忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

幻ではあれど







 

 

冴羽僚 という男は女性、とくに美人の女性に弱い、これでもかっというほど弱い
白か黒、というほどハッキリと態度に出る
その証拠に、アイツのパートナーであるあたしには一切彼女たちに対する態度は見せない

彼女たちの容姿を褒め、優しい言葉を送り、壊れ物を扱うかのように触れる


羨ましいという感情がないと言えばうそになる
けれど、アイツがあたしを女扱いする日なんて、きっと世界が滅亡するか
美女という美女がい地球上から消えない限りないから・・・だから

 

『・・・・香』

 

いつもの声、けれど違う響き
いつものように立っているのに、いつもと違う眼差し

 

(あ・・・・今日も、なんだ・・・)

 

素直に、すんなりと浮かんできた言葉をあたしは飲み込み
ほほ笑むアイツに向かって、あたしも笑みを浮かべ一歩一歩近づけば
それが当たり前とでもいうかのように、僚があたしに向かって腕を広げた
その仕草に、あたしも大きく、広い胸に戸惑うことなく飛び込めば
広げられた腕はあたしを優しく抱き込んだ

 

(・・・・ほんと、こんなの夢じゃなきゃできないわよねぇ)

 

今ここに居る僚が自分の妄想の産物で、この世界も夢でしかない
一目見てそれがわかった
わかっていても・・・歩みを止めることも、その胸に飛び込むことも厭わなかった
・・・・夢の中という、幻でも、そこに僚がいて、自分を抱きしめてくれるという現状はあまりにも魅惑的すぎた

 

『・・・・香』


(・・・・りょう)

 

自分の名を愛しげにつぶやき、力強く抱きしめてくれる
現実ではありえない、あまりにも甘美な時間
現実ではないという切なさが胸をよぎるものの
大きく太い腕と、広い胸、そして慣れ親しんだ温もりに、香の視界がじんわりと歪み、ほのかに体が震える

 


『・・・どうした、何か、あったか?』

 

震えを感じ取ったからか、僚が心配そうに香の顔を覗き込む
あからさまなその態度に、また何かがこみあげてくるものの
それを振り切るかのように、首を軽く横に振って見せた


(心配してくれて嬉しい、優しく声をかけてくれて嬉しい
でも・・・この僚は、『本物』の僚じゃない)


優しい眼差しも、声も、温もりも、欲しくて、欲しくて、たまらないのに
・・・・時間が、夜が明けてしまえば消えてしまう幻

目の前の僚の態度が香の望むものであればあるほど苦しくなる胸に
香は切なげに顔を歪め、そっと僚の頬に自分の手を当てる


「好きよ・・・・僚」

 

呟いた言葉は震えていた
顔もうまく笑えていなかったかもしれない
それでも口にできた言葉に、目の前の僚はわずかに目を見張り、そして優しく目を細めた


『あぁ・・・』


「好きなの・・・・好き、大好き」

 

僚に縋りつくように、体を密着させ
何度も、何度も繰り返す
「好き」だと「大好き」だと、決して現実では伝えることのできない想いを
あふれる感情のまま、目の前の僚にぶつけ続ける


(今だけ・・・・今だけだから・・・・っ)

 

「愛してるの・・・・」

 


震えながらつぶやいた言葉は、愛の告白ではなく、まるで懺悔のようですらあったけれど
それでも、言葉にできた喜びに香の顔から自然とほほ笑みが漏れる
そして、その微笑みに惹きつけられるように、僚の顔が近づき、香の唇に覆いかぶさる

 

「・・・・んっ・・・ん、ぁ・・・・」

 

何度も触れては離れ、離れては触れる
その繰り返しに、香は夢の中であるとわかりつつも、苦しさを感じ
わずかに離れようとするが、夢の中の僚は『逃がさない』と言わんばかりに香を抱きしめ唇を塞ぎ続ける

 

(愛してる・・・・愛してるの・・・アンタだけを)

 

抱きしめている僚の首に腕を廻し、香もまた僚に応える
何度も何度も重ねては離れ、そして深くなる口づけの合間
ただひたすら、香は僚への想いを胸のなかで紡ぎ続ける

息があがりそうな程に繰り返された口づけ
それも、僚がわずかに力を抜いたことで一時止むことになった

ふらふらと酸欠状態になりながらも見上げた僚も、わずかに息を乱していて
見たこともないその姿に、想像といえど嬉しさを感じうっすらと香がほほ笑めば
僚はわずかに眉を寄せつつ、神妙な顔へと変化した

 

「・・・どう、したの?僚」

 

『・・・・香、・・・俺は・・・っ』

 

何かを言い出そうとする僚に、香はまるで「それ以上言わないで」とでも言うかのように
そっと僚の唇の上に指を乗せてみせた

 

「僚、愛してる・・・・愛してるわ・・・アンタだけを、愛してる」

 

そう言葉にした途端、わずかに視界がかすみ始める
困惑するような僚の顔に、もうすぐこの夢が終わることを知る
誰よりも愛してる男に、愛される夢(幻)が・・・終わる


次第に消えていく世界の中
香はゆっくりと瞼を閉じ・・・もう一度だけ「愛してる」と呟いた

 

そして、再び瞼を開ければ・・・・そこにあったのは見慣れた自室の天井となじみすぎるほど馴染んだベッド

 


「わかってる・・・わかってるんだけど・・・・ね」

 


夢の時間があまりに甘美で切なくて
夢の温もりを探すかのように、ゆっくりと自分の唇を指でなぞり
今頃高イビキをかいているであろう男の部屋の方へと顔を向け
夢で男に伝え続けた言葉を、声に出すことはせず、ただ唇だけで紡いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


PR

Copyright © Short Short Story : All rights reserved

「Short Short Story」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]