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トキノナビダ

 


いつものようにコーヒーを淹れようと、マグカップを取ろうとしたとき
ふと、目に入ったソレ
あぁ、そういえばこんなところに片したんだっけ、と何気なく手を伸ばす


白い艶やかな白磁に小さな花の模様が描かれたカップ
手触りはもちろん、デザインも一目で気に入り、すぐにでも購入しようとしたものの
当時、高校生だった香が簡単に手に入れられる値段ではなく
渋々、元の場所に置いたのを今でもよく覚えてる
何度も何度も諦めようとしたけれど、店の前を通り、あのカップを見るたびに諦めきれず
結局、必死になってお小遣いを貯めることでなんとか手に入れることができた


 

(あのときは本当にうれしくて、アニキが呆れるくらい浮かれまくってたんだよねぇ)

 


たかがカップ、と言ってしまえばそれまでなのだけど
当時の自分にとっては「たかがカップ」も、大切な宝物に他ならなかった
特別嬉しいことがあったときや、記念日にしか使わないほど大事にしていたカップ
当時をなつかしむように、ゆっくりとカップの淵を指でなぞれば、自然と口元が緩む


 

「久しぶりに、使ってみようかな」

 


こちらに来てから、まだ数度しか使っていないカップを慎重に取り出す
特別いいことがあったわけではないが、たまにはこういう日もいいかもしれない
先ほど淹れたばかりのコーヒーを注ぎ、リビングへと持っていく
いつものコーヒーのはずなのに、いつも以上にいい香りがする気がして、笑みを深くし
口をつけようとした・・・その瞬間


 

ピーーピーーピーーー

 


けたましく鳴るアラーム
幸い敵が来たときの警報ではないものの、「洗濯物」という別の敵の襲来を知らせていた
別に数分だけなら放置しておいてもいいのだが、やはりこのカップを使うのであれば
ゆっくりと気兼ねなく飲みたい・・・
香はふぅ、と溜息を一つこぼすと「さっさと終わらせるか」と諦め気味に立ち上がった


 

パタパタ・・・と香がいささか急ぎ気味に洗濯物へと向かうと、まるで入れ替わりのように
「ふわぁ・・」と眠そうなあくびをしながら僚がリビングへとやってきた

 



「香~、めしー・・・って、ありゃ、いないでやんの」

 



ボリボリと頭を掻きながら周囲を見渡すものの、相棒の姿はない
だが、遠くで聞こえるパタパタ・・という慌ただしい音から
掃除か洗濯をしているのだろうと見当をつけると、そのままソファに腰を下ろした


 

「お、香ちゃんってばモーニングコーヒーとは、気が利くねぇー」


 

香が聞けば「何がモーニングだ!!どこからどう見ても今はランチだろがっ!!」という
ツッコミが入りそうなものだが、あいにく香の姿はここにはない
僚は躊躇なくカップへと手を伸ばし、そのままコーヒーを飲もうとした・・・が




ヒュッ・・パァァアアアンッ





一瞬の殺気、そして、数秒と立たずにリビングに打ち込まれた銃弾
ライフルからの狙撃のためか、打ち込まれた銃弾は一発で済んだ
もちろん、僚は殺気を感じ取ると同時に安全な場所へと移動し、そのまま外を警戒するも
既に狙撃してきたバカは逃走したのか、殺気は消え失せていた
最近この手のバカが減っていたためいささか油断したか?と内心舌打ちをするも
早々に狙撃ポイントを早々に割り出し、一応手がかりが残ってるか見てこようか・・・
と考えていたそのとき


 

「僚!!今の銃声・・・は・・・・」

 



洗濯物を持ったままリビングに戻ってきた香は、現状を見ると言葉を詰まらせた
特に僚自身怪我などしてはいないし、窓が開いていたことから窓ガラスも割れていない
被害は最低限にも関わらず、なぜ?と逆に僚が疑問に思いじっと見つめていると
香はハッと我に返り「け、怪我がなくてよかった・・・敵は?」と、真剣な目を向けてきた


 

「あぁ、ライフルで一発だけだったんでな、特に怪我はねぇよ・・・アッチも、失敗を予想してたんだろうなぁ、とっくに逃げちまったみたいだぜ?」



「そう・・・わかった、じゃぁあたしはここの片づけしとくから、アンタも出かけるなら早くしたほうがいいわよ、狙撃ポイント確認しに行くんでしょ?」


 

