[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
いつの頃からか、あたしは「子供」らしさというものを失っていた・・・
やんちゃで、男勝りだったあたしは
いじめっこにはお手製ハンマーで撃退することなんて珍しくはなかった
一見すれば、やんちゃな子供でしかなかった
ただ、普通の子と違って極端に泣くという行動をしなかった
差し伸べられる優しい手に
無条件で甘えることを戸惑うようになっていた
わがままを言って、困らせることに、罪悪感を覚えていた
気がつけば近所の人から
「香ちゃんはいいこね」とよく言われるようになっていた
泣かないから
一人で留守番できるから
わがままを言わないから
それがたまらなく不思議だった
泣かないことがいいことなのか
一人で留守番できるのはすごいのか
わがままは・・・・言ってはいけないのか?
けど、それをアニキに聞くことができなかった
ううん、一度だけ聞いたことがある
そのときアニキは・・・・とても申し訳なさそうな顔で
「ごめんな、香」と言ったきり、ぎゅっとあたしを抱きしめた・・・・
このとき、あたしは聞いてはいけないことを聞いたんだと直感的に悟って
笑って誤魔化した気がする
「大丈夫、ヘイキだよ・・・カオリ、いいこだもん」
そんな言葉で誤魔化した
寂しさも、苦しさも、全て飲み込んで
笑ってアニキに抱きついた
それから、アニキは色々あたしに気を使うようになったけど
あたしはそれを一蹴するように笑って誤魔化すことが多くなった
「大丈夫、ヘイキ」
「寂しくなんてないよ」
「アニキは心配しすぎなんだよ、あたしは大丈夫だから」
笑って、笑って・・・
さびしさも何もかも押し込んで
ただ・・・・笑って・・・・・
・・・・・・けど、実際は・・・・その「笑い」もまた
あたしの中の甘えだったのかもしれない
笑えば、アニキが心配してくれる
笑えば、アニキも苦笑とは言え、笑ってくれる
笑えば、アニキは答えてくれる
・・・・・そんな打算があったのかもしれない
笑っていれば・・・笑えば、頑張れば・・・我慢すれば・・・・
アニキは、あたしのところに帰ってきてくれる
そんな気がしていたのかもしれない・・・・
けど、今・・・・いくら笑っても、アニキはいない
どんなに寂しさを我慢しても
どんなに孤独を押し込んでも
どんなに泣き言を言わなくても・・・・アニキはいない
それを認識したのは・・・実は結構たってからだった
最初はなんだかんだで僚に振り回される形になって
おしかけパートナーとして必死で・・・
アニキが「死んだ」という事実から、必死に目を背けていた
・・・・けど、そんな現実逃避、長く続くわけもなくて
自分の身の丈にあわないことを、必死でこなそうとすればするほどから回って
イラだちを感じ始めていたあたしに・・・ふと、大きな手が・・・・乗った
「ばーか、んなに気を張ってんじゃねぇよ」
それは何気ない一言だった
たぶん、僚からすれば特に意識なんてしてなかったんだと思う
あたしも、すぐに「誰が馬鹿だ!!」と言い返していたし
普段通りにふるまえたんだと思う・・・・
けど、一人になったときに、さっき僚に触れられた頭に触れたとき・・・
あたしの目からポロポロと涙が流れ出した
「・・・あ・・・・れ・・・・?」
なんで泣いてるのかわからなくて
必死に涙を止めようとしても止まらなくて
どうしていいのかわからなくなっていたとき・・・
ふと、アニキを思い出した・・・
アニキも、あたしが無理に笑おうとすると、こうして頭を撫でてくれた
言葉をかけてくれた・・・・
けど・・・・もう、その声も、手も・・・・ない
「我慢しなくていいんだぞ」と笑って頭を撫でてくれる人は・・・・いない・・・
「あ・・・・・・・あっ・・・うっぁ・・・・・あぁぁっ!!」
呻き声のような声が漏れる
必死に手で声を抑えようするけど、うまくいかなくて
あたしは一人・・・部屋で泣き崩れた・・・
次の日、目が真っ赤になるとか
僚になんて言い訳しようとか、そんなことすら思いつけず
ただただ、アニキの「死」に涙を流し続けた
そして、次の日・・・・思ったとおり真っ赤なうさぎ目になったあたしがいた
一応目を冷やすとかして誤魔化したけど、僚に聞かれたらなんて言おう・・・
ぐるぐるとそんなことを考えていると、ちょうど部屋から出てきた僚とバッタリと会った
「・・・あ、お、おはよ」
「んだぁ?おまぁなぁに目を腫らしてんだよ?」
(うぅ、やっぱり聞かれた・・・ど、どうしよう!なんて誤魔化そう?
