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なんとなく、嫌な予感がした
朝目を覚ましてから、なんとなく居心地が悪かった
それは時間がたてばたつほどひどくなり
平然を装いながらも気が付けば時折ぼんやりと考え込むほどだった
そんな俺に何度も何度も香が心配そうな視線を向けてくるのを感じた
たが俺の雰囲気を察してか、口を開いてはみるものの何も言わずに閉じ、そして再び家事に戻っていく
内心「まったく、よくできた相棒だこと」とつぶやきつつも
それほど平静を装うことができていない自分に呆れながら、そっとタバコを口にくわえた
Truu......Truuu.....Truuu......
まさに火をつけようとしたそのタイミングに、携帯の着信音がけたましく鳴り響いた
着信音にそれを阻まれたことに眉間に皺えをよせ
さらに発信者の名前は馴染みの喫茶店マスターであることで、その皺をさらに深くした
滅多に電話なぞしてくることのない男からの電話に
俺は軽く舌打ちし、タバコをくわえたまま通話ボタンを押した
「オイ、こらタコ!!なんだってこんな時間に人様の携帯に電話なんぞ・・・・」
通話が始まったと同時にいつものように文句を口にするも
それを遮るように聞こえてきた声とその内容に俺は目を軽く見開き
そして、口にくわえていたタバコを、本来の役目を果たすことなく床へと落とした
「そうか・・・・あぁ、わかった」
最初の憤りなどなかったように、俺は静かに通話終了のボタンを押した
ほんの数秒で終わった通話
しばらくじっとしていたものの
今度はスッと立ち上がり、滅多に入ることのない書斎へと足を踏み入れた
そこには最近になって冴羽商事に導入されたPCがあり、僚は戸惑うことなく電源をいれた
しばらくの間キーボードを打つカタカタという音と、マウスのカチカチという音が鳴っていたが
それもすぐに収まり、代わりとばかりに僚の深い溜息の音が部屋に響いた
僚が開いたのはとある国のニュースサイト
数々あるニュースの中に、ほんの小さく載っていたとある記事
そこには、その国で一つの不審死体でみつかったというものだった
性別、年齢に「おそらく」という言葉が入っており
死因についても現在究明中という書かれていた
だが、僚には既にこれで十分だった
これが誰なのか、というのは先ほどかかってきた電話によって既にわかりきっている
細かいく情報を探れば、それこそ100%確定できるだろうが
あの海坊主がもたらした情報だ・・・よほどのことが無い限り間違いはないだろう
「・・・・なるほど、これが虫の知らせってヤツなわけね」
ポツリとそうつぶやくと僚はさっさとPCの電源を落としリビングへと戻ると
そこには二つのマグカップを持ちキョロキョロと自分を探す相棒の姿があった
「あ、そんなとこに居たの?今コーヒーいれたから一緒に飲もうかなって・・・・僚?」
僚の姿を見た途端ぱぁっっと花開くような笑みを浮かべた香だったが
すぐにその笑みを消すと、怪訝そうな顔で僚の 顔を覗き込んだ
「・・・・僚、なんか・・・・あった?」
気遣いの表情を浮かべながらも、視線をそらすことなく言う香に、僚はそっと苦笑をこぼした
それこそ「あんだけ普段鈍感のくせして・・・」と軽くつぶやきながら、香の手からマグカップを奪うと
テーブルの上に置いた
「・・・・べっつにー?なぁんもないけど?」
そう、大したことではない
自分と同じ稼業の、昔馴染みの男がこの世から消えたというだけ
特別親しかったわけではない、それでも、 顔と名前をはっきりと憶えてる程度には一緒に過ごした男だった
他人の命を奪って生計をたてている自分たちにとって、誰がいつどこで死ぬかなど日常で
いちいち女々しく感傷的になどならない、これこそ本来の『日常』
だが、たまたま自分のところには、その『日常』を忘れさ、違う『日常』を与えてくれる存在がいて
彼女の与えてくれる『日常』に少々浸りすぎて・・・それで、少し参ってるだけ
ただ・・・それだけ
「・・・僚?」
「あー・・・強いて言うなら、ちょっと寒いかもなぁー・・・・というわけで、ちょっとカオリンであったまろっと!」
「へっ、ひゃっ!!!?」
そういうと、半ば強引に香を引き寄せソファへと深く沈みこむ
体制的には膝の上に香を乗せつつ、しっかりと後ろから拘束する
それは、まるで香を逃さないといわんとしているようで
香も香で、一瞬驚きをみせたものの、僚の様子のおかしさからか、特に騒ぎ立てることをせず
なすがままになりつつも、黙って僚へと視線を向けた
いつもと違う、へらりとしただらしない顔でも、仕事をしているときのような凛々しい顔でもない
どちらかといえば、無表情に近い表情で香を抱きしめている僚
・・・が、香の視線に気づくと、まるで逃げるかのようにさらにぎゅっと香を抱え込み
自分の表情を隠した
「・・・・・・・・」
普段の僚とは違う行動に香は最初こそ戸惑ったが、
その雰囲気に、行動に、そして抱きしめる腕の力に、なんとなく事情を察した
僚にはバレぬよう、そっと息を吐き出した
この男は人一倍不器用なのだ・・・特に自分自身のことになると、特に
普段あんなバカっぽい行動をして、人様に迷惑をかけているというのに・・・
根本的にはきっと・・・とても優しい人
きっとここで僚を問い詰め、話させることは簡単だろう
僚も、もしかしたら聞いてほしいのから、こういう行動をとっているのかもしれない
そんな予測が 香の脳裏をよぎるが・・・香はあえて何も聞かずに、そっと僚の背に腕を回し
そして、ぎゅっと自分の顔を僚の厚い胸板に押し付けた
「・・・・あったかいねぇ、カオリン・・・・・もうちっとこのままでもいい?」
「・・・・・・・伝言板を見に行く時間になったら離してもらいますからね」
「へいへい・・・・んじゃぁ、もうちっと付き合ってもらいましょうかねぇ」
口ではいつもの軽口をたたく僚に、香も合わせるようなセリフを吐きながらも
この男の見えぬ傷を癒すかのように、背に回す腕に力をを込めた
(・・・・・・・僚、大丈夫・・・・・大丈夫だよ・・・・)
声にださず、心の中で香は何度もつぶやく
少しでも僚の心が軽くなるように
少しでも僚が落ち着けるように
何度も・・・何度も繰り返す・・・・・
(一人じゃないよ・・・・・・僚・・・・・・)
互いが互いに縋るように
癒しを求めるように、抱き合いながら
香は、ぽろりと、一粒涙をこぼした
それはまるで、僚の代わりに香が涙を流したかのように
じんわりと、僚の服にシミを作った
そのシミに僚は気づいたものの、特に何も気づかぬフリをして
もう一度だけ、「・・・・おまぁ、ほんっと・・・・あったかいのな」とだけ、つぶやいたのだった
fin
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