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「ねぇ、僚・・・・触って」
「は・・・?」
突如香がそう言いだした
意味がわからくて、首をかしげながら間抜け声をあげれば
香は「いいから」と言って俺の手を取った
だが、瞬間・・・俺の体が強張る
香が持つ俺の手は・・・・血で真っ赤に染まっていた
それがペンキや血糊じゃないことは、俺自身が嫌と言うほど知っていたため
慌てて香の手をほどこうとした・・・が
「大丈夫・・・・だから、触って」
一瞬何を言っているのかわからなかった
マジマジと香を見れば、嫌悪も侮蔑もなく
ただまっすぐ俺を見ていた・・・・
その視線に導かれるように、俺はゆっくりと腕を持ち上げる
そして、ゆっくりと・・・・目の前の女に触れる
壊れないのか
壊れてしまわないのか
怖々と、柄にもなく緊張しながら・・・俺の手で、触れる
「・・・・香」
声は、震えていなかった
体が今にもガタガタと音をたてそうになるにも関わらず
声だけは震えることなく、目の前の女の名を呼んだ
「リョウの手だね・・・」
いつものような、馬鹿みたいな、ガキのような笑い顔ではない
女のような、艶を含んだ・・・微笑
デカイ声じゃない、囁くようなか細い声で俺の名を呼び
ゆっくりと俺の首に腕をまわす・・・・
「・・・・僚・・・だね」
耳元で、ささやかれた言葉に、俺の体が震える
香の顔は見えない
それでも、そばにあるぬくもりに・・・どうしようもないほど泣きたくなった
「かおり・・・・」
腕を伸ばし、細い体を、腰を抱きしめる
香の名を呼んだ声は震えたのがわかった
それが恐怖なのか、安堵なのか、緊張なのか
・・・・なんであったとしても、今の俺に答えを導きだすことなどできはしなくて
ただ、力の限り抱きしめる
理由などわからず、ただそうしなければならないと思ったから、そうしたいと思ったから
だから・・・壊れんばかりに強く、強く、抱きしめた・・・・・
「・・・・・・・ねぇ、僚・・・あたしはさ・・・僚にとって・・・・」
「っ・・・!!?」
抱きしめた香から聞こえてきた声に思わず手を離し、突き放せば
そこには、泣きそうな、困ったような、それでいて呆れたような顔をした香がいた
「・・・・弱虫」
「っ、香っ!!!!?」
そう言って笑った香が俺に背を向け走り出し
俺は無意識の内に香に手を伸ばしたところで・・・・目を覚ました
目覚めてしまえばそこがアパートのリビングであること
そして、自分がいつの間にかソファで転寝をしていたのだと気づき
先ほどのアレが夢なのだと理解し、思わず舌打ちをしそうになった
・・・が、それをしなかったのは、この場所にいるのが俺だけじゃないと
「なぁにしてんだか」
俺の足元で眠る女に、自分のことを棚にあげて苦笑する
目蓋を閉じ、ゆっくりと呼吸を繰り返す香をしばらくじっと眺めながら
なんとなく、あの夢と同じように・・・・・触れてみる
「おまぁは・・・・槇村の大事なお姫さまだろうが」
槇村が最後の最後まで気にしていたお姫さま
大事に大事に守ってきた存在
共に生きてきた・・・大事な・・・・・
(それを、俺なんかが、手を出しちゃまずいだろ?)
声に出さずそう呟いたのは、万が一にも香に聴かれることを恐れたからか
それとも・・・・・俺は脳裏を過ぎった考えを振り払うように
わずかに頭を振ってから、再び香へと視線を向ける
「そもそも、おまぁいつまでここに居るつもりだよ・・・・」
誤魔化すように呟いた言葉に、今度は自嘲的な笑みを浮かべる
手を出さないにしても、こんな光のあたらない場所に置いて・・・
・・・今もなお、傍にいることを許している俺の方がよっぽどマズイだろ
手放せばいい
安全の確保された場所を用意して、影ながらコイツを守ることなどいくらだってできる
俺がしなくても、そういうヤツに頼むことだって可能なはずだ・・・・・なのに、それをしないのは・・・・
「まさか・・・・な」
『・・・・・・・ねぇ、僚・・・あたしはさ・・・僚にとって・・・・』
先ほどの夢で香が言った言葉が脳裏を過ぎったものの
俺は苦笑をもらし香を起こさぬように気をつけながら、くしゃくしゃと香の髪を撫でた・・・・
『少しでも、『救い』になれてるのかな?』
(今更だろ・・・・それに、おまぁにこの場所から救い出して欲しいなんざ、思っちゃいないさ)
「闇は闇の中でしか、生きられやしねぇんだよ」
ポツリとそうこぼし、俺は窓から差し込む陽の光から逃れるように
ゆっくりと目蓋を閉じた・・・・・
お題「恋愛未満5のお題」 お題提供サイト loca
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