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君は僕に似ている






Ruuu・・・・Ruuu



そのベルの音に、一瞬嫌な予感を感じたのは、ある種の虫の知らせだったのかもしれない
香が電話を取ろうとするよりも早く立ち上がり、受話器を取った


「はい、冴羽商事」


お決まりの台詞の後に聴こえてきた声に、俺は一瞬目を見開き
それを誤魔化すように・・・静かに目を閉じた

一瞬だった
だが、その一瞬を悟らせないために俺はあえて明るい声で返事をする
相手もそれがわかっているのか、特に何かを言うことなく
ただ用件だけ言って電話が切れた


「・・・・誰だったの?」

「んぁ?・・・あぁ、昔の知り合いからな、日本に居るから会わないかって誘いの電話
あ、安心していいぞ、相手はもっこり美女じゃないむさいオッサンだ」


怪訝な表情の中に不安が見え隠れしている香に
俺はあえて何も言わず『事実』を伝える


「べ、別に、そんなこと心配してないけど・・・・・・・・僚の、お友達?」

「友達・・・・つーか、あー・・・仕事仲間?まぁ、何度か一緒に仕事をしたことがある
昔なじみってヤツだ・・・ったく、いきなり連絡なんかしてきやがって
ボキちゃんにだって都合つーもんがあんのに~」

「アンタに都合があるなんてあたしも初耳だわ、毎回毎回ナンパや夜遊びばっかしてるくせに」

「ナンパも夜遊びもボキちゃんの立派なお仕事だもーん
・・・・まぁ、そういうわけだから、明日はヤツに付き合ってちっとばかり遅くなるわ」



そう言ってひらひらと手を振り、自室へと戻る俺を香が何か言いたそうな顔で見ていた
それに、あえて「どうかしたか?」と尋ねれば、香は驚いた表情をした後に
首を横に振り、「なんでもない」と言う
そんな香に、「あ、っそ」とだけ返し今度こそ自室へと向った


自室に戻るものの、俺は電気をつけることをせず、暗い室内を歩きベッドへと腰掛
深く・・・・深く・・・・・息を吐いた




 

********************


 


「・・・・・・雨、か」


翌日、呼び出された場所に向えば、ポツリ・・・ポツリ・・・と雨が降り始めていた
決して強くはないものの、振り続けるそれをぼんやりと傘もささずに見上げていたが
ふと、やってきたなつかしい気配に、僚は微かに手をあげた


『よぉ、久しぶりだな』


白人の初老の男・・・僚の記憶にあるときよりもずっと老け込んでいる男に
時間というものだけではない、『老い』を感じずにはいられなかった


『久しぶりだな・・・・すまないな、急に呼び出して』

『いや・・・・・覚えていたからな』


疲れた表情で笑みを浮かべる男に、僚は内心苦笑する
そう、かつて・・・・この男がこんな顔などしなかった頃
まだ、自分が何者にも囚われていなかった頃
一つの約束を、した


『・・・・今更だが、お前はいいのか?リョウ・・・・お前にも、できたのだろう?』


『・・・・できた・・・・できちまったから・・・・ここにいるんだがな』



交わした約束
それは、とても単純なものだった
男が何気なく言った・・・たった一つの言葉



【・・・・リョウ、お前の手で、俺を殺してくれないか?】



男は血なまぐさく危険な世界に居ながらも、一人の女を愛した
心から、愛した
人の命を奪いながらも、誰よりも彼女を慈しみ、守り続けていた
それはかつての僚からすえば、理解できないことだった、狂気の沙汰にさえ思えた
バカにしたことすらあった・・・・・そんな僚に、男は言った


【お前も・・・・いつか、出会うさ・・・・・<この世でたった一人の誰か>に、な】

【そんなもんかねぇ・・・・できれば、一生わかりたくないもんだがな】

【・・・・なら、一つ賭け・・・・いや、約束をしようじゃないか?】

【・・・・約束?】

【あぁ・・・・・彼女が俺より先に逝ったときに、お前に
俺にとっての彼女と同じような存在ができていたら・・・・リョウ、お前の手で、俺を殺してくれないか?】





『 冗談だと・・・・思っていたんだがな 』




雨が降る場所で、僚は昔を思い出しながら煙草に火をつける
男はそんな僚を見ながら『だが、お前はここに来た・・・』とわずかに嬉しそうに微笑んだ
疲れた表情の中で、その笑みはやけに鮮明に僚の目に映ると同時に
もう、どんな言葉も・・・・この男には届かないのだと、悟ってしまった



