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大スキ!





 

 

 

 

数日前に依頼を完了し、しばらくはゆっくりするぞ!と言い出した僚に
あたしは「ドライブに行きたい!」とねだってみせた
最初は案の定面倒だなんだとごねた男を、ハンマーこんぺいとうで脅しに脅しをかけて
ようやく外へと連れ出した


「どこに行きたいんだよ」という僚の言葉に、あたしはほんの少しだけ首をかしげた
目的地なんて特になかったのだけれど、ただなんとなく「海が見たいな」と言って見せた
春の日差しがようやく感じられるこの時期に海というのも変な感じがしたけれど
それでも、他に行きたいところが思いつかなくて、「うん、やっぱり海ね」と言えば
僚は「りょーーかい。」とだけ言って車を発進させ、あたしたちは海へと向かった


東京の濁った海じゃない、関東にあるとある海水浴場
もちろんこの時期に海に来てる人なんて皆無で、せいぜい近隣の人たちが散歩にきてるか
サーファーが波乗りに遊びにきてるくらい
僚の喜びそうなもっこり美女のいない場所に、僚はつまらなさそうな顔をしてみせたけど
あたしは特に何も言わずに、車に僚を残して砂浜へと降りた


春の海は、よく知っている夏の海とはまた違う姿で、妙にわくわくした
冬の余韻を残す冷たさを感じつつも、温かい日差しのおかげでそこまで外にいるのがつらくない
ゆっくりと波がかからないよう気を付けながら海辺を散歩していると、
クーパーによりかかりながらタバコを吸っている僚の姿が見えた


「黙ってればかっこいいのに・・・」


海をぼんやりと見ながら、タバコをふかす僚の姿はなかなか絵になっていて
あたしは指でフレームを作って覗いてみた

 

「いっそ、この中に入ってくれればいいのに」

 

そうすれば、もう僚が他の女性に目がいく姿を見なくて済む
あたしだけが僚を見れる、あたしだけの僚になってくれるのに・・・・

 

「・・・・ま、無理な話よね」

 

指のフレームをほどけば、一瞬のまやかしが解けたかのようにあたしは自嘲的な笑みを浮かべ
僚に背を見せるように海へと向き直った

 

「僚はこの風や海みたいに捕まえることなんてできないし・・・・捕まえちゃったら、僚じゃなくなっちゃうもの」

 

自由気ままに生きる男をこれ以上束縛することなんてできるはずがない
こうしてあたしのワガママを聞いてくれるのだって、たぶんアイツからしたら
結構な譲歩だと思うし・・・・


自由で、つかみどころがない、誰のものにもならない
そういう男だとわかっていて・・・あたしは、アイツを好きになってしまった

 

「男を見る目ないわよねぇ、アニキが生きてたら泣くわ」

 

くすくすと笑いながら、あたしは誤魔化すように再び波打ち際を歩き出した
そして、ちょっとだけ首を横にしてアイツの姿を視界に入れる
もうそろそろタバコは一本吸い終わる頃で、「帰るぞ」なんていう声がかかるかもしれない
自由で気ままなアイツは、きっとこれ以上のワガママなんて聞いちゃくれないだろうから
あたしもあたしでやり残しが無いように、ぐるりと周囲を見渡し・・・・そして、一本の枝を見つけた

 

「・・・・・ふふふ、一度やってみたかったのよね」

 


あたしは枝を戸惑うことなく拾い上げると、砂浜にガシガシと文字を書き始めた


リョウのバーカ もっこり魔人 変態 ぐーたら男・・・・


書いていくどれもこれもが僚の悪口ばかり
でも、それもあっという間に波がかき消してくれる
まるで無限に続くノートのようで、あたしはさらに僚の悪口をこれでもかっ!!と書いていく

 

「おーーいっ!いい加減帰るぞーーーー」

 

予想通り、帰りの催促の声にあたしはまだ物足りなさを覚えつつも「はーい」と返事をし
僚のもとへと向かおうとした・・・けれど、すぐにまた海へと戻り
最後に・・・と再びガシガシッと文字を書き始めた


「ふふふ、でーーきたっ!と・・・」

 

最後の力作に満足気に笑うと、あたしは今度こそ僚のもとへと駆け出した

 

 


「なぁに海に落書きしてたんだ?」


「んー・・・そうねぇ、いろいろ書いたけど、だいたいがアンタへの愚痴ね」


「そんなの毎日のように美樹ちゃんに言ってんじゃねぇの?」


「それでも足りないのよ!!だいたいアンタはね!!」


「うげ!!藪蛇?・・・ま、まぁまぁ、カオリン!どこかで飯でも食って帰ろうじゃねぇの?な?」


「・・・・ったく、しょうがないわねぇ、もちろんアンタのおごりだからね?」


「へいへい、ったく、わがままなお嬢さんだこと・・・」

 


肩を落として車へと乗り込む僚に、あたしはニッと勝ち誇った笑みを浮かべたあと
最後の見納めとばかりにもう一度海へと視線を向け・・・そして
先ほど浜辺に書いたセリフを、声にはださず口の動きだけで紡いだ

 

 

『大好きだよ リョウ』

 


言葉にならず紡いだソレは潮風に流され
砂浜に書いたソレもまた、波がゆったりと攫って行った

 

fin




song by 広末涼子

 


 

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