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パラレルです
コンセプトは「歌姫」の和風ver です
苦手だな、興味ないな~、という方はスルーでお願いします
お囃子の音色
太鼓の音
ざわめく人の声
賑やかで明るい声がほんの微かに聞こえる場所に
人目を避けるかのように建てられた小さな社があった
特になんの変哲も無い社なだけに、賑わいから取り残された姿は
同じ敷地内にあるにも関わらず、別次元のものにさえ見える
シャッ・・・・シャッ・・・
その社の中で一人祈祷をする人物がいた
白い千早と赤い袴を着た女性は
目を閉じ一心腐乱に大麻(おおぬさ)を振り続ける
祝詞は無く、大麻のシャッ・・・・シャッ・・・という音だけが社の中に響き渡っていた
・・・・が、規則正しく響いていた音はピタッと止まり
巫女はゆっくりと目を開く・・・・
「・・・・・きた」
ポツ・・・っとそう呟くと同時に、尋常では無い地震が社を襲う
ガタガタとゆれる社、だか、巫女は動揺をみせないものの
何かに耐えるように歯を食いしばって耐える
・・・・すると、地震は急速に止んでいき・・・・代わりのように
得たいの知れない気配が社の周囲を取り巻きだした
最初は数個だった気配は、すぐさまその数を増やしていき
最終的にはその正確な数は把握できなかったものの
その大量の気配が全てこの社、・・・・否、『巫女』へと向けられているのがわかり
巫女は無意識の内に、ごくり・・・っと唾を飲み込んだ
「・・・・・怖いか、香?」
唐突に、外にある気配とは違うものが現れ巫女、こと香はハッとするものの
その声の主に気づくと、ほっと息をつき・・・・「もう、慣れたわよ」と
ふて腐れたように言ってのける
「へ、ここで、や~ん、リョウこわぁ~い・・・って一言でも言えば可愛げあんなのに」
「・・・・・・だぁれがそんなことしますかっつーの、それとも、アンタはそういうのしてほしいわけ?」
「その前に、やれ、つっても、おまぁできねぇじゃん」
ニヤリと暗がりの中笑う男に「当たり前だっ!!」と噛み付けば
クツクツ笑いながら僚は香の頭を乱暴に撫でる
その手を香が振り払おうとする前に、素早く離れると
「んじゃ、お勤めいってくるわ」と言って、僚は香に背を向け歩き出した
「僚!!!」
「・・・んー?」
ふらふらと出て行きそうな僚に思わず声をかけたものの
香は何かを言うのをためらうような仕草を見せつつ
「・・・・大丈夫、だよ・・・ね?」と口を開いてみせた
「・・・・俺を誰だとおもってんだ、カオリちゃん。おまぁこそ、トチんじゃねぇぞ」
コツンと叱るように香の頭を叩くと
今度こそ僚は社を後にした
ピシャンッと閉まる扉の音、その音を合図にするかのように
今まで香へと向けられていた意識が僚へと向けられる
「あーあー・・・・いきり立ちやがって、ったく、めんどくせぇ」
僚はさもメンドクサイと言わんばかり
コキコキと首を鳴らす
・・・・その仕草は『彼ら』を挑発していう以外何者でもなく
さらに殺気が膨れ上がっていく
中には涎をたらし、眼をギラつかせているものもあった
・・・が、僚はそんな『彼ら』に一切の恐怖という感情を抱かず
逆に「なぁんで、来るのはこんな下等連中ばっかかねぇ」と
内心ため息をつきたくもあった、むしろ、このまま社の中に戻りたいとさえ思った・・・・が・・・・・
『僚!!!』
可愛くないことを言っても
結局は自分を心配する、バカな女が脳裏を過ぎる
この世で、最も愚かで、そして、何よりも愛しい・・・『女』
「しょうがねぇなぁ・・・・バカにはバカなりに
誰のもんに手をだそうとしたのかつーことぐらいは、しっかりと教えてやりますかねぇ」
ゆっくりと、僚は姿勢を正し・・・・そして『彼ら』を見据えた
たったそれだけの動作
わずか数秒の動作・・・だというのに、限りなく本能に近い彼らはここでようやく気づく
自分達が、『誰』を相手にしようとしているのか、という事実に
「一匹残らず叩き込んでやるから、覚悟しとくこったな」
ポキ・・・ポキ・・・・っと指を鳴らし、心底楽しそうに浮べた僚の笑みに
数で圧倒的に勝る『彼ら』は、滅多に感じることの無い『恐怖』というものを植えつけられたのだった
