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もともと捻くれた性格だっていう自覚はあった
素直、なんて言葉とはとんと縁が無い
天邪鬼だと知人連中に呆れの溜息を吐かれようとも、何も感じはしなかったが
ここ数年の間に、この性格を何度となく恨めしく思うようになっていた
『なんだよ、色気づきやがって・・・せめてもっとマシな恰好しろよなぁ~』
『やっぱりそういうのはもっこり美女が言ってなんぼだろ!!たとえば、ギャラクシーのミレイちゃんとか!!』
『やぁーっぱ、麗華はいい腕してんなぁ、なによりあのスタイル・・・ぐふふふ』
彼女の容姿はもちろん、言動に関しても、素直に褒めるなんて芸当なんざできるはずもなく
誤魔化し、ふざけては道化を演じて、彼女の怒りのハンマーを喰らう
大抵、それでアイツもスッキリした顔をみせるんだが、時がたてばたつほど
俺のそういった態度がアイツを傷つけるようになってきた
最初はかすり傷程度だったものが、擦り傷となり、切り傷となり
最悪、見えない場所に打ち身を喰らわせたことさえあった
そして、あまりにもダメージがでかかったり、アイツの精神状態が弱っていたりすると
ほんの一瞬、アイツはとても悲しそうな目をするようになった
『やっぱり・・・似合ってない、よね・・・』
『なんで、他の女性(ひと)と比べるの?』
『どうして・・・あたしを見てくれないの?』
言葉にしなくても聞こえてきそうなセリフに
俺はいつもいつも聞こえないフリをしてきた
我関せずを決め込んでは、ナンパや夜の街に繰り出して誤魔化し
そのタイミングさえも逃せば、今日のように道化を演じたまま自分の部屋へと逃げ込む
「・・・・あんな顔、させたいわけじゃないんだけどな」
この言葉を自然と口にするようになったのはいつからだったのか
酒におぼれて零したのが最初だったのか、それとも、こうしてふて寝したベットの上だったか
いつだって笑っていてほしいと思うのに、この口はいつも彼女を怒らせることしか言わない
喜怒哀楽がはっきりしているくせに、やけに痛みに耐えるクセがある女を
この手で、傷つかないように大切に守っていこうとさえ思うのに、行動はいつも真逆
甘い言葉を言えば、あの顔は朱に染まるだろう
優しい言葉を言えば、照れながらもはにかむ笑みが浮かぶだろう
ほんの少しでもこちらから触れれば、訝しみながらも嬉しそうに寄り添ってくるだろう
抱き寄せれば、石のように体を固くしながらも、おずおずと細い腕が伸ばされるかもしれない
少し考えただけでも、アイツが喜びそうな行動が浮かぶというのに
わかっていても、俺はそれらの言動を言うことはおろか、行動に移すことすらできない
「・・・・笑っていてほしいだけなんだがな」
願うのはいつもそれだけだというのに、現実はなぜこうもうまくいかないのか・・・
自分自身に嫌気がさしつつも、俺は思考をシャットアウトさせるかのごとく目をつぶり
目の前の現実から逃れるように夢の世界へと旅立った
『・・・・・りょう?・・・・ねぇ、僚?』
くすくすと笑いながら俺を呼ぶ声に目をゆっくりと開ければ、そこには香の姿があった
いつものようにシンプルなシャツとジーンズの恰好をした香
色気なんざ出しようのない恰好なのに、そのシンプルさが逆に香らしくもあり、結構嫌いじゃない
「なんだ?どうかしたか?」
『ううん、なんでもない・・・・なんとなく、呼んでみただけ』
「・・・そうか」
くすくすと笑みを浮かべつつ言う香に、普段であればそっけない態度を取るなり皮肉の一つも吐くところなのだが
なぜか俺はそういった行動を取らずに、逆にそんな香の髪へと腕を伸ばし、ゆっくりと撫でてみせた
