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トリノコシティ


 


新宿の街は静けさを知らない
早朝の寝静まっている時間ですら
どこかしらに必ず気配がある

24時間 365日
騒がしいこの街を、俺はいつもあてもなく彷徨うように歩く
昼は道化を装い女を口説き
夜は闇から逃れるように繁華街の中の雑踏に紛れ込む

人ごみや雑踏・・・・
毎日その場にいる同じヤツなど滅多にいやしないだろうに
メンバーは違えど代わり映えのしない風景をぼんやりと眺めながら
今日も今日とて俺はこの街を彷徨う

ふとショーウィンドウに映った自分を見る
常に「ハタチ」だと名乗っているものの、やはりそれなりに年はくっているわけで
実年齢など知らねど、それなりに年をくった自分に眉をしかめる

(こんなこと考えてるってバレたらタコのヤツに指指されて爆笑されそうだな・・・)

思わずその情景を思い浮かべ
「いやいや、俺はまだまだ現役バリバリのハタチのもっこりお兄さんだっ!」と勢いよく首を横に振る




『なぁ、なんで・・・・生きてるわけ?』

「・・・・誰だ?」


いきなり聞こえた声に、自分に向けられた殺気に
ゆっくりと振り向き気配を探るも、どこにも見付からず・・・さらに警戒を強めようとした
・・・そのとき・・・


『俺は、死に場所を探している・・・・そうじゃなかったのか?』

「・・・・・・・・っ」



ショーウィンドウの映るのは、俺
そして・・・幾分か若い・・・・冷めた目をした『俺』だった
ショーウィンドウの中を流れる人ごみ、時折不審そうに俺を見ていくヤツを感じながらも
俺は黙ってショーウィンドウに写る『自分』を見つめ返した


『俺は生きていい人間じゃない、さっさと地獄にでもなんでも落ちるべきだろう?』

「・・・・・そうだな、天国なんぞには絶対に行けやしねぇだろうさ」


皮肉気に笑う『俺』に、俺も笑う
それだけのことをしてきたし、これからもするだろう・・・
人の命を奪いながら生きる・・・俺が物心ついたころから教わり、そして学び、身につけてきたもの

俺の手には、それしかないと思っていた
それだけしかできないと・・・だが・・・



「地獄に落ちるのはいつでもできる・・・今じゃなくてもいいだろ」

『・・・・怖気づいたのか?』

「いんや・・・惜しくなっただけさ」



そう惜しくなった、血塗られた手も、動く鼓動も、どうすれば相手を仕留められるのか考える脳も
全てが、惜しくなった


『惜しくなった?この世のどこに、俺の生きる場所などある?俺はどこに居ても・・・・一人だったはずだ』

「俺を本当の意味で受け入れる場所なんて今でも無いだろうさ・・・」


あのジャングルから去り、ニューヨークへ渡り・・・怒涛のような日々を過しながらも
どこかでこの「生」そのものが偽りのような、幻のような、そんな感覚を覚えていた
閉塞感とも、孤独感とも違う、形容しがたい感情は常にあって
ただ『世界』から一人取り残されたような、そんな感覚だけが常にあった



「だが、こんな俺がいいと・・・・馬鹿みたいに受け入れようとするヤツは、いる」

『・・・・それでも、どうせソイツも切り捨てるんだろう?』


愛されたことはあった、愛情を注いでくれる人たちはいた
だが、最後にはいつも俺自身が逃げ出していた
なんだかんだと理由をつけて、彼らに背を向け続けた
切り捨てることなど、俺にとっては造作も無い・・・「当たり前」のことだった・・・だが




「そうできれば・・・・良かったのかもしれないがな・・・・」

『どういうことだ・・・?』

「今は知らなくていい・・・・いずれ嫌でもわかる」


圧倒的な、逃げることも手放すこともできない「存在」に

いつ捨ててもいい、死に場所を探していた「死にたがり」のこの俺の命を惜しいと思わせ
血塗られた手でも、硝煙の匂いを纏おうとも・・・戸惑うことなく手を伸ばしてくる

何が何でも・・・・『守りたい』、そう思わせる・・・存在に・・・・


「お前も、会えば・・・わかるさ」


・・・必ず、出会い
そして、思い知ることになる


「眠れ・・・・もう少しだけ・・・・・」

 

そんな思いをこめて、俺はショーウィンドウに映る『俺』の顔に手を置き
そっと・・・・呟く



『いるわけがない、そんなヤツ』



皮肉気に顔を歪め消えていく『俺』を見送れば
突如として今までいつの間にか消えていた雑踏の音や喧騒が耳を突く

辺りを見回せば、やはり周囲は無関心を装った人ごみで
見慣れた新宿の風景だった



「・・・・白昼夢ってヤツか?」



思わず苦笑しながら呟けば、雑踏の中で己の名を呼ぶ声が聞こえ
俺は、さらに顔が一瞬ほころぶものの、すぐに己の手で隠し
声のする方へと体を向ける




(・・・・・いるんだなぁ、これが)




消えていった過去の己に向け、最後の言葉を胸中で吐き出し
『圧倒的な光』に軽く手をあげた・・・・



 



「トリノコシティ」 by 40㍍P ( sm11559163 )


 

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