一方、変らず静寂の満たす社の中で、香は再び大麻を手に取った
神木の枝の先に、いくつもの紙が取り付けられた、神官、巫女には無くてはならないもの
それをぎゅっと握りなおすと、香は再びソレを振り始めた
・・・が、今度は無言ではなく、ある、『歌』を口ずさみながら
それは祈りの歌だった
古い、古い、いにしえの言葉が使われた歌
祈り、願い、静まり、鎮まれと、歌うその曲を、香は大麻を振り続けながら歌い続ける
祈るのは、静けさ
願うのは、鎮まり
眠れ、眠れ、永久に、安らかに・・・・
古(いにしえ)の言葉と、曲に合わせ歌い上げる
高らかに、おごそかに、静かに、激しく
そして、歌えば歌うほど、外の景色に変化をもたらしていた
何十体といる・・・彼ら、『異形のもの』に対し
僚が持っていたのは、一丁の銃と、一本の刀だけ
銃は懐にしまってある物の、刀は抜き身になっており、既に異形のものたちの
人間とは違う色の血で染めていた
「・・・さすが、タイミングばっちりだな」
そう言うと、僚は切られた異形のものたちへと眼を向ける
斬られた異形の者たちの骸は動くことなく、横わっていたが
聴こえ始めた香の歌に反応するかのように、ゆっくりとその体から粒子がたちのぼりはじめ
まるで天にでも戻るかのように、音もなく上へ上へと昇っていく
「・・・・・・これが、槇村の血、か」
槇村は先祖代々この地一体を納めてきた祈祷の一族だった
男は神主に、女は巫女となり、この地の人々を異形のものから守ってきた
・・・・が、何年かに一度、一族でも稀な才能を持つものが生まれる
「その力は、誰しもを救うってきた・・・・人も、異形も、関係なく・・・・天女よりも菩薩よりも、慈悲深く、残酷な力」
祈りの歌はどんな者でも救う
祈祷の言葉はどんな神の耳にも届く
どんなものも見捨てはしない、見捨てることが許されない
慈悲というなの残酷な力・・・・その力を受け継いでしまった、哀れな女・・・・
「だが、救われるだけじゃ、お前らは満足できねぇんだよな」
異形のものたちは救いを求める以上に
その「力」を・・・・「巫女本人」を欲した
稀有なる「力」を持つものの肉は、どんな弱者をも最強のものへと変化させる
血は一滴垂らせば、どんな万病にも効き・・・・吸い尽くせば、永遠の命が手に入る
噂とも真実ともつかぬ言葉を信じ
こうして、祭りの騒ぎに乗じては「巫女」を狙いやってくる
「巫女」が祈り、願い、救いの手を差し出しても、それを振り払い自分の欲望を成就させようとする
「欲深いお前らに・・・・アイツの歌はもったいなさすぎる」
笑止といわんばかりに履き捨てると、僚は再び異形たちの群れへと飛び込み
周囲を彼らの血で染めていく
「・・・・・・さっさと終わらせるか、じゃないと、香のヤツ拗ねるからな」
慈悲深く巫女姫
だがその慈悲はときにこうして、災いを招く、愚か者を寄せ付ける
それでも、巫女姫のその力はその者を救おうとする、巫女もまた、救おうとしてしまう
だから、巫女を守る、『番人』が設けられた
ドス・・・・ッと鈍い音をたて、最後の一匹を葬り去った後
僚は蛍の光のようにいくつもの粒子が天に昇っていく様子を眺めながら
刀についた血を振り落とし、鞘へと戻した
番人、巫女をよからぬ輩から守るために作られた者
巫女の歌で、巫女の祈りで、高い戦闘能力をさらに飛躍的に上げ
絶対的な力で、巫女を守る・・・・それが、『巫女の番人』の役割
「どんだけのヤツを救おうと、巫女は巫女自身を救うことができない・・・つーのも、皮肉なもんだよなぁ」
高く、高く、上っていく粒子を見送り・・・・今もなお、祈りの歌を歌い
異形のものたちを天へと昇華させているであろう、自分の巫女を思い
僚はゆっくりと社へと戻るために、体を翻した
『・・・・・ねぇ、あたしと、ずっと・・・・ずっと、一緒に、いて、くれ・・る?』
「・・・・・おまぁが嫌だなんだとごねても、ずっと・・・ずっと・・・な」
かつて香に聴かれた質問に、答えを返し
僚は社の中へと戻っていった・・・・・・
「まつりうた」 song by 林原めぐみ
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