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いつものように、伝言板チェックに新宿の駅へと向う
たくさんの人が溢れる通りには見知らぬ人もいれば、見知った人もいる
せわしなく動く人ごみに、軽くあいさつを交わしたりしながら
通いなれた道を進んでいると、ふとある言葉が目に飛び込んでいた
『あなたの夢は、なんですか?』
それはどうってことのない、ただの広告看板
なんの変哲も無い、看板に描かれていた文字に思わず足を止める
「・・・・夢?」
周囲の人が突然立ち止まったあたしを迷惑そうに避けていくの気づき
慌てて再び歩きだすも、あたしの中でさっきの言葉がぐるぐると回っていた
アニキが生きていた頃は、早くオトナになりたかった
オトナになって、アニキの苦労を少しでも取り除きたかった
でも、アニキが死んでからは・・・なんだかんだで目まぐるしくて
仕事が無くても、僚のバカを追い掛け回したり、喝を入れたり
どちらかというと、「生きる」ことに必死というよりも、「あの場所」に馴染むのに必死だった
「・・・・やっぱり無いか」
伝言板前に立ち、ため息をこぼす
今日も今日とて「XYZ」の無い伝言板を前にガックリと肩を落として帰るかと
回れ右をしようとした瞬間、「きゃぁーーー!!」という女性の悲鳴と
「まってよぉ、リョウちゃんとお茶しよー?もちろんその後はもっこりを~」と
間違いなく警官が飛んできそうな変態台詞を吐き出す馬鹿にピクピクと眉間に皺ができる
「あ・・・んのっ、もっこり馬鹿っ!!!」
瞬時にハンマーを召喚し、警察に渡される前にあたし自身の手で引導をわたしちゃるっ!!
決意を胸に、毎度のごとくもっこりバカを叩き潰せば
あたしの気配など毎度毎度わかっているくせに「ぎょぇええ」と馬鹿な声で潰れる男
そんな男に呆れの視線を向けつつ、「いい加減に懲りるということを覚えろっ!!」と捨て台詞を吐いて
あたしは僚を放っておいて改めて歩き出した
いつもならこのままキャッツで美樹さんに愚痴を聞いてもらうんだけど・・・
今日はいつもと違う道へと足を進める
歩きなれた新宿の街
けれど、滅多に歩くことの無い道を進みながら
ぼんやりと先ほどの文字を思い出す
「・・・夢、か」
昼間の賑わう公園で、空いているベンチに座り込みながらポツリともらす
周囲にはお昼休みのOLさんや、営業途中のサラリーマン、子供連れの親子もいる
それらの人々をぼんやり眺めながら、なんでかさっきの言葉が気になってしょうがなかった
「夢って言ったって・・・結構難しいのねぇ」
(欲しいものなら、それこそ嫌ってほどあるんだけどなぁ)
まず何よりお金よね、それで僚のツケを払って、公共料金とかも一斉に支払ってさぁ
いつも文句を言う、あのバカにお金に糸目をつけずにおいしいもの食べさせて
「おいしい」って言わせるのもいいわねぇ
なにより、贅沢って思えるような、ちょっとリッチな生活がしたいわぁ・・・
リッチって言っても暖房や冷房ケチらずに使う、みたいなのでいいんだけどさぁ
でも、タダでもらえるお金ってやっぱり嫌な感じよねぇ・・・だったら依頼の方がマシかも?
・・・けど、もっこり美女のヤツだと僚を監視するのがむずかしいし
夜這い防止に全力注がなくちゃいかんからなぁ
かと言って男の依頼はアイツメチャクチャ渋るし・・・・冴子さんの依頼はもちろん言語道断だし・・・
ということは・・・・女性で、もっこり美女じゃないもの・・・ならいいのかしら?
んー・・・でも、なぁーんでかアイツに来る依頼って8割が美女からなのよねぇ・・・
もっこり美女を寄せ付ける何か特殊な仕掛けみたいなものでもあんのかしらねぇ?
まぁ、お金ができたら・・・そうねぇ、なぁーんも考えずにのんびりするのもいいわねぇ
旅行とかも行ってみたいけど、なんだかんだで騒動が起こるし
だったら、たまには僚みたいにグータラ生活するのいいかも・・・
「けど、それってなんか・・・ストライキっぽくない?」
家事も伝言板も、ぜぇーんぶ放り投げての「お休み」・・・
たぶん、やれなくはないだろうけど、なんだかんだですぐに飽きちゃそう
んで、ふらふら外に出たら出たで、やっぱり僚を追いかけてそうだし・・・
・・・って、やだっ!?あたしっていつからこんな苦労性みたな性格になっちゃったのよぉー!!
「くそぉ、きっとなにもかもあのもっこり大将がいけないのよ・・・っ
アイツがもうちっとでもマジメだったりしたら、あたしだって・・・っ!!!」
何をしようにも常に「僚」という存在に阻まれてる気がして
つい苛立ち紛れに叫び・・・・思わずハッとした
だって、これじゃ・・・まるで「僚」が居るのが当たり前みたいじゃない
想像なんだから・・・あたし一人が満足すればいい話なのに
なんか、当たり前みたいに僚と一緒にいる自分を想像してて
これじゃ・・・これじゃ・・・まるで・・・・・
(あ・・・そっか・・・・あたしの夢は・・・・・)
真っ赤になった顔を抑えていた手をパタリと落とし・・・
全身の力を抜いて、ベンチへと寄りかかり、クスクスと笑い出した
周囲の人が変な目で見ているのはわかってる・・・わかってるけど、止められなかった
だって・・・・・あたしの夢は・・・・・
「なぁに不審者みてぇなことしてんだよ」
「・・・僚」
ひょっこりと現れた男に、あたしは思わずさらに笑みを深くし
さらにクスクスと笑えば、僚は「なぁんだぁ?」とさらに不審顔になった
「べっつにー、アンタの顔がおもしろかっただけよ」
「んだとぉっ、こぉーんなイイ男捕まえて随分なこと言ってくれるじゃないの、香ちゃん」
「どぉーこがいい男だ!3分しかマジメ顔できないヤツがイイ男なわけないでしょうがっ」
「フンッ!!リョウちゃんマジメ顔じゃなくてもイイ男だもんねっ!!」
「・・・アンタは一度じっくりと鏡と向き合うべきね・・・・さぁって、荷物持ちも現れたことだしぃ?
今日の夕飯の買出しにでも行きますか」
「オイコラ!だぁれが荷物持ちだっ!!俺はスーパーなんぞにいか」
「この前入ったレジ打ちの女の子、とーっても可愛かったのよねぇ
こう『守ってあげたいっ!!』って感じの、まさに僚好みってヤツ?」
「何をしているんだ香くんっ!!さっさとスーパーに行くぞ!今すぐに!!!」
「・・・・・・・・・・はははは、アンタってヤツは・・・本当に・・・・(呆)」
「ぐふふふ、まっててねぇ~wもっこりかわいこちゃぁ~ん♪」
前をはしゃいだ様子で行く男を呆れた顔で見ながら
僚に気づかれないように、あたしは、ゆっくりと笑みを浮べた
( あたしの夢は・・・ずっと、こうして過すこと、僚と一緒に、生きること)
「おーい、なぁにしてんだぁ?さっさと行くぞぉ」
「あ、ハイハイ、今行くってばっ!!」
離れた場所からあたしを呼ぶ声に返事をして
あたしは、僚に向って走り出した
fin
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