アレはまさに爆弾だと、俺は思っている
ちょっとしたことで、アイツはすぐに爆弾に火を着火させやがる
みるみる内に真っ赤になったかと思えば、あっという間に爆発する
しかも爆発タイミングはランダムときたもんだ
俺が目を離した隙に爆発して、暴走する、なんてことはそれこそ数えきれんほどの前科がある


さらにややこしいことに、爆発の種類もいろいろ違ってきやがる
ハンマーやらこんぺいとう、さらにはバズーカ、なんつー恐ろしいもんに手を出すときもあれば
無視、シカト、飯抜き、という心理戦をしかけてくることもある
基本単純だからな、だいたいの予想がつくんだが
・・・たまにとんでもない大暴走もやらかしては俺をひやひやさせる

 

本当に、とんだ爆弾を預けられたもんだ、と何度かつての相棒に愚痴ったことか
ま、その爆弾を誰よりも大切に扱ってきたヤツに何を言っても無駄だろうがな
 

おかげで俺の一人の気ままな生活が一変しやがった
一人でいることが当たり前だった時間に、当たり前のようにあいつがいる
ふらふらしている俺の尻を叩いてはガミガミと小言を言い
茶々を入れれば雷が落ちる
文句を言えば、アイツもすぐさま反論してきて、口喧嘩に発展しては、最終的にはハンマーでつぶされる

まったく、たまったもんじゃねぇ
俺は誰にも縛られず、自由気ままに生きるって決めてんだよ
なのになんなんだよ、やたらめったらバンバン爆発しやがって
どんだけ爆発すりゃ気が済むんだアイツは！！

 

今まであれば、爆弾を背負ったヤツは誰しもが爆発した後に俺のもとを去っていった
それに対して俺は引き留めることなどせず、黙って手を振り見送ってきたというのに
あいつは、香だけは、何度も何度も飽きることもせず爆発しては、俺のもとに留まり続けている

 

・・・・つまり、なんだかんだと香は俺を許している

 

俺がどんなことをしても、怒り、悲しみ、苦悩し、結果暴走という名の爆発を引き起こしても
アイツは今も俺の隣に居続ける
ぶつぶつ文句を言ったとしても
説教をしようとも、変わらずそばにいる

しかも、しかもだ！爆発して、エネルギーをこれでもかっ！！と発散させると
あろうことか、俺に向かってスッキリとした笑みを見せやがる
まるで今までの爆発などなかったかのように、サッパリとした晴れやかな笑みを、だ
・・・ある意味その笑顔が一番の曲者なのかもしれん
自分の本能に忠実な俺としては、だ
いつでもどこでも優先するのは「俺自身」で、気に食わない、もしくは離した方がいいと判断すれば
それこそどんな手段を使っても相手を遠ざけてきた・・・というのに

あの笑みを見ちまうと、俺も俺で、なんつーか、もうどうでもよくなっちまうというか
俺も俺で、香を許しちまうというか・・・まぁ、俺のそばに居させちまうんだよな

 

「本当に、手のつけられんじゃじゃ馬爆弾だよ、お前は」

「へ？なんか言った？」

 

ポツリと夕食時にこぼした言葉に、香は首をかしげる
・・・外見はすっかり「女」にも関わらず、仕草や言動はまだまだガキっぽさを残す女に
俺はわずかに目を細めた

「いんやー、相変わらずまずい飯だなぁって言っただけ」

「んなっ！！嫌なら食うな！嫌なら！！」

「しょーがねぇだろが、このマズイ飯しか食うもんがねぇんだから」

「・・・アンタってヤツは、毎回毎回全部食べておきながら・・・なんでそういうことしか言えんのかな！？」

「だってぇー、リョウちゃん根が正直なんだもーん」

 

わざとしなを作りながらオチャらけて言えば、香の額にピキッと青筋が浮かび上がる
「ほんっと、コイツってば単純だねぇ」と思うと同時に、すっかり慣れ親しんだ重い痛みが全身を襲う

「嘘つけ！！アンタが正直者だっつーなら、世の中の大半が正直者になって、犯罪なんざおこんないつーの！！
ったく、ご飯ぐらいもっと気持ちよく食べさせなさいよね」

パンパン、と手をはたきながら再び箸を持ち「ほら、アンタもいつまで潰れてんのよ、さっさと食べちゃいなさい」と
何事もなかったかのように言う女に、俺はハンマーの下でひっそりと笑みを浮かべた

 

（・・・・ま、最近だとコイツをからかうのがおもしろいつーのもあるんだけどな）

 

元相棒の忘れ形見で、とんでもない爆弾を持った女に対して、俺も俺でいつの間にかほだされちまったのなと
苦い笑いにも似た笑みを浮かべながら、俺はのそのそとハンマーの下から這い出て、再び香の用意した夕飯へと手を伸ばした