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闇色アリス

 

この作品はパラレルです

シティーハンター×モデル カオリンです


苦手な方はご注意ください







出会わなければよかった


まさか、そんなドラマのようなことを思う日がくるなんて
夢にも思ってなかった






たくさんのフラッシュ、求められるポーズ、笑顔
デザイナーのイメージに合うように
カメラマンのイメージに沿えるように
笑い、動き、装う
でも、それは決して作り物なんかじゃない
自分の中の一部
モデルというあたしの一部
それを曝け出し、笑みを、動きを、作り出す


疲れることなんてなかった
大変だけど、この仕事は嫌いじゃない
たくさんの嫉妬や妬みを買うことだってある、誤解を受けることも
それでも、この仕事が好きだから続けてこれた
・・・・・でも、今・・・・・あたしは、この仕事をしてる自分をほんの少しだけ恨んでいるのかもしれない




「それじゃ、行こうか」

「・・・・・えぇ」




仕事場から外に出た途端待っていたのは大柄な男
モデルのように均整が取れた姿と、今時珍しいほどの男らしい、でも、どこか愛嬌のある顔
一目見た瞬間から、親友であり上司の絵梨子のデザイナー魂に火をつけたほどだったが
あたしは最初この男に慣れることができなかった



モデル仲間をかたっぱしから口説いてる姿勢も、何かと出てくるストレートすぎる言葉も
ついついガマンできず、昔のクセであるハンマーで叩き潰したこと数回・・・
これが絵梨子が雇ったボディーガードじゃなきゃ絶対に一緒になんか居るもんですか!!!
っと、それこそ何度思ったことか数えるのもバカらしくなる



それでもやっぱりなんだかんだで腕は一流で、何度も何度も危ないところを助けてもらった
あぁ、強いんだな・・・・そう思った、純粋にそう思った
でも、その強さとは裏腹に、どこか遠くを見てるような、悲しい眼をすることが時折あった
近づけば、おちゃらけて、ふざけて、誤魔化しとも取れる態度を取るのに
ふと見たその姿は、とても・・・とても、寂しそで
そのときの男の眼は・・・・どこかで見たようなことがあるような気がして・・・
気がつけば、苦手だと思っていた男が気になっていた
もちろん、そんな自分を何度も何度も否定した・・・


けど、視線は気がつけば男を追っていた
冴羽僚という、得体の知れない、スナイパーを・・・・



「・・・・・今日は静かじゃない、調子でも悪いの?」

「んー?なぁに、ボキちゃんのことが気になる?」

「そ、そんなことあるわけないじゃないっ!!ボディーガードが不調だったら誰だって不安になるでしょ?
それだけよ!勘違いしないでっ!!」



ツンケンとした態度で男を突っぱねて、自分から車の中に乗り込む
そんなあたしにわずかに苦笑めいたものを浮かべ、男も車に乗り込んだ
男の運転する車の助手席で、しばらく男の方を見ていたけど
それもなんだか癪で、あたしは反対側にある流れていく外の風景に集中する



どんどん過ぎていく風景は、今の時間のようで
この男と、あとどれくらい居られるんだろうか、なんてバカなことを考えそうになり
あたしは現実から目を背けるように眼をぎゅっと瞑った



あたしは、モデルで、この人はただのボディーガード
依頼が終われば、この関係も終わる
当たり前のことなのに、それが・・・・・どうしようもなく空しく感じてならなかった



「着いたぜ」

「・・・・・ぇ、あ、あぁ、ありが、と・・・・」



いつの間にか車は停車していて、あたしは慌てて顔をあげた・・・・が
そこはどう見ても、最近お世話になっていた男のアパートではなく
かといって、あたしの住んでいるマンションでもなかった
普通の、ううん、普通よりもちょっと暗い、まるで隠れるようにしてある小さな公園


なんで、こんなところに?
わけがわからなくて、男を怒鳴りつけようと振り返れば、思いがけず近くにあった顔に
あたしは一瞬息を呑んだ



「・・・・どういうつもり?」

「男が女をこんなところに連れ込むんだ、理由なんて一つしかないだろう?」

「・・・・・・あたしに手を出したらその場で依頼取り消しは契約解除のはずだけど?」

「あぁ、それな、それなら心配後無用、依頼ならさっき完了したから
アンタが仕事してる隙にチャチャッとね・・・・明日には別件で犯人の顔が全国放送されるんでねぇの?」



にやりと笑って言う男にポカーンとした顔を見せていると、いきなり視界がガクっと揺れた
何事かと思い起き上がろうとしたものの、あたしを見下ろしている男により動きは封じられた



