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わずかな永遠






流れる景色、見ている光景
全てがゆっくりと、けれど確かに時の渦の中に呑まれていく
特に、この新宿という街はとても時間の流れがはやくて
あっという間に違う景色に様変わりにしていることが多々とある


子どもの頃から見ていた景色だけど
ときどき、あまりの速さにその変化を見逃すことがある


「・・・・もう少し、ゆっくりと歩ければいいのに」


少し高いビルの中にある喫茶店
お高い値段の割りに、コーヒーの味はそこまであんまりおいしいとは思えず
思わずキャッツのコーヒーが恋しくなる

今回の依頼人は何かと忙しいということでここで落ち合う予定だったのだけど
どうも仕事の関係か少々遅れるらしい・・・・
あたしは依頼人を待つ傍らで、たくさんの人が動く新宿の街を見下ろしていた



「お待たせしました・・・えっと、槇村、さん?」

「はい、遠野(とうの)さんですね。はじめまして、槇村香です」



掲示板に書かれた文字と、電話越しの声から予想はついていたけど・・・
うん、なんともまた・・・僚好みのもっこり美女ですこと・・・・
思わず眉間に皺が寄ってしまいそうになりつつも
今後の生活費、公共料金にあのバカのツケが脳裏を過ぎり、あたしは必死に営業スマイルを浮べた



それから、30分後・・・・



依頼内容を聞き・・・あたしは思わずため息をつきそうになった
なんと言うか、依頼内容云々というよりは・・・世の中というか、男と女というものに、なんだけど
忙しい依頼人は、「仕事が残っているので」ともうこの場にいないので
あたしは遠慮することなく大きなため息をついた


「別れた恋人がストーカーになった・・・・かぁ」


陰湿で危険なストーカーなんていうものは、許せるものではないが
元、恋人がよりを戻してくれと必死に懇願してくる
迷惑だから追っ払って欲しい・・・なんて、なんともやるせなくなる
話を聞く限りだと、悪質なストーカーという感じはしない


ただ、男に未練があって、女には一切未練が無い
それによって混乱が生じているだけ・・・のような気がしてならないのよねぇ
まぁ、まだ彼女本人から話を聞いただけだから、なんとも言えないんだけどさぁ


「コーヒーのおかわりはいかがでしょうか?」

「・・・・いえ、大丈夫です・・・お会計お願いできますか?」

「かしこまりました」


あたしはもう一度吐き出そうと思っていたため息を、ウェイターさんの手前なんとか飲み込み
早々にお金を支払うと、店を後にした・・・


「・・・・早いなぁ」


ようやく春らしくなってきたのに、ディスプレイに飾られているのはもう夏を意識したものばかり
人も、ディスプレイも、建物も・・・・早く時間が過ぎていく
まるで何かに急かされているように、走って、走って、走り続けて・・・・
その走った先に何があるんだと、問い詰めてみたくなる


「なーにが早いって?」

「僚っ!?・・・アンタ、ここで何を・・・って、聞くまでも無いわね」


ここは新宿の駅前だ・・・僚が何をしていたかなどそれこそ今更すぎる質問だったと後悔していたら
「んなもん、ここで運命のもっこちちゃんを待ってるに決まってだろうが!!」と、
胸を張って馬鹿なことを自慢する男に
思わず、あたしの頭上でカラスが飛んでいく・・・本当に、コイツだけは毎回毎回変わりゃしない


「んで、依頼人はもっこりちゃんだったんだろうな?」

「えぇ、とーーーっても綺麗な一流商社のOLさんだったわよ・・・依頼は元、恋人のストーカー行為から守って欲しい、ですって」

「ぬわにぃぃ!!それはまたなんともおいしいオシゴトwぐふっ、リョウちゃん頑張っちゃうもんねぇ~♪」


ルンルンと馬鹿のように浮かれている僚に、あたしは今日何度目ともわからないため息を吐き出す
・・・あぁ、あたしの幸せ貯金は間違いなくコイツによって減らされてるんだわ・・・
大喜びで前を歩く男を呆れた顔をしつつ追いながら、あたしはそんなことを考える


バカでスケベでどうしようもないもっこりバカだけど・・・・
でもさ、あたしは何がどうしてそうなったのか・・・・コイツに惚れてるわけで


例えば、僚があたしの帰りを待っていてくれたり
例えば、僚があたしに「やり直そう」なんて言ってきたら・・・・あたしは、怖いと思うより嬉しいと思う
僚からなら、どんな形であれプレゼントをもらえたら嬉しい
どんなことでも、「あたしを思って」の行動なら・・・・最終的には嬉しいって思える自信がある


わけがわからない脅迫でも
見ず知らずで、姿を見せない人ではない
かつで、自分が「好き」になった人・・・・その人を今は犯罪者と同じ扱いの「ストーカー」に例え
「追っ払って欲しい」というのは・・・・やっぱり、ちょっと切なくなる


「男女の関係も・・・街と同じであっという間に変わっちゃうのかなぁ」

「・・・・なぁにセンチになってんだよ、らしくねぇでやんの」

「うっさい情緒のカケラも無い節操無しに言われたくないわよ!!
・・・・ただ、現実は『幸せに暮らしました』じゃ終わらないんだなぁって思っただけよ」

「・・・・ま、現実は小説よりも奇なり、って言うしな。
それに、確か今は結婚よりも離婚してるヤツのほうが多いんだろ?あんまり深く考えると余計にバカを見るはめになるぜ?」

「・・・・・・うん、そう・・・だよ、ね」


人も、景色も、慌しく流れていく街で、一つのカップルが破局して
それが少し混乱してる、ただ、それだけ・・・・

全部のカップルがそういうわけじゃない
全部の夫婦や恋人が同じというわけでもない・・・・けど


「けど、あたしは・・・・・ハッピーエンド主義者なのよ」

「ハッピーエンド、ねぇ・・・・そりゃまた、随分とほど遠いんじゃねぇの?」


スルリと僚の腕に自分の腕をからませれば
僚は特に何かを言うわけでもなく、ただ苦笑をもらしていた

それが何を指しているのかあたしにはわからない

今の稼業のことなのか
依頼のことなのか
僚のことなのか
あたしのことなのか

何を僚が思ってそんな言葉が出たかは、判断に苦しむけど
あたしは、僚の腕にぎゅっと抱きついてから、パッと腕を離した
 

「いいでしょ?あたしがどう思おうと僚には関係ないんだから」



そう、僚が何を思っていたって、何を考えていたって関係ない
誰が破局しようと、離婚しようと・・・・あたしの目指すハッピーエンドにも、関係ない



「あたしはあたしなりに、ハッピーエンドを目指すことにするわ
あたしの幸せは、絶対に手放したりなんかしない、・・・・だから、覚悟しろよ?」



そう言うと、あたしは僚に向って指で作った銃で「バーン」っと撃って見せた
撃たれた僚は僚で、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしていたけど
あたしは気にすることなく、僚に背を向けそのまま歩き出した


街が変わって
人が変わって
その中で、たくさんの人が別れて、愛の終わりがあったとしても・・・・


一つくらい、『変わらない愛』なんてものが混じっていても、いいわよね?




「わずかな永遠」 song by  オノアヤコ
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