[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
昼夜喧騒の耐えない街、新宿
穏やかな昼の姿は、夜になれば欲望渦巻く街へと変貌する
全てとは言わないが、ほとんどのものは金で売り買いされる
酒、女、薬・・・時には命すら売り買いの対象となる
様々な欲望が渦巻く街は、同時に嘘の充満する場にもなる
愛の言葉、優しい囁き、媚び諂(へつら)う言葉
誰もが腹に一物(いつもつ)抱えながら夜の時間を過す
昼間に隠していた「影」をこれでもかと曝け出しつつも
ネオンの光の中に潜ませる姿は、まさに「人間」そのもののようで
僚はこの時間の歌舞伎町を気に入っていた
「あら、リョウちゃんいらっしゃい。」
「よぉ、ママ。一杯もらえる?」
行きつけの店の扉を開けば
既にそこは香水と酒、そしてタバコの煙の充満する世界が出来上がっていた
煌びやかな衣裳を纏い、男たちの相手をする女たちを一瞥しつつ
僚はにこやかな笑みを浮かべママの傍へと近づく
「えぇもちろんよ、ただ他の子の手が一杯なの、わたしが相手になるけど、いいかしら?」
「それこそ願ったり叶ったりでしょ?ママのお酌で酒が飲めるなんて今夜のリョウちゃん超ラッキー♪」
「あらあら、お上手だこと」
艶やかな笑みを浮べ、着物を纏ったママからのお酌をうけながら
僚は「いやいや、リョウちゃん嘘つけないからぁ、信じてよママ」なんて
わざとデレっとした顔を作りながらしばらくママとの談笑を楽しむ
「それで、ママ・・・・この間のことだけど」
「あら、何のことかしら?」
「またまた、トボケちゃって・・・俺とママの仲じゃん?」
店の喧騒の中に紛れつつ、にこやかな笑顔での腹の探りあい
ママは艶やかな笑みの中に、わずかに裏の世界の顔を覗かせる
その表情の変化に僚もまた、内心にやりと笑みを作り
お互いがお互いの腹を探りあう
酒を飲み、女を抱くことはもちろんだが
僚がある種、最も楽しんでいるのはこの腹の探りあいなのかもしれない
どれが真実で、なにが嘘なのか
それすら曖昧な世界で、狸と狐の化かしあいのような結果
「正確」な「情報」を手に入れる
もちろん、常にというわけではない
自分の息のかかった情報屋や
金さえ払えばまどろっこしい手を使わずとも「正確」な情報を提供する者もいる
それでも、手に入らない情報となればこうして自分から足を運び
相手との腹の探りあいをする・・・・これが僚の「情報収集」のやり方の一つ
海坊主から言わせれば「まどろっこしい」の一言らしいのだが・・・
それこそ千差万別、様々な「やり方」があって当然だろう
そう、内心苦笑ともなんとも言えぬ笑みを漏らしつつ
僚は欲しい「情報」を手に入れることに集中する・・・・
「・・・・・それより、最近香ちゃんはどう?元気にしてる?」
「あぁ?カオリー?なぁんでママが香のことなんか気にするわけ?」
1時間ほど過ぎた頃、欲しい情報を手に入れ僚がそろそろ席を立とうとしたとき
ママから漏れた言葉に、僚は浮かせかけていた腰を再び下ろす
シティーハンターの相棒が、ズブの素人というのは既に裏の世界では知れ渡っている
実際は海坊主直伝のトラップはそれこそいいレベルまでいっており
まったくの素人というわけではない
それでも、まだまだシティーハンターの「相棒」としては甘いところが多いのも事実であり
たとえ、僚自身が香を「弱点」と捕らえていなとくとも、周囲はそう見るとは限らない
故に僚は、自分はもとより、香に関する情報は小さなことでも耳にいれるように心がけているため
