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「・・・・暇だ、」


珍しくナンパをする気が起きず、アパートに引きこもり
だらだらとタバコを咥えながらぼんやりと外を眺める
手元には先ほどまで眺めていたもっこり美女の写真集が転がっているが
今は特に興味を示すことができず、かといって外に何かあるわけでもなく
まさしくぼんやりとしながら、外を眺めていた


「・・・・ん?アイツ、なぁにやってんだ?」


ふと気がつけば、なにやら大荷物を抱えている我が愛しのパートナー殿の姿が目に入り思わず眉をひそめる
ふらふらと危なっかしい歩き方に、思わず腰が浮きかかるものの
香の後ろからやってきたミックによって中断されることとなった
何やら話しているものの、香の首を横の振る仕草と、ミックが荷物を奪ったことで
なんとなくその会話の内容がわかり、無意識の内にさらに眉間に皺が寄った


別にどうってことのないヒトコマだ
女が男に荷物を持ってもらう、そしてその男女が仲良く2人で歩いている
たいしたことのない、日常的な風景
なのに妙にそれが俺には遠い世界の出来事のように見え
フイと顔を背け俺は視界に映る世界から逃げるようにその場を立ち去った


「ただいまぁ~・・・あー、重かったぁ!!」


しばらくしてから聴こえてきた香の声に、妙に胸の奥がざわついたが
それを表に出すことなく「おー」とだけ返事をすれば
香がギョッとしたような顔で俺を見てきた


「どうしたのアンタ、今頃ならまだナンパ中なんじゃないの?」

「・・・・べっつにー?リョウちゃん今日は気分が乗らなかっただけだもーん」

「もーんって・・・・アンタ、いい年したオッサンが何言ってるのよ」

「俺は万年ハタチのもっこりお兄さんだっつーの!!」

「ハイハイ・・・・まったく、アンタも飽きないわねぇ」


そう言って買ってきたであろうものを台所に運びこみ
冷蔵庫やら何やらへと詰め込んでいる香の姿をチラリと眺める
先ほどよりは落ち着いてはいるものの
やはりどこか遠くに見える香の姿に、無意識に「なぁ、カオリぃ」と彼女を呼んでいた


「なぁに?なんか用事?」

「あ、あー・・・・ほ、ホラ、アレだ。今晩のメシはなぁにかなぁ~っと思って」

「?・・・今晩はハンバーグよ、ひき肉が安かったから特別大きいの作ってあげるわよ」


最初は不審そうに首をかしげたものの、得意そうな顔でと若干自慢気に態度に変わった香に
俺は、わずかに口角を綻ばせた


「ほー・・・それはそれは・・・まぁ、期待しないで待っててやるさ」


そう言ってソファに寝転がりヒラヒラと手を振って見せれば
香は何か言いたそうな顔をしたものの、そのまま再び台所へと戻っていった
その香の行動を確認してから、俺は近くにあった雑誌を顔の上に被せ表情を隠した

それからさほど間を置かず
嗅ぎなれたコーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、被せていた雑誌が取り払われた


「コーヒー淹れたの、いるでしょ?」


にっこりと笑ってコーヒーの入ったマグカップを持ち上げ
そのまま俺の脇に腰を落ち着け、自分用に淹れたであろうコーヒーを飲む香


「・・・・晩飯のしたくはいいのか?」

「まだ時間があるもの、休憩したってバチは当んないわよ」


そう言ってそのままコーヒーを飲む香に俺がそれ以上何か言えるわけもなく
しばらくの間、2人コーヒーのすする音だけがリビングに響いた


「ねぇ、僚・・・あの、さ・・・ちょっといい?」

「・・・どうかしたか?」


突如、香が沈黙を破った
何かに躊躇っているのかのように、わずかに視線を泳がせる香に、俺は無言で先を促せば
香はおそるおそるといった様子で再び口を開いた


「当たり前なんだけどさ、あたしとアンタは別個の存在なわけじゃない?
まったく違う環境で育って、まったく違う思考を持ってるのよ、性別も、年齢も、何もかも違う」


「だからさ・・・何かあったら言ってよ、そうじゃないとわかんないじゃな・・・・
もちろん、無理にとは言わないけど、でも・・・・言わなくちゃわかんないことだってあんのよ」


コテンと俺に寄りかかるように頭を預ける香に、俺は一体どういう表情を向けていいのかわからなかった
敏感に俺の異変に気づいた香に驚いたのはもちろんがあるが
香の言葉に何か奥の方にあったものが刺激され、なんとも言えない感覚が俺の身体を駆け巡る


「・・・・まぁ、善処はする」

「そうして・・・そうでなくても、アンタ秘密主義なんだしね」

「ボクちゃん口下手だから」

「・・・・・・・どうだか」


呆れたように俺を見上げ来る香の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた
そのまま立ち上がって香の傍から離れ、自分の部屋へと戻った


「・・・嘘は言っちゃいないさ」


パタンと閉じた扉にもたれかかりながら、ポツリと呟く
どう言葉にしていいのかわからないものがある
それはあまりにも俺が過してきた時間の中で未知の領域に近いものがあった
香と過せば過すほどに湧き上がるもの、知らなかったもの、感じなかったもの
なんと表現していいのか、いまだにはっきりしないものが多いものの・・・


もし・・・それらを、言葉にするのであれば・・・


それは・・・・たぶん


「好き」という、感情を示しているのかもしれない・・・



「蛍」 by 福山雅治

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