・香」

「・・・・なに?」

「・・・・・・・・・なんでもねぇ」



言えるはずがない
この不安も、安らぎも、恐怖も、幸せも
全てが表裏一体であり、曖昧すぎるから
だから、俺はそれらから目をそらすために、気づかせないために
そっと香の頬に口付けた・・・・・



(あー・・・・でも・・・・・きっと、コイツが、俺を拒絶したとしても・・・・・)


(俺は、コイツの手を・・・・放してなんて、やれねぇんだろうな)



申し訳ないという思いと、許して欲しいという思いが混ざり合いつつ
俺は、うっすらと頬を赤らめている香の唇に自分のソレを押し当てた






「どうしても君を失いたくない」 song by  B'z

 

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