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この作品は↓の作品の続き物です
↓の作品を読んでいなくても読める内容になっていますが
パラレル作品なので、ご注意ください
まだあたしがこの役職について間もない頃
桜が舞い散るこの庭で、あたしは初めて・・・あの男と会った
『・・・どーも、ハジメマシテ、世界を守る巫女姫さん』
初対面の挨拶でなんとも馬鹿にしたような口調で言う男に
正直あたしはムッとした
本当だったらすぐにでも怒鳴って、ハンマーで潰してやりたかったけど
アニキの友人だと聞かされていたんで、ぐっと我慢した
『はじめまして、冴羽少将・・・・それでどんな用があってここに?』
『いやぁ、稀代の巫女姫つーものが、どれだけのもっこりちゃんなのか見たくてなぁ・・・だが、まさか『姫』と聞いてたのに、こぉんな『ガキ』で『男』だったとは・・・・くぅ、リョウちゃんショックっ・・・って、うぎゃぁあああああ!!!』
『あ、あたしは女だっ!!このボケッ!!・・・そしてもう目的は済んだわけですからとっとと出てけ!!この変態っ!!!!』
初対面の挨拶が無礼なら、『もっこりちゃん』などというワケワカランことを言い
さらに自分を『男』だと言う男に、あたしの決して長くない堪忍袋の緒がブチッと切れ
桜の花が落ちた地面に、コイツも沈めてやった・・・
確かにこのときあたしは、男の子が着るような水干を着ていて、髪も短かったけど
けど、なにも本当に男と間違えなくったって・・・・
(失礼なヤツだなっ!!なんでアニキはあんなヤツと友達なんだ!!?)
大好きなアニキの友人だとしても、あまりに酷い仕打ちにプリプリと怒りを滲ませていた
けど結局これでこの男ともう会うことは無いだろうととも思っていた
あんなことをしたのだ、そう易々とアニキが許すはずもないとも・・・けど、何を考えているのか
アイツは何故かあたしの居る宮にあれからも顔をちょくちょく出すようになった
何をするわけでもない、ただ「茶を飲ませろ」だの「よう、ガキ」とからかいに来ることもあれば
「ホレ、手土産だ」といってお菓子を持ってくることもあった
この男を過す時間は、決して穏やかな時間ではなかった
歳の離れた子供(あたし)相手に喧嘩をしたり
小さな宮を走り回ったり・・・・
今思えばコイツなりにあたしと遊んでくれていたのかもしれない・・・
そして、男・・・リョウの訪問は途切れることなく続き・・・・
気がつけば、あたしは出会った頃のコイツと同じくらいの歳になっていた・・・
「・・・・ねぇ、大佐ってそんなに暇なの?」
「あー・・別に暇ってほどじゃねぇはずだが?」
「じゃぁ、よっぽど部下の人が優秀なのにね・・・こんな上官を持った部下の人たちが気の毒だわぁ」
「ひっどいこと言うねぇ、カオリちゃん・・・リョウちゃんこぉーんなにマジメなのに」
「・・・・今度アニキにリョウの部下の人のお給料少し上乗せしてもらうように頼んでおくわ」
きっと今も宮の外でコイツを探しているであろう、部下の人を思うと
なんだかとても申し訳ない気持ちになる・・・
ハラハラと舞う桜をぼんやりと見ながら、そんなことを思っていると
隣にいる男・・・・リョウは、「なぁ」とあたしに声をかけてきた
「おまぁは・・・・ここで世界なんてもんのために祈ってんだよな」
「そうだけど・・・・何よいまさら」
「あー・・・なんつーか、空しくなんねぇわけ?人のことばっか祈っててさ」
怒るわけでも、否定するわけでもなく
ただ疑問をぶつけてきた男
数少ない、あたしの知る『人』の中で、やっぱりコイツは『違う』と思い、あたしは思わずクスリと笑った
「世界なんて言われても、実は今でもよくわかんないのよね」
世界なんてものは、物語や本、資料でしか知らない
あたしが実際に知っている『世界』は、この小さな宮と、常に咲き誇るこの桜
そして、兄と、身の回りの世話をしてくれる女官と、あたしに会いに来るこの男だけ・・・・
建前でもなんでも、本当なら『世界のために』と言うべきなんだろうけど