『・・・・疲れた、か?』


『・・・・彼女のいない世界は、地獄でしかなかったからね』



心の底から疲れたように言う男に、かつて、愛した女のそばで、朗らかに笑っていた面影は無かった
僚はまだ長い煙草を落とし、靴で踏み潰すことで、そんな男の様子から眼を逸らした



『・・・・・・・・・・・・・・・地獄で、彼女から説教くらっても知らんぞ』

『彼女に会えるなら、いくらだって叱責されるさ』



彼女の話題が出たときだけ、一瞬かつての笑みを見た気がしたが
それは、もはや最後の『希望』に縋っているだけでしかない
男はもちろん、僚もまたわかっているが故に、何も言わずにお互いを見合う



『・・・・・・終わらせてくれるか?リョウ?』



男が銃を向ければ
僚もまた、黙って己の銃を取り出した



【はぁ?んなの、自分で勝手に彼女の後を追えばいいじゃねぇか!!俺はゴメンだね、そんな面倒なこと!】

【俺もできれば一人で決着をつけたいんだがなぁ・・・・そんなことをしたら、二度と俺のところに顔を見せないと言われてしまってね
せっかく後を追ったというのに、それはあんまりだろ?】

【だからってなぁ・・・・なぁんで俺がそんな面倒なことを・・・・】

【・・・・・お前なら、俺を確実に殺せる、・・・・だから、頼むよ・・・・リョウ】




ドォォオ・・・・ン




銃声が響く
かつての記憶が交錯する中で、銃声が響き渡る
その音を掻き消すかのように・・・・雨は、次第と強まっていった






***********************






あれから、どうやってアパートに戻ってきたのか、定かではない
最後に微笑満足そうに息絶えた、かつての仲間を見送り
痕跡を消し、遺体となった体を葬った・・・・・
雨は激しさを増していき、僚の体温を奪うが、それすらわからないほど
事後処理に没頭した

ただ、ふと頭に浮かんだのは、この雨で硝煙の匂いは消えただろうか?ということだけだった

深夜のアパートの扉を開ければ、そこには香が居た
いつも以上に不安そうな顔で、だが、必死に平静を保とうとしているのか
「おかえり」と泣き笑いのようなその表情と声に、俺はホッとし・・・そして、香を抱きしめた
力の限り・・・・抱きしめた・・・・・


痛いだろうに
苦しいだろうに
香は何も言わずに俺の背に腕をまわした


ビショビショに濡れている俺に抱きしめられ、香も濡れるというのに
文句一つ言わなかった
聞きたいことなんざ、それこそ大量にあるだろうに・・・・なのに、何も言ってきやしない



「・・・・・聞かない、のか?」

「・・・・・・・後で、聞く」

「・・・・しゃべらねぇぞ」

「じゃぁ、待つ・・・・しゃべりたくなるまで、頑張って待つ」

「・・・・・短気のくせに」

「それでも、アンタがしゃべりたくなるまで・・・・待ってあげる」




「なんだよ、それ」とクツクツと喉で笑いながら言い
香の優しさに甘えるように首筋に顔を埋めた



【お前も・・・・いつか、出会うさ・・・・・・<この世でたった一人の誰か>に、な】



あぁ・・・・・アンタの言うとおり・・・・出会った、出会っちまったさ
何者にも変えがたい
そいつが居なければこの世は『地獄』だと思えるような、そんなヤツに・・・な・・・・



かつての自分は、理解できなかった
狂気の沙汰とさえ思った『感情』
だが、今は・・・・・痛いほど、わかるから・・・・嫌というほど、理解できるから
だから・・・・・



『 安らかに・・・眠れ 』



この世を地獄と行った男が
本当の地獄で、彼女に出会えることを、静かに・・・・祈った


 



「君は僕に似ている」 song by see-saw

 

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