や、やっぱ、笑って誤魔化すのが一番無難か!!?いや、でも相手はコイツだし!!
下手に追求されたら何って言えばいいんだよ!!?)
予感していたとはいえ、やはり単刀直入なその指摘に一気にあたしは慌てふためき
パニックを起こしかけた・・・・が・・・・・
「あんまり夜更かししてると肌に悪いぞー?ガキはさっさと寝ることに越したことねぇからなぁ」
「・・・・・・・は?」
ニヤニヤと笑いながら、あたしの頭をポンポンと数回叩き
欠伸をしながらリビングへと向う僚を、あたしは情けなくも呆然と見送った
(よくわからないけど・・・・誤魔化せた?あ、ラッキー!!!
いやいや、あたしのケアの賜物だわね!うん!!!)
・・・・・なんて、最初は思ってたけど・・・・実際は違うと思う
たぶん、僚は何もかもわかってあーやって誤魔化してくれたんだ
聞かないでいてくれた・・・・それが僚という男の不器用な優しさなんだと
あたしは気づけなくて・・・・もう少し時間を置いてから気がつく・・・ただ・・・
・・・・トク・・・・ン・・・・
「・・・・・ん?」
胸を過ぎった小さな鼓動
あたしは首を傾げながらも、すぐに「ま、いっか」と考えることを放棄した
アニキとは違う、・・・・・・・わかりずらい優しさ
その優しさに、あたしは知らず知らずの内に包まれてきた
仕事しないし、ろくでないし、女にだらしない上に始終もっこり言う変態だけど
・・・・・でも
「ホレホレ、そう怖い顔しなさんな・・・・さっさと行くぞ、香」
「なぁんつー顔してんだか・・・せっかの男前が台無しだぞー、カオリくん♪」
あたしが無意識に我慢していた、怖いという思いも、寂しいと言う思いを
僚はさりげなく緩和させてくれてた
あの子ども扱いのような頭を叩く仕草で・・・あたしの感情のガス抜きをしてくれた
・・・・まぁ、時にやりすぎてあたしの感情を「怒り」という名の
ハンマーに変えることもあったけど・・・・・でも、それも今考えれば僚なりの方法だったのかもしれない
「ほんと・・・・・しょうがないヤツよね、アンタは」
ソファでごろごろしててそのまま寝てしまった男を眺めながら
あたしは苦笑しつつ、タオルケットを男にかけ・・・そして、そっと僚の髪を撫でた
アニキを亡くした後、この男に出会って、この男と一緒に暮らすことを選んだ
そのことを一切後悔しなかったといったら・・・まぁ、嘘になるけど
でも、今は・・・・・「良かった」と思える
僚といたから、僚だから・・・あたしは今も「あたし」で居られたんじゃないかって、そう思えるようになった
・・・・・アニキとは正反対で、最初はなんつー野郎だ!!って思ってたのに・・・今は・・・・
「・・・・・・ほんっと、人生って何があるかわかったもんじゃないわ」
苦笑を一つこぼして、あたしは再び洗濯の続きを始めた
洗濯機から洗濯物を取り出して、屋上へと向う
どうしようもないヤツだけど
不器用な優しさしかくれないけど
アニキとはまるっきりの正反対の不真面目の塊のようなヤツだけど
でも・・・・・あたしは、そんな男に・・・・
「・・・・・・惚れちゃったんだもん、しかたないよね?アニキ」
内緒話でもするかのように
誰にも聞こえないくらい、小さく小さく・・・呟いた
妖精 song by シェリル・ノーム starring May'n
≪ 指切り | | HOME | | Liar! Liar! ≫ |