揺れないで

揺れないで

揺れないで


・・・・・気づかないで


流れる涙にも

噛み締める唇にも

求める心にも



握り締めた手が痛い
背中にあたる扉がつめたい
脳裏を木霊する言葉が痛い


ぎゅっとキツく抱きしめた体
自分の体・・・・
固く、固く、強張った・・・体・・・



「・・・・っ、ぁ・・・・はっ・・・」



息ができない

・・・苦しい

息がしたい

いつものように、自然に、なんともないと言わんばかりに

息をして・・・・笑いたい

笑いたい

笑って、笑って、笑って・・・・馬鹿みたいに、笑って・・・・・



それでも、うまく笑えないなら、････怒りたい

怒って、怒って・・・・最後に笑って

何もなかったようにしたい




（無くさないで）

（無くさないで）


----　手放さないで


（無くしては・・・・だめ）




あたしがここにいるために

アイツとここにいるために

ふたり、ここにいるために




『冴羽僚』という『人間』を見失ってはダメ

『槇村香』という『女』を暴かれてはダメ



恐れないで

見失わないで

揺れないで



（見捨てないで）



気づかないで

暴かないで

揺れないで


（一人にしないで）



何でもするから


何でもできるから




家事も、節約も、騙されたフリでも････なんでもするから


あなたが望むなら

アンタがソレを望むなら


あたしは・・・・なんでも、できるから・・・・



（・・・置いて、いかないで）




息を・・・・吐く


息を、吸う

繰り返し、繰り返し・・・息を、吸って・・・吐く




零れるものに気づかぬフリをして

痛みなど無いと誤魔化して

ただ、ただ・・・息を吸って・・・吐いて・・・・吸う



揺れた波を落ち着かせるように

揺れなど無かったようにするために

異変など感じさせないように




「・・・・・・りょ・・・ぉ・・・・・・」




こぼれた名前

こぼれた言葉

こぼれた声




その声さえ、届けたくなんかなくて

聞かれたくなくて

自分の手で口を覆って、天を仰ぐ





揺れないで

揺れないで

揺れないで




心の波紋を、あの男に・・・・聞かせないで

この不協和音を届けないで・・・・





（あたしは・・・・・アイツの・・・パートナー・・・・だから）

 

たった一つの約束

たった一つの拠り所



奪わないで

壊さないで

取り上げないで


『あたし』から、『あたし』を、奪わないで

『あたし自身』で・・・・終わりに、しないで・・・・

 

抱きしめる

体を

心を

涙を

想い、を・・・・


 

「・・・・ごめん、ね」

決して昇華できぬ、華を咲かせることのできないソレへ

小さく小さく、侘びをいれて・・・・

あたしはゆっくりと・・・・目を閉じた・・・・・・

明日また『笑って＜ここ＞にいられるように』





『指切り』　song　by　一青 窈