自然と雰囲気の中にわずかな鋭さが混じる
「あら、怖い怖い・・・・ふふ、けど誤解しないで、最近顔を見てないから元気かしらと思っただけだから」
「ふーん・・・そんなもんかねぇ、まぁ、アイツはいつも通りだな、毎回毎回ハンマー片手に走り回ってるさ」
「走り回らせてる原因が随分な言い草だこと・・・・あんまり香ちゃんをいじめちゃダメよ、リョウちゃん」
「げっ、ママも香の味方なわけ?リョウちゃんショックーっ!!」
わざと大げさに嘆き、ママの手を握り閉めれば
ママも慣れたもので、「はいはい」と流しつつ、あっさりと手を引いてみせた
「この街の人間・・・・歌舞伎町でリョウちゃんを知ってるは人は、香ちゃんが大好きな人が多いの・・・・それはリョウちゃんが一番わかってるんじゃなくて?」
「けっ、あーんな男女のどこがいいって言うんだか・・・・」
カランと音を立てて酒を煽る僚に、ママは苦笑を浮かべながら「素直じゃないわね」とこぼした
「ボキちゃんは常に本能のままに生きてるもーん。んじゃぁ、ママ、また来るわ」
「ふふ、お待ちしております」
今度こそ席を立った僚に、ママは愛想良く手を振った
そんなママに僚も背を向けつつ手を振り、店を後にした・・・・
「・・・・・・・・本当にこの街は、香好きが多くてたまらんな」
冷えた空気に触れた瞬間、僚は苦笑をもらしポツリと呟く
ママはもちろん、情報屋の連中、居酒屋のオッサンからオカマバーのママまで
幅広く「槇村香」という女を好いており、自分が香を泣かそうものなら
烈火のごとく抗議をしてくる連中ばかりなのだ・・・
それに、裏で名を轟かせてる連中まで入るのだから、僚としてはたまったものではない
「アイツのどこがそんなにいいのかねぇー・・・・」
『それはリョウちゃんが一番わかってるんじゃなくて?』
先ほどのママの言葉が脳裏を過ぎり、思わず僚は動かしていた足を一瞬止める
瞬間、後ろを歩いていたサラリーマンとぶつかり迷惑そうな顔をされたものの
僚は特に気にすることも無く、しばらくその場に立ち尽くし・・・・そして、再び歩み始めた
この欲と嘘の溢れた街を僚は好いている
それは「自分」という存在が「嘘」であることが大きい
年齢も、人種も、はっきりとしない
「戸籍」が無い自分は、ある意味「死んだ人間」と同じだ
だからこの「嘘」で塗り固めた欲望の街は自分にとても合っているような気がし
居心地がよく感じる・・・・・・・
だが、香は・・・・ある意味その真逆にいる
単純で、嘘がつけない女
欲望というものを理解しつつも、その欲望に飲まれることなく
常に真っ直ぐ前を見て、誰に対しても嘘偽り無く対応する
そういう人間は、決してこの街では生きやすい人種ではない
にも関わらず、この街に香は居続けている
性格を変えることなく、笑顔で顔見知りに挨拶をし、気さくに声をかけ続けている
かと思えば、ハンマー片手に毎回僚を追いかけまわす・・・
怒って、笑って・・・グチグチ文句を言っても結局は・・・・僚を迎え入れている
相反しているようで、うまくこの街に溶け込んでいる不思議な女
そんな女を、周囲は好意的に見ている
・・・・それこそ、ある種の眩しいものを見るかのような目で・・・・
「・・・・・・・・ほんっと、趣味悪ぃよなぁ」
一瞬、脳裏を過ぎった女の笑み苦笑を浮かべ
僚はタバコを一本ふかし、歩きなれたアパートへの道を進む
今日も今日とて、般若の顔をしてハンマー片手に
自分を待ち受けてるだろう女のもとに戻るために・・・・
≪ 妖精 | | HOME | | real Emotion ≫ |