すると、まるで猫がじゃれつくかのようにすりすりと俺の腕にすり寄ってくる
(・・・・夢の中なら、素直になれるのにな)
すり寄ってくる香を見ながら、ひっそりと苦笑を浮かべる
現実ではできないことも、この『夢』という非現実的な世界なら、なんとの躊躇いもなくできてしまう
俺が望んでいる笑みを、ずっと浮かび続けさせてやれる
「猫みたいだな・・・」
『・・・・嫌だった?』
「いや・・・ただ、俺的にはこっちの方が好みってだけの話」
そう言ってすり寄ってきた香を自分の胸へと抱き寄せれば、香はわずかに目を見張ったものの
今度は俺の胸へとほほをすり寄せてきた
「・・・随分と、今日はまた甘えてくるのな」
『・・・・・・こんなあたしは、嫌?」
素直な感想を漏らせば、いささか香が不安そうな顔で見上げてくる
夢だというのに、その不安に揺れる瞳がやけに現実的で、俺はわずかに眉を寄せた
「おまぁは、俺が嫌いなヤツにこんなことすると思うわけ?」
『・・・・思わない、けど』
「なら、気にしなくていいんじゃねぇの?」
これ以上不安に揺れ動く瞳を見たくなくて、より一層強く抱き寄せ、香の頭に顎を乗せた
こうすれば自分の顔を香に見られなくて済む
夢とはいえ、やはり多少なりとも気恥ずかしさはある
・・・・なにより、夢という幻であるとわかっていても、あの目をした香と対峙するとどうしていいかわからなくなる
「なぁ・・・おまぁは、嫌じゃねぇの?」
ふと、口からでた疑問に、香よりも俺自身のほうが驚いた
いくら夢とはいえ、こんな弱気とも取れる発言がでるとは・・・俺もヤキが回ったのかねぇ?なんて考えていると
トンッと俺の胸を香が押してみせた
『僚は、あたしが何とも思ってない人に、こんなことされて黙ってると思うわけ?』
いささかムッとした顔でにらんでくる香はまるで「見くびるな」とでも言っているかのようで
俺はわずかに息をのみ、そして、失笑にも似た笑みがこぼした
「確かに・・・・んじゃぁ、お互い様、ってことで」
『・・・そうね・・・そういうことにしといてあげる』
ムッとしていた顔から一変し、再び笑みを浮かべて俺の胸にすり寄ってくる香をゆっくりと抱き留める
夢の中でも、香は香らしい言動で・・・だからこそ、余計に、こうして俺の腕の中に居ることに
微笑みを絶えず浮かべている現状に、どうしようもないほどの幸福感がこみあげてくる
それはアッという間に受け皿からあふれ出したかのように俺の中を満たしていき
俺はその幸福感にまるで導かれるかのように、香の髪にそっと口づけた
ピクッとわずかに香が震えたが、拒否する言葉も突っぱねることもしない
それをいいことに、俺は香の髪から、額、目の上、頬、鼻、と香のパーツ一つ一つに口づけを落としていく
そして、唇へと触れようと、ゆっくり近づこうとした・・・が
「・・・・・・・なんでこのタイミングで目が覚めるんだよ」
最後の最後、ようやく触れ合える(たとえそれが夢でも)と思って居たところで目が覚めたことに
わかっていても、むなしさがこみあげてくる
「これ以上はちゃんと現実でケジメつけてから・・・ってか?」
溜息と共に零したのは声はどことなく弱弱しく、まだまだそれは先のことかもしれないと
自分のことながらも、僚はガックリと肩を落とした
素直になればいいと人は言う
正直になれと、ありのままに言えばいいと
「けどな・・・そんなもんできてりゃこんなに苦労しないんだよ」
夢の中でさえ気恥ずかしさが襲うというのに、現実で正直だの素直だの実行できるのか甚だ疑問だと
半ば八つ当たりに近い言葉をボソリと呟くと、再びベッドの中へと潜り込んだ
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