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夜の街を一人歩く
特段変わったことはない
酒を飲んで、女とドンチャン騒ぎをして、時に抱いたりして
そして一人、根城にしているアパートへと帰る
何も変わったことなどない、普段どおり、いつものこと
ただ・・・アパートに帰る前に寄る場所以外、は
目的の場所が近づけば、自然と加えていたタバコを消し去り
己の気配を自然と消す
新宿からわずかに離れた住宅地、アパートのある方向とは正反対の場所
早朝とも深夜とも判断できぬ時間、俺はその場所を目指す
目に入ったのは、決して新しくない小さなアパート
うちのボロアパートよりは多少マシだが、結構いい勝負だと思う
そのアパートのとある一室を見つめ、俺は小さくため息をついた
「また随分とお早いことで・・・・」
まだ寝静まっている住宅街の中で、数少ない灯りが灯った部屋
その灯りの中を、時折カーテン越しに誰かが動き回るのが見える
早朝とはいえ、無用心じゃないのかと眉間に皺を寄せつていると
わずかに窓が開き、一人の女が顔を出してきた
女はしばらく周囲を見回すものの
特に異変は無いと判断したのか再び部屋へと引っ込み、カーテンを閉めた
そんな女の様子を影から眺めながら、俺はわずかに口角をあげる
(・・・・今日も変わらずってところだな)
一瞬窓から顔を出した女は・・・香
香は俺の元を離れたのは、約1年前
きっかけがなんだったのかは、はっきりしないが
香が唐突に、俺に「パートナーを解消したい」と申し出てきたのがそもそもの原因だ
『別に・・・・いいんでないの?』
緊張し、張り詰めた雰囲気の香に、俺はなんてことないように
その申し出を受け入れた
『・・・・そう、ありがとう』
香は俺の応えに、落胆とも安堵とも言えぬ表情した後
そう時間をかけずに、アパートを出て行った・・・・
それ以来、俺と香は直接会っていない
だが、俺はこうして香を影から見守っている
いくら表に返したからといって、香の身に危険が無いわけではない
香がシティーハンターのパートナーであることは裏の世界では浸透しきっていた
俺をおびき出す餌としてまだ香は使えると判断されれば、香の身に危険が及ぶ
原因が俺である限り、香の目の前に姿を現せずとも
こうして、影からアイツを見守り、守ることは俺の義務と言っていい
それこそ・・・・俺の命が尽きるその瞬間まで
俺はこの行為を止めるつもりは無い
しばらく、香の部屋を眺めていたが、特に変わった気配も無さそうだし
そろそろ帰るかと、香の居るアパートに背を向けた瞬間、
俺は馴染んだ気配を感じ取り、動き出していた足が止める
「・・・・・どうして、居る、の?」
振り返った先には、パジャマの上に軽く上着を羽織っただけの姿で
白い息を吐きながら俺を見ている・・・・アイツが、香がいた・・・・
「なんでアンタが、ここにいんのよ・・・・僚」
「たまたま通りかかっただけ・・・って言ったら、おまぁ信じる?」
近くで見てわかる、わずかにコケた頬、伸びた髪
それでも、まっすぐに俺を見てくるその目は変わらなくて
なんとも言えない、痛いみにも似た甘いソレを誤魔化すように軽い口調で返した
「ここは・・・歌舞伎町でも、アパートのある方角でも無いんだけど」
「仕事関係・・・とは思わんの?」
「こんな住宅地のど真ん中で?」
「依頼人がこの近くでな、ぐふっ、これがすっげぇもっこりちゃんでなぁ~♪
リョウちゃん張り切って下見に来たってわけ」
「嘘、依頼人がいたとしても、こんな時間に普段動かないじゃない
しかも徒歩なんて・・・・バカにするのもいい加減にして」
さすが元パートナー、よくわかってらっしゃる
確かに下見やら何やするとき、俺は顔を隠す目的もあり車で動くことが多い
徒歩だとしても、もうちょっと人目のある時間を選ぶ
「よくわかってるじゃねぇの」
と賞賛と嫌味を込めて、そう軽口を叩こうと口を開きかけてたが・・・寸前止めた
「なぁんで、おまぁはそんな顔するわけ?」
「・・・・どんな顔よ」
「今にも泣きそうなブッサイクな顔」
俺たちは決して近い距離で向き合ってるわけじゃない
手を伸ばしても届かない距離
薄明かりの、静かな住宅街のど真ん中だ・・・はっきりと見えない部分も多い
だが、俺の目にははっきりと・・・・今にも泣きだしそうな香の表情が映っていた
「アンタが・・・・バカだからに決まってんでしょ」
「・・・・ボクちゃん、何かしたっけ?」
「白々しい嘘は止めて・・・・・・・それとも、あたしのこと舐めてるわけ?