この男にだからこそ、正直に答えたかった
あたしは、何も知らない、何もわからない
知りたくても、その術は限られていて・・・・昔は必死に知ろうとしたけど
それは『してはいけないこと』なのだと、知ってしまった・・・
「だから、あたしは、<あたしの世界>を守りたい・・・・それじゃ、ダメ?」
巫女姫が『外』を知らないのは、そういう理由
大切なものを作ってはいけない・・・だから、何も与えられない
アニキを、世話をしてくれる彼女たちを、小さな宮を
それらを支えてくれる知らない人たちを、守りたい・・・たぶん、これが本当の限界ギリギリのラインなんだと思う
それがわかったのか、リョウはわずかに不機嫌そうになるも、すぐにそれを引っ込め「あっそ」と口を開いた
「・・・・いいんじゃねぇの、強欲になればなったで、後が面倒だからな」
「あら、あたしは十分すぎるくらい欲張りだと思うんだけど?」
本当はたくさんの人たちのために祈らなきゃいけない
祈ることこそがあたしの役目
世界の平和を、世界の人々の幸せを願わなくちゃいけない・・・・
でも、あたしはその願うべき「人たち」を知らない
知らない人たちのために、あたしは祈れない
だから、知っている人・・・・『大切な人たち』のために祈ってる
きっと歴代の巫女姫さまたちの中で、あたしほど強欲で我侭な人はいなかったと思う
「ねぇ・・・・だからさ・・・・帰ってきなさいよ」
ポツリと吐き出した言葉こそ、本当の意味での我侭だと思いながら
あたしは隣の男ではなく、目の前の桜をジッと見つめながら口を開いた
「リョウもさ・・・あたしの守りたいものの中にちょびーーーーっと、だけほんのちょっっっとだけ、かすってんのよ」
「それはお前・・・随分酷い扱いじゃねぇの?」
「いいじゃない、かすってないよりは・・・・それにさ、アンタがいないと退屈でつまらないのよね」
『・・・僚、生きて・・・・生きて、帰ってきて』
出会って間もない当初、少女のときなら素直に言えた言葉は、今はいえない
例えそれが変わらぬ願いでも・・・もう、言うことはできない
だって、この願いがどれだけこの男にとって縛りになるのか・・・もうあたしは知ってるから
自分の我侭で言った言葉は・・・・もう、純粋じゃなくなったあたしには言えない
『待ってるから、ここで・・・ずっと、ずっと待ってるから、だから・・・・っ』
「そうね・・・・帰ってきたらとっておきのお酒用意してあげる・・・ね?これなら少しはやる気でるでしょ?」
もうあたしは、何も知らない少女じゃない
巫女姫という立場を、大佐というリョウの立場も知っている
だから素直な『言葉』なんて言えない、言ってはいけない・・・・けれど、どうしても言いたくて
こうして捻くれた言い方でしか伝えられない・・・・
「巫女姫の秘蔵酒ねぇ・・・・」
「滅多に出さないヤツ出してあげる・・・確か、アンタ好みの辛口だったはずよ」
「それはそれは、是非とも一献頂きたいもんだな」
クツクツと笑う男に、あたしも形だけ笑みを作る
でも、本当は泣き叫んで『行かないで』と言ってしまわないように必死に己を押さえつける
今からこの男が出向くのは『戦場』普通の高官将校なら安全な場所で指揮を出すのに
この男は決してそれをしない、自分が先頭に立ち、時に囮にしてまで・・・この男は戦う
それだけの実力があるからこそ、やっているのだとわかっている・・・わかっているけど・・・でも・・・・
「そんじゃそろそろ行くわ・・・・つまみも大量に用意しといてくれよな」
「・・・・贅沢なヤツね・・・・まぁ気が向いたら、用意しといてあげるわよ」
立ち上がり、宮を出て行く男を見送りながら、あたしはその背中をジッと見つめる
(どうか・・・・どうか・・・・・無事で・・・・・)
その姿が宮か出て行く、最後の最後の瞬間に
あたしは声に出さず、誰にも気づかれないように・・・『ただ一人』のためだけに、・・・祈った・・・
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