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昔、よく夢をみた
それはとても悲しい夢で
とてもとても悲しくて
どうしようもなく悲しくて
夢から覚めても、涙が止まらなかった
何が悲しいのかもわからないのに
いっこうに涙は止まらなくて
声はのどに張り付いたように出なくて
どうしていいのかわからなくて、その場で蹲っていたあたしの目の前に
いつも真っ先に伸ばされた手があった
『どうしたんだ、香?』
その手はいつもあたしを抱きしめてくれて、慰めてくれて
悲しみも寂しさも、全て消し去ってしまう魔法の手だった
『あ、アニ・・・キッ・・・アニッ・・・・・』
『大丈夫、大丈夫だ・・・香、俺はここにいる』
ポンポンと背中を叩いてくれる手と優しい声に
いつも助けられていた
いつも絶対的な安心をくれた
この声と手の温もりさえあれば、何が起きても怖くないとさえ思えていた
けれど、もうその手は無い
『香』と優しく呼んでくれる声も無い
絶対的な安心をくれる、あの人は・・・アニキは・・・もう、いない
・・・・・あたしは、ひとりぼっちになった
ひとりで生きていかなくちゃいけなくなった
強く生きなくちゃいけないのに
強くならなくちゃいけないのに
どうして、あの『夢』を見たんだろう
どうしようもなく怖い夢
子供の頃に見た夢と同じ
悲しくてしかたがない夢
何が悲しいのかもわからないのに
目が覚めても収まることの無い震え
止まらない涙・・・・
「・・・・・・アニキ」
もう居ない人の名を呼ぶ
ここはアニキと暮らしたアパートじゃない
アニキはもう戻ってこない
触れることも、会話をすることもできない
呼んだって無駄なのはわかりきっているのに・・・
「怖いよっ・・・アニキッ」
同居人の男がいないこのアパートには、今あたしだけだ
誰も居ない部屋にはなれている
一人にはなれている
それなのに、今はどうしようもなく『一人』が怖かった
膝を抱え、必死に震えを抑えようとするけど
全然震えは収まらなくて
ボロボロと流れる涙も止まらなくて
どうしたらいいのかわからなくて・・・膝に顔を押し当てていると
ふわっと・・・何かがあたしの頭に触れた
「どうした・・・なんかあったか?」
「・・・・リョ・・?」
見上げた先にあったのは、毎夜毎夜家を空ける同居人
どうしようもなく女にだらしの無い男で
いっつも余裕を感じさせる男が、珍しくどこか困った顔をしていた
「なんだぁ?怖い夢でも見たのか香ちゃん?」
「・・・・・」
その言葉に「ガキじゃあるまいし」と馬鹿にされている気がしてとっさに反論しようとした
でも、これ以上声を出すともっと涙が溢れてしまいそうだったから、あたしはぎゅっと口を噤んだ
「ふーん・・・あ、っそ」
そう言って僚が立ち上がったのがわかった
出て行ってしまうと思い、無意識の内に「・・・ぁ」と小さく声をあげた
恥ずかしくても、からかわれてもいいから
少しだけ傍にいて欲しくて、そう恥を忍んで言おうと思った、そのとき
ストンッと身体を押され、気がつけばあたしはベッドに横たわっていた
「俺は槇ちゃんみてぇに優しくはねぇの・・・だから、これは出血大サービスってやつだからな」
「・・・リョウ?」
視界に入るのは、やっぱりどこか困ったような、それでいて照れてるような僚の顔
でも、その僚の顔もすぐに見えなくなった
一瞬なにが起きたのかわからなかず「わっ!!」と声をあげたら
上からクツクツという僚の笑い声が聞こえて・・・どうやら、僚の手で視界が塞がれたのだと
ここにきてようやく気づいた
「寝ろ、寝てぜぇーんぶ忘れちまえ」
「・・・・この、状態で?」
「んだよ、不満か?」
「そうじゃないけど・・・・僚はどうすんだよ?」
このままあたしの視界を塞いだままじゃ僚は寝れない
僚だって眠いでしょ?
そう言いたかったのに、僚は手をどけることはしなかった
「いいんだよ、俺はオトナだからまだまだ寝ないでいられるの・・・だからコドモなカオリンは気にせずさっさと寝ちまえ」
いつもの調子で、きっといつもの「にやり」とした笑みで言ったのに決まってるのに
馬鹿にされている感さえあるのに、触れている手の感触と聴こえてくる声が心地よくて
さっきまでボロボロ流れていた涙までもが止まっていたから
あたしは珍しく素直に「うん」と返事をすることができた
(・・・・ありがとう、僚)
できればそう言葉にしたかったんだけど
襲ってくる睡魔に、ちゃんとその言葉を僚に言えたのかどうかわからなかった
ただ、もう一度眠りについたとき・・・夢を見た
アニキがいて、アニキが笑っていた
どこか寂しそうに、でも嬉しそうな笑みだった
「どうしたの?」って聞いたら
黙ってあたしの後ろを指すから、その指差す方向を見ようと振り向いたら
・・・・そこには僚が立っていた
仕方無さそうに、めんどくさそうにしながらも
立ってこちらを見てる僚が僚らしくて思わず笑うと、いつの間にか隣にアニキがいた
『お前は一人じゃないだろう、香』
その言葉に、あたしは大きく頷き・・・そして、あたしは僚の元へと走っていった
・・・・そんな夢を・・・・あたしは見た
「愛 おぼえていますか」 by飯島真理
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