・・・・アンタがあたしを見てたことに気づかないと本当に思っんの?」
香の言葉に、一瞬だけ体が固くなる
確かに、いくら香が気配に対してさほど敏感でなくとも
俺が気配を消していようとも・・・・1年もあれば、何かしら感じてもおかしくはない
特に香は第六勘ってヤツがよく働く傾向があるからな・・・・
薄々バレてるんじゃないかってのは・・・なんとなくわかってたさ・・・
だが、そうわかってて香の前に出なかったのは・・・・今の香が物語っている
香は、泣きそうな顔してるくせに俺を鋭く睨みつける
そんな香の表情に、俺は背筋が一瞬ゾクっとするのを押さえられなかった
(・・・だから、コイツと正面から向かい会いたくなかったんだ)
俺はたぶん、香の目に弱い
言葉よりも、態度よりも、真っ直ぐに見つめてくるこの目に、雄弁に語るソレに
一番最初の出会いのときもそうだ
腰を抜かして呆然としてたくせに、俺から一瞬たりとも目を離しやしなかった
・・・・コイツは、どんなときでも、俺をしっかりと見てき
だからこそ、俺はこの香の「目」が苦手なんだ
俺の偽りも、嘘も、醜さも見抜いてしまうのではないかと思わせるほど澄んだ、その目が
「ねぇ・・・・あたしは、僚から離れても・・・僚の迷惑にしかならない?お荷物のまま?」
「香・・・・?」
「あたしは・・・いつまで、僚を縛ってるの?僚はいつまで、あたしに縛られ続けるの?」
香の言葉に俺はわずかに眉を寄せるも、
それ以上に香は、怒りとも、悲しみと、困惑ともわからない表情で
あの大きな目を揺らす
今にも零れ落ちそうになる涙を堪えるような素振りを見せながら、俺を捕らえる
「どうすればいいのよ・・・あたしは僚をこれ以上縛るのが嫌だったから、迷惑かけたくなかったから
こうしてアンタの傍から離れたっ、パートナーを解消したのっ!!
けど、僚は今、こうしてここにいる・・・・あたしは、僚の傍を離れたのに・・・・
これじゃ・・・・なんの意味もないじゃないっ!!!」
「香、いいから落ち着けっ」
香の叫びは、決して大きなものではなかったが
それでも、寝静まった住宅街の中でよく響き
俺は香を落ち着けようと香に近づいた・・・が、その瞬間
香のほうから俺へと抱きついてきた
「・・・・・あたしがいなくならなきゃ、僚は、解放されないの?」
「お前・・・何、言って」
「アタシは・・・僚を解放したいの、あたしから、アニキから・・・・もう、苦しむ僚を見たくなかったっ
アニキに頼まれたからって名目で、預かりものとして見られたくなんてなかったっ
けど、それは無理だから・・・できないってわかってたから・・・だったら、全部から解放してあげようって
そう思って・・・・アンタから離れた・・・・なのにっ」
俺にしがみつく香を、俺は抱きしめていいのかわからなかった
抱きしめれば、たぶん俺はコイツを、香を再び手放せない
だが、香が望むようにコイツを放っておくこともできやしない
(それは・・・香が俺の元パートナーで、槇村からの預かりもの・・・だから)
-----本当に、それだけか?
違う、俺は・・・俺は・・・そうじゃない
本当は、そんなんじゃない・・・
こうして香を見てきたの・・・見続けたのは・・・・
「ねぇ・・・僚が望むなら、あたし東京を離れるよ・・・・田舎にでもいってひっそり暮らす
なんだったら整形だってしていい・・・・だから、もうっ」
「なんで・・・・そこまですんだよ」
香の発言を遮るように、無意識の内に声が出ていた
「・・・りょう?」
「お前は・・・・俺からそんなに、離れたいのか?」
放したくなかった
手放したくなかった
それでも、手放して・・・手放すしかなくて
だがそれでも、繋がりが切れるのが嫌で
なんだかんだと理由をつけて、香を見続けてきた
香の安全を大義名分にして、香を見続けてきた・・・
これ・・・ある種、ストーカーよりもタチが悪ぃんじゃねぇの?