そういうと香はパタパタと慌ただしくキッチンへと姿を消した
その後ろ姿を僚はじっと眺めつつも、香の姿が消えると同時に、はぁ・・と溜息を一つこぼし
「・・・・・タイミング悪いときに撃ってきやがって」と先ほど銃弾が撃ち込まれた場所へと視線をむけた 



狙撃されたのは、丁度僚がコーヒーを飲もうとした瞬間
僚は自分の身を守ることができたが、さすがに熱いコーヒーの入ったカップまで守りきることはできず
カップは無残にもフローリングの上に落ち、ただの陶器の破片と成り果てていた
しばらく、こぼれたコーヒーと元カップだったそれらを眺めた後、僚はボリボリと頭を掻きながら
アパートを後にしたのだった

 


「・・・・僚、変に思ったかな」

 


僚が出かけた後、香は手早く後片付けを終えると
普段使っているカップで新しく作ったコーヒーを飲んでいた
確かにあのカップが割れてしまったのは悲しいが、それでも僚に怪我がなく
生きていてくれたことの方がずっとうれしい
本来であれば、まずはそこを喜ばなくてはいけなかったのに、一瞬顔を強張らせてしまったのは
やはり良くなったな・・・と自己嫌悪を覚える


 

「・・・形あるものはいつか壊れるんだもの・・・気にしたってしょうがないじゃない・・・」


「そうそう、割り切るつーのも大事だぞー」


「へっ?」



 

自分に言い聞かせるようにつぶやいたソレに、まさかの返答に間抜けな声をあげると
どこからともなく現れた手によって、ヒョイっとカップが奪われた



「あっ、ちょ、ちょっと!!なにすんのよ!!」



いつの間にか戻ってきた僚に驚きつつも見上げれば、僚はたいして気にする素振りも見せず
そのままグビグビと残りのコーヒーを飲みほした

 

「あーーー!!あたしのコーヒー!!!!」


「んだよ、別にいいだろーが、残り少なかったんだし、ケチケチすんなって」


「け、ケチとはなんだケチとはっ!!アンタこそコーヒーがほしいなら一言言えばいいじゃないの!!」


「んじゃぁ、カオリちゃん一仕事してきたリョウちゃんに一杯たのまー!」



そう言って、ソファにどかっと座る僚に、香はムッとした表情になると
「もう少し頼み方っつーもんがあるだろうがっ!!」とブツブツと文句を言いながらも
キッチンへと向かう
新しくコーヒー豆を挽こうと準備しようとしたとき、ふと見慣れないものが目の端に留まった



「・・・・・あれ・・・・これ?」



シンプルな白磁に赤いラインの入ったカップ
よくよく見てみれば、その赤いラインの中に花柄の模様が刻まれている
特に銘柄などは書かれていない、シンプルなカップを、香はまじまじと見つめ
そして、クスリと笑みを漏らした



「・・・・せっかくだし、最初のコーヒーはちょっといい豆のにしてみよっかな」




先ほど取り出した普段用の豆ではなく、特別な時用の上等な豆
その豆を丁寧に挽き、コーヒーを淹れる
カップはテーブルの上に置かれていたカップと、僚用のカップ
丁寧に淹れたてのコーヒーをそそぐと、「お待たせー」と僚に声をかける



「おー、サンキュー」


「どーいたしまして、でさ、僚・・・・このカップ、さっき見たらキッチンのテーブルの上にあったんだけど」



チラリと僚を横目に見ながら、クイっとカップを掲げるも
僚はさして気にした様子も見せず、自分のコーヒーをすする



「んぁ?さぁーねぇ、どこぞの小人さんが届けてくれたんでないのー?」


「ふーん、小人か・・・・随分とロマンチックな小人ねぇ」


「小人なんつーもんは存在自体がロマンチックだろーが」


「それもそうね・・・ま、丁度大切にしてたカップが割れちゃったところだったし~?
あのカップに比べたら明らかに安物だけど・・・・ま、小人さんからなら大事にしてみよっかな」


「・・・・・・ま、勝手にしたらいいんでないのー?僚ちゃん関係ないしー?」


「うん、そうするわ・・・ありがとね」


「・・・・・・・なぁんで俺に言うんだよ、礼は小人に言え!!小人に!!」



そう言うとふて腐れたように雑誌を読みだす僚に、香はくすくすと笑みを漏らしながら
「そうね、そうするわ」と言いながら、ご機嫌な様子でカップに口づけたのだった












「トキノナミダ」 song by UVERworld

 

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