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煙草を咥える
咥えるというよりは、噛み締めているといった方が正確なのか
フィルターにくっきりとついた歯型に苦笑し、灰皿に押し込んだ
灰皿に押し付けたことでくしゃくしゃになったソレをぼんやりと眺めながらも
どこかむしゃくしゃした感は否めず、無意識の内に舌打ちをしていた
特にこれといって何かあったわけじゃない
いつもと変らない夜だ
殺しをしたわけでも、裏に関わったわけでもない
酒を飲むか、もしくは、適当に女を抱きに街に出ようかとは思うものの
なぜかソレも面倒に感じて、仕方なくリビングのソファに横たわっていた
「なに?まだ居たの?」
「・・・・まだ居たのって、そりゃないんでないの、カオリン?」
「何言ってんの、いつもならとっくに姿くらませてる時間でしょうが・・・熱でもあるわけ?」
わざとらしく額に手をあて、熱を測ってくる香にムッとした表情をみせるものの
香は香でおもしろがってるのか、「ごめんごめん」と明るい声で謝罪し
再び夕飯の片付けに戻ろうと背を向けた
「・・・・なぁ、香」
「んー・・・?なぁに?」
「・・・・出かけねぇ、一緒に」
「は・・・?」
俺の台詞に香は足を止め振り返る
その顔はポカー・・・ンとしたマヌケ面で、一瞬噴きそうになった
というか、噴いた・・・・長年コイツといるが、本当にマヌケ面は笑えるんだよなぁ
まぁ、だからこそ、香をからかうことは止められないんだよなぁ、うん
「出かけるかって、どこに?・・・・ていうか今何時だと思って・・・ちょっと僚っ!!」
「あん?」
「あん?じゃないでしょうが!!人を誘っておいて何一人で出かけようとしてんだアンタは!!!」
「だっておまぁ、行かないんだろ?」
車の鍵を持ち、振り返って言うと、香は「うっ」と一瞬顔を歪めたものの
すぐに、「だ、誰も行かないなんて言ってないでしょうが!!」と言うと、洗物の手を止め
エプロンを外し始め、バタバタと支度し始めた
「5分以内だぞー、過ぎたら問答無用で留守番な」
「ちょっ!!?さ、誘っといて何言ってっ!せめて10分!!」
「へいへい、お、あと4分30秒だなぁ、頑張れよ、カオリチャン」
「~~~~~っ!!!あ、あとで覚えてろよぉおおおお!!!」
バタバタとさらに騒がしく用意をし始める香を横目に
俺はぬるくなったコーヒーをすすることで、わずかに上がった口元を隠した
そして、5分後、なんとか支度を整えた香を車へと乗せ
行き先も言わずに、車に押し込んだ
最初こそぶーぶー文句を言っていた香だったが
それも飽きたのか、流れていく景色を黙って眺めるようになり
気がつけば、すー・・・っと安らかな寝息をたてていた
「・・・・・・ま、確かにいい時間だもんなぁ」
眠る香を横目に、深夜のハイウェイを駆け抜ける
とうに12時を過ぎているため、人気はなく
どんなにスピードを出してもいいこの状態は悪くは無い
時折、隣の香の様子を確認しながらも、さらにアクセルを踏み込み車を加速させていった
そして、どれくらい走ったか・・・・
とある場所に、車を横付けエンジンを切り、車から降りた
薄暗い場所に、独特のにおいが充満しており、わずかに眉を寄せていると
バタンッと音をたてて香も車から降りてきた
「・・・・・ここ、海?」
「そう、海。それとも、カオリンの目には海以外に見えるのかなぁ~?」
「ちゃかすなっ・・・・・で、なんで急に海に来たの?」
「・・・・・・さぁ、なんでだろうな」
香の質問をはぐらかすと、そのまま砂浜へと降りるために、足を踏み出した
そんな俺に気づき、香も慌てて俺の後を追って砂浜へと降りる
満潮の時間からさほどたっていないため、波がかなり近いところまで来ていた
薄明かりの中、何も言わずにただ黙々と砂浜を歩く俺と、そんな俺についてくる香
ある意味普段どおりの光景なんだが
歩いている場所が「砂浜」というだけで、妙な感じがし、俺はなんとなく後ろを振り向いた
「・・・・・なに?」
「いんや、珍しく黙ってるから、大人しいじゃん?って思って」
「・・・・さっきからはぐらかしてばっかのヤツに言われたかないんだけど」
「そりゃそうだ・・・・おっ?、ちょっと香見てみろ」
「何よ、また誤魔化そうたってそうは・・・っ!!」
「いいから・・・・ホレっ」
ぐいっと無理矢理香の顔を海の方角へと向ける
力を入れすぎたのか、香は「うぎゃっ!」という色気もへったくれもない声をあげたが
その後に続く文句の声はあがらなかった・・・
「・・・・夜明け、だな」
水平線から昇ってくる朝陽に魅入るかのように、香は黙って頷いた
徐々に眩しい光を放ち、一面に光があふれ出す
あまりの眩しさにわずかに眼を細めるものの、なんとなく、今眼を離すのは
もったいないような気がしてならず、しばらくの間、黙って眼の前の光景を眺め続けた
「・・・・綺麗、だね」
「・・・・・・眩しいだけだろうが」
「・・・ほんっっと、素直じゃないわねぇ・・・・ま、その方が僚らしいっちゃ僚らしいけど」
「どーいう意味だ・・・って、オイ、香?」
「せっかく海にきたんだもん、ちょっとぐらい遊んでもバチは当んないわよー」
憎まれ口を叩くと、香はニッと笑い、そそくさと靴を脱ぎ捨て波打ち際へと駆け寄っていった
ザバァー・・・ンと大きな波がくるたびに、高い悲鳴をあげては、ケラケラと笑う
一体おまぁ、いくつだよ、と内心苦笑しながら、俺は煙草を取り出し口に咥えた
正直、なんで海に来たのかはわからん
いつものように歌舞伎町に出かけなかったことも
香を連れ出した意味も、何一つ答えは出ていない
だが・・・・それでも、今・・・咥えた煙草を噛み締めることも
むしゃくしゃとした感覚も無い
あるのは、目の前の海のような穏やかな感覚だけ・・・・
「りょぉおーーーーっ!」
ブンブンと手を振り自分を呼ぶ女に思わず苦笑が漏らし
「・・・早朝の海ででっけぇ声出すなっつーの」と肩をすくめてみせた
一瞬このまま放って置くか?とも考えたが、それをしたらその後の展開が怖すぎるので
俺は、香の脱ぎ捨てた靴を拾いあげ、香の居る場所へと近づいていった
「なぁにはしゃいでんだよ」
「だって、海なんて久々だし、なにより朝の海が気持ちいいのなんの・・・・ねぇ、もうちょっと散歩してこうよ」
「・・・・・・帰りは?」
「僚の運転でしょ?僚が誘ったんだから、それぐらいはしてもらわないとね」
「・・・・・・さっきの仕返しってか?」
「さぁ、なぁーんのことかしら~?」
クスクスと笑いながら先を歩き出した香に、俺は苦笑を浮かべ
「へいへい、」と投げやりな返事を返し、香の後を追ったのだった
「SMILE & SMILE」 song by AURA
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