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「・・・・・ったく、だからいわんこっちゃねぇ」
思わず呟いた言葉の後に出たのは重いため息
普段であれば、キチンと整頓されたリビングはひっちゃかめっちゃかで
足の踏み場も無い
僚がチラかすことはあれど、意外とそういった点では几帳面な香は
滅多なことではここまで散らかすことがない
むしろ率先して片付けついるのだが・・・今は諸事情により香の手は追い付いていなかった
「よくもまぁ、ガキを抱いて眠れるもんだなぁ・・・・コイツ、結構重いんでないの?」
ひょいひょいと物を避けながらソファの後ろから覗き込めば
そこにあったのは安らかに眠る香と、香にだっこされながら眠る幼い子ども
先日久しぶりのXYZは僚好みのもっこり美女ではあったものの
その内容はもっこりとは程遠い「子守り」というものだった
依頼人である幸せ家庭の人妻は、急遽所用で遠くに行かねばならなくなり
タイミング悪く、旦那も出張が重なってしまい、他に頼る術が無いということで、こうして冴羽商事に愛しいわが子を託しにやってきたのだった
もちろん、事情を知ったお節介なパートナーがこの依頼を断るわけもなく
ここ数日、冴羽家は元気な子どもの声が響きわたり、子供によってリビングもちらかり放題とあいなったわけである
「確かに赤ん坊なら一時期預かったことがあるがなぁ・・・・今度はそれよいも手ごわい
幼児で、しかも男だぞ、男・・・・さらに、ガキの教育上悪いからってもっこりも禁止しやがって」
ぶつぶつ文句をいいながら子供と一緒に寝入っている香の頬をツンツンとつついて見せた
最近の香は幼児にかかりきりで、僚のことは二の次にしていた
いつもいつも幼児の世話ばかりしていて・・・たまにかえす返事も生返事ばかり・・・
子ども好きなのは知っていたが、まさかここまで放置されるとは思わなかったため、無意識の内に苛立ちを覚えるようななっていた
「・・・・依頼終わったら、覚悟しとけよ?」
んー・・・っと僚の指から逃れるように首をいやいやと振る香に、クツクツと笑みを浮べながら
香と幼児を起こさぬように隣へと腰を下ろす
未だに熟睡しきっている香と幼児を何とはなしに眺めてみる
香は幼児を落さぬようしっかりと抱きとめ、幼児も幼児で香にしっかりと捕まっている
ここ数日で随分と香になついたらしく、今ではどこに行くのも香のあとをついてまわっている
それが余計に香の母性本能をくすぐるのか、香も「しょうがないなぁ」といいつつ
やさしい笑みを浮べては子どもに接していた
「・・・・・・・・子ども、か」
香と一線を越えてから、考えなかったといえば嘘になる
むしろ、考えていないときなどない
どんなに焦っていても必ず避妊はしているし
香にもピルを飲ませている
もし、万が一にも、『できてしまわないように』・・・・
「欲しいんだろうなぁ・・・・たぶん」
香の口から直接聞いたことは無いが
それでも、なんとなくは・・・わかる
香は決して子どもは嫌いじゃない、むしろ好きなほうだろう
本来であれば、何も迷う必要などないのかもしれないが
自分達の置かれている立場や実情から言えば・・・・子供を作るなど、ただの無謀でしかない
「・・・・・・・悪い」
ポツリとこぼした謝罪の言葉はとても小さく、決して香の耳には届くことは無かったが
それでも、夢の中の香に届けばいいという思いから、そっと香の頭を自分の方へと抱き寄せた
きっと、香はいろいろなものを我慢している
香に言えば「自分が選んだことだ!!」と怒鳴ってハンマーでもくらわせるかもしれないが
それでも、そう選ばせるように仕向けたのは俺に違いない
我慢して、手放して・・・・それでも、俺のそばに居続けてくれる女、何よりも俺を選んでくれた女
そんな、馬鹿みたいな女、だからこそ・・・絶対に守ろうと決めた
なにがなんでも守ろうと、そう誓った・・・
それゆえに、女に危害が及ぶとわかって状況など作れやしない・・・・例えそれを、女自身が望んだものだとしても・・・・
「・・・・・・・・なにがなんでも、守るから・・・・だから・・・・」
許してくれ、なんて・・・きっと図々しい以外のなにものでもない
そう思いながらも、まやかしのようなこの「家族ごっこ」の風景に自分も溶け込むように
俺もまた、ゆっくりと目を閉じた・・・・・
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