自分の自己満足のためだけに・・・・俺は、この1年、ずっと香を見続けてきた
触れられなくても、声が聞こえなくても、微笑が向けられなくても、
ただ・・・香の存在を確かめたかった
「・・・りょ・・・う?」
「お前は、お前自身は・・・・
俺から離れたくて離れたのか?それとも、本当は離れたくなかったのか?・・・どっちだ?」
「そ、それは、あたしのせり」
「いいから、応えろ」
香に触れることなく、ただ視線だけで促そうとしたものの
声が厳しいものへと変化する
そんな俺の態度に香が一瞬体を強張らせたのがわかり
なんとか「応えてくれ」と声を和らげ、促す
すると、再び香の目が揺れ・・・そして・・・・
「あたしがアンタから離れたいって・・・一言でも言ったこと、ある?」
ぎゅっと俺の服の裾を掴み、顔を伏せて言う香に・・・
俺はただ、黙って目を閉じた
確かに、香は「パートナー解消」や「出て行く」という言葉を言ったが
一度も「俺から離れたい」という言葉は言わなかった
むしろ、その目は・・・いつも揺れていた、止めてほしいと言うかのように何度も・・・
そして、それを見ないフリをしてきたのもまた、紛れも無い俺自身だった
・・・・だがな
「それを言うなら、俺も言った覚えはねぇな」
「・・・・・・で、でもっ、」
「なぁ、香・・・・・なんで、お前・・・直接俺に言わないんだ?」
「そ・・・それは・・・・で、でも、僚は何も聞かなかったじゃないっ!!」
そうだ、俺は何も聞かなかった
香がパートナーを解消すると言ったときも、アパートから出て行くそのときですら
何も聞かなかった・・・・
いつからだろうか、コイツとは言葉を交わさなくても、なんとなくわかりあえるようになっていたのは
目を見れば、態度を見れば、なんとなくわかっていた
それはパートナーだから、という一言に纏められるものじゃないが・・・・だが、いつのまにか
その感覚にお互い甘えていたのかもしれない
香なら、分かってくれる
香なら、理解している
香なら、こう考える
香なら、こういう風に動く
言葉にせず、感覚だけで決めてきた部分がいつの間にか多くなっていた
だからこそ、傷つける言葉こそ言えど
喜ばせる言葉や、重要だと思える言葉をいくつも飲み込んできた
それは・・・・俺だけじゃなく、香もだったらしい・・・・
お互い意地っ張りで、肝心なときに口下手だから
こういう感覚に頼って、勝手に理解したフリをして、考えて・・・・そして、自己完結した後に生まれたひずみ
「俺は・・・・お前が俺から離れたいのかと思った、
表に帰りたいんだと、そう思ったからあのとき承諾した
・・・お前が望むなら、それが一番だと思ったからだ」
「・・・・っ」
香が何かを言いかけ・・・そして、口を閉じた
俺はそんな香を見て、そっと頭に手を乗せた
こうして向き合えて・・・ようやくわかった気がするよ
誰が悪いわけじゃない
お互いがお互いを気を使いすぎてできた結果が、コレだ
香一人を責めるつもりなど、毛頭無い
・・・・だが、まさか気づくのに1年かかるとは・・・・ったく、どんだけ俺ら不器用なんだぁ?
「じゃぁ、僚は・・・・あたしを、どう思ってるの」
「あ?」
「アニキから託された妹?不出来なパートナー?・・・・でも、そうじゃないとしたら、僚にとってのあたしって、何?こうして隠れて守ってた理由って何なの?」
「そ・・・それは・・・だ、な」
真っ直ぐな目で言葉で俺を見てくる香に、今更ながら俺はたじろぐ
ここまで来たのなら、もういっそ全てぶちまけてやればいいと思う・・・んだが
そう簡単に行くほど俺も変われるはずもなく・・・・
しかも、徐々に陽が明けてきた住宅街では、人の目も多少なりとも気になり始めた
(さ、さすがに、この場所、この状況で何もかもぶちまけろというのは・・・・
ある意味ムチャがすぎる・・・よなぁ?)
「それは・・・・?」
「・・・・おまぁの部屋でコーヒーでも飲ませてくれるんだったら、まぁ・・・・教えんでもない、か・・・な?」
「は・・・はぁ~?」
「ま、まぁ!ホラあれだ!場所移そうってことで!な!僚ちゃんもこのままじゃ風邪引いちゃいそうだしー」
「場所移すってっ!!・・・・・・っ、・・・・ま、まぁ・・・・そう、かもね」
香も徐々に周囲に人の気配が出始めたことに気づいたのだろう
顔をわずかに赤く染め、俺から少し離れると、「コホン」とわざとらしく咳をして
「それじゃ、お望み通り・・・・とびっきりのヤツ、いれてやろうじゃないの」と言って歩き出した
「とびっきり・・・ねぇ」
背を向ける香に、苦笑しながら俺もゆっくりと香についていくが
ふと、明るさを増していく空を見上げた
(なぁ・・・・槇村よ、どうやら俺は・・・お前の望むようにはできなかったわ・・・悪いな)
遠くから、影から、ただ香の幸せを、表での安全な生活を香に送ることは
どうにも自分には無理だと、胸中で呟きんがら苦笑する
(香から逃れることなく向かい合っちまった時点で、ある種覚悟はしてたんだがな・・・
けどな・・・こういう『すれ違い』の結果なら・・・今度はちゃんと軌道修正してぇんだよ)
香が「迷惑だ」と言うのなら、今度こそ姿を消そうと思っていた
「二度と会いたくない」と言うのなら、その通りにしようと思っていた
だが、そうではなかった、アイツは俺を見限ったわけではなかった
「俺から離れたい」という思いから、俺の元を去ったわけではなかった・・・・だから・・・・
(今度は・・・次こそは、こんなことになんねぇように、しても・・・いいか?)
「僚っ!何してんの?早く上がって来なさいよ!」
「おぅ、今行くわ」
(もう・・・・・2度と、コイツを手放しはしないと、お前に誓うよ・・・槇村)
胸中で、親友へと誓いの言葉を述べながら・・・
俺は香に返事をすると、空から視線を戻し一歩一歩踏みしめながら
香の待つ場所までゆっくりと歩いていった・・・・・
Come back to me by m-flo
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