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夢想歌

 

「んー・・・・っ!!今日も寒い~~~っ!!けど、久しぶりのいい天気ねぇ」



すっかり風が刺すような冷たさを持ち始め体を震わせる
それでも、この寒さと、吐く息の白さで、あぁ、冬だなぁと実感する
洗濯機から出したばかりの洗濯物は冷たくて、指を何度もさすりながら
なんとか全部干し終わり、「ふぅー・・・」と大きく溜息をつく



「ここのアパートの数少ない利点といえば、この屋上よねぇ
大量の洗濯物も一気に乾かせるんだもの、助かるわぁ」



大量の洗濯物が風に揺られはためく姿を見ながら、あたしは自然と笑みが浮かぶ
かつて兄と住んでいたアパートのベランダはとても狭くて
少し雨が続くと洗濯物が大量にたまり、干すのにずいぶんと苦労したのを今でも覚えてる



「でも、あの窓から見る景色も嫌いじゃなかったんだよなぁ」



あの窓から毎日誰かが帰ってくるのを楽しみに待っていた
小さいころは槇村の父を、少し大きくなってからはアニキを
大きくなるにつれ恥ずかしくてやめてしまったけど、時折、アニキが早く帰ってくるとわかった日は
隠れてあのベランダから覗いてたなぁ



「・・・ま、アニキにすぐ見つかってたんだよねぇ」



待ってたこと、見ていたことが妙に恥ずかしくて
「た、たまたま窓のぞいてただけだしっ!」って誤魔化したんだよねぇ
でも、実際基本外で走り回ってたことが多かったけど、部屋の中ではあの窓のそばにいたし
間違いじゃないわよね、うん


なつかしい思い出に妙にほんわかした、けれど、どこか切ない気持ちになりながら
バタバタと洗濯物がはためくのを見ながら、あたしはそっと視線を上にむけた
あの窓から見る景色はどれもそれぞれ綺麗にあたしの目に映ったけど
その中で特に好きだったのが・・・こうやって綺麗に晴れた青空だった


春も、夏も、秋も、冬も、どの青空もそれぞれの味があって
とてもとてもきれいで、吸い込まれそうで
アニキに「あのソラとおなじ色のえのぐがほしい!!」なんてねだったことさえあったなぁ
で、アニキは水色のえのぐをくれたんだけど「ちがうもん!!この色じゃないもんっ!!」って
あたしがダダをこねはじめたら、アニキめちゃくちゃ焦ってたのよねぇ、あのときの顔ったらなかわぁ



「ふふふ、あたしって結構アニキを困らせてたわよねぇ」


「あー・・・そうだよなぁ、毎日毎日お転婆だなんだって愚痴ってたなぁ」


「そうそう!・・・って、僚!!?」



普段だったらあたしが起こさない限り滅多に起きてこない相棒に目を見張れば
僚はさも眠いといわんばかりの仏頂面で「・・・腹減って起きたんだよ」と呟いた



「珍しいわねぇ、いつもならそれこそどんなに朝ごはんの匂いさせても起きないくせに」


「しょうがねぇだろうが、現にこうして起きちまったんだから・・・んで、カオリンは一人でなぁーに思い出し笑いしてるわけ?」


「べ、べつに変なことじゃないわよっ!ただ、あたし小さいころからアニキの手を焼かせてたなぁって」


「あー、例の武勇伝ね」


「・・・・・・武勇伝?」



僚の言葉にあたしは思わずオウム返しに尋ねれば、「聞きたいか?」と僚はニヤリと笑みを浮かべて
手の指を折りながらとんでもないことを話し始めた


「まず、本物の空みてぇな色のえのぐがほしいってぐずっただろう?
次にあの空に落書きできるようなでけぇ筆かペンがほしいって言い出したよな?
あぁ、虹が出たときは麓(ふもと)に宝物がある聞いてって目を輝せて出かけて
迷子になったんだっけか?あとはー・・・」


「わぁああああ!!わぁあああっ!!ストップストップストーーーープ!!」


とてもじゃないけどそれ以上聞くことなんてできなくて
あたしはあわててそれ以上しゃべれないよう僚の口を両手でふさいだ

自分でも忘れていたような出来事まで言われて思わず顔から火がでそうになる
ていうか、すでに真っ赤よ!!今にも体から火が出そうだわっ!!
けど、そんなあたしの内心など知らないとばかりに、僚はあたしの手をどけると
「んだよ、まだまだあるくせに」と妙に不満顔をしてみせた


「まだまだないわっ!!あっても言うなっ!!な
ていうか、なんでアンタがそんなこと知ってんのよっ!!」



あたしもあたしで、僚以上のしかめっ面をしてみせてとすごんでみせれば
僚はさも呆れたといわんばかりの顔で
「槇ちゃんだよ、ていうか槇ちゃんしかいねぇだろ」って言ってのけた



「槇村はなぁ、アイツの話題はおまぁしかねぇのか?ってぐらい、プライベートの話になると
「香はー、香はー」っておまぁの話ばっかすんの
しかも昔話だけならまだしも、『最近の香はー』って近況まで言い出すんだぞ?
それに俺が、どんだけシスコンだよってツッコミをいれても
『これぐらい兄妹なんだから当たり前だろ』ってシレって言ってのけるんだよ、アイツは」


「・・・・・あ、アニキ・・・・(ガックリ」


僚の口からでたまさかの事実に、あたしは思わず空をあおぎ、手で顔を伏せた
それだけ思われていたということなんだろうけど・・・
アニキ、なんでよりによって僚にそんな話するんのよ・・・・
ていうか、最近のものまで・・・・アニキ、なにもそこまでしゃべらなくても・・・・
もう怒っていいのか恥ずかしがっていいのか、それとも呆れたらいいのか
どうしたらいいのか自分でもわからず、複雑怪奇な表情をしてるとン
ポンと頭に大きな手が乗ったことに気づき、視線を挙げた


 

「でな、酒が入るとアイツ毎回毎回 『本当に・・・・アイツは俺にはもったいないくらいのいい妹だよ』って
いうわけよ、しかも嫁に出す父親みてぇな顔してんの」



「どうしようもねぇアニキだろ?」と言う僚は、その言葉と裏腹にやけに優しい表情をしていて
あたしもあたしで、僚から語られたアニキのセリフに、ちょっとジーン・・・ってしちゃって
なんとなく気恥ずかしくてそっぽをむきながら「アニキってば、何いってんだか」とつぶやいて見せた


そんなあたしの頭を僚は乱暴にクシャクシャと撫でると
「んじゃま、そろそろ部屋もどろーぜ?リョウちゃんもうおなかへって死にそー」と軽口をたたき
さっさとアパートの中へと戻っていった


その姿をあたしは見送ると、もう一度だけよく晴れた冬の青空を見上げ
「アニキ、あたしにもプライベートってもんがあるんだぞ?」とちょっと憎まれ口をたたいた後
バーンっと指で銃を撃つマネをしてから、ニッと笑うと
僚を追いかけるようにアパートの中に入った




今日、もし依頼が入っていなかったら
久しぶりに僚と二人でアニキのお墓にいくのもいいかもしれない
そして、アニキに言ったように僚にも強請ってみようかな


「虹の麓(ふもと)までドライブ、っていうのも、なかなか洒落た誘い文句よね?」



僚はいったいどんな反応をするのかちょっとワクワクしながら
あたしは軽快に階段を駆け下りたのだった











夢想歌 song by Suara


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