「だから、今頃マスコミはどこもかしこもこの話題で大忙し
アンタを追いかけてる煩いハエはいない、依頼も完了してる、だから俺がアンタに手を出しても
なぁーんも問題はないわけ」



おわかり?と言わんばかりに笑みを浮べる男に、カッと頭に血が上る
目の前が真っ赤に染まる
顔も火を噴いたように熱い



そして気がつけば、・・・あたしは手を振り上げ、パァーー・・・ンっと男の頬を叩いていた




乾いた音、赤くなる頬、冷たく自分を見下ろす眼
怒りと、羞恥、そして、どうしようもな気持ちが渦巻いている
わけもなく興奮して、はぁ・・・はぁ・・・と肩で息をしつつも
ガシっと男の襟首をつかみあげ・・・・・そして




「・・・・・っ!!!?」




きっと、人生で一番嫌な記憶になる
どうしようもなく、最悪な記憶




ファーストキスが、こんな形なんて・・・・誰にも言えやしない




驚く男の気配を感じつつ、内心そう自嘲しながらあたしはゆっくりと男の唇から
自分のソレを引き離した




「バカにするのも、いい加減にして・・・・こんなことしなくても、アンタのことなんて忘れるわよ!
自分で後処理して、何もかも忘れてやるつーのっ!!!ざまぁみろ!このもっこりスケベ野郎っ!!」



唇を放した瞬間に出た暴言
なんてロマンチックのカケラもない言葉・・・
呆れとこんな状況に追いやった男への怒りに身を任せ、あたしは男の胸を思いっきり押しのける
呆れているのか、それとも、わざとなのか
男はそんなあたしの動きに一切抵抗を見せなかったから、あたしはそのまま車の外へと出てみせた




「アンタにとってあたしの気持ちは邪魔でしょうよ、処理するのも仕事のうちかもしれないし
絵梨子に頼まれたのかもしれない、でもね、この気持ちはあたしのもんなのっ!!
誰にも指図なんてさせないし、される覚えもこれっぽちもないのよ!!!」




あぁ、本当に・・・・最悪
なんでこんな男があたしのボディーガードだったんだろう
なんで、こんな男に惚れてしまったんだろう
なんで・・・・なんで、この男の考えを、あたしはわかってしまったんだろう・・・・




「こんなことすれば、あたしがアンタを忘れるなんて思うなよ!!
そもそも、アンタのイメージなんてもともと最悪なのよ!!
これ以上落ちようがないんだから、こんなことしなくても、アンタのことなんてさっさと忘れてやるっ!!
余計なことするんじゃないわよ、この最低バカ男!!!!」




ろくでもない『優しさ』
その『優しさ』をわかっていて、あたしはその『優しさ』を押しのけた
一瞬の『夢』を自分の手で放棄した
・・・・だって、これは・・・この『夢』は、きっと他にも、たくさんの『依頼人(女性)たち』がみてきたものだから





「残念だけど・・・・あたしはそこらへんの女(依頼人)とは違うの」



他の女たちのように、可愛くなんてなれない
夢をみることも、すがることもできない


なにより

この男の中の『たくさんいた依頼人の一人』になるなんて、まっぴらゴメンだわ




モデルを舐めるんじゃないわよ、と言わんばかりに笑みを浮かべ
男に背を向け歩き出す
ハンドバックをぎゅっと握り締め、颯爽とショーのときのように歩き出す
ピンッと背筋を伸ばして綺麗に歩いてみせる



まるで、この姿を、最後のこの瞬間を、アイツの目に焼き付けるように
たとえ今のあたしの顔が、情けないほどの泣き顔だとしても、
・・・・・今だけは、今だけは・・・・綺麗に歩いてみせる

 

(・・・・・出会わなければ、良かった)



死に物狂いで身につけたモデルウォークを駆使しながらも
どうしようもない気持ちからか、涙が溢れて止まらない
それでも、ショーのときのように、ショーの時以上に歩いた、必死に歩いた
・・・・・・・なのに


 

「どうして・・・お前は・・・・っ」




押し殺したような、男の声と
逃がさないといわんばかりの太い腕があたしの体を拘束する
一瞬の動きすら封じ込めるように強く押さえつけられる腕に、
何が起こったのかわからずに、涙が一瞬止まる



「・・・・・放して」


「嫌だ」


「・・・放して、やめて!!放せってば!!!」



「香っ!!」

 

男の怒鳴り声にあたしは体をビクっと震わせ・・・そして、ゆっくりと力を抜いていった
だって、気づいちゃったんだもん
その怒鳴り声に、あたしを呼ぶ声に、掴まれた腕の震えに・・・


もう、どうしようもない・・・・って


言葉になんてならない
言葉にしちゃいけない
そんな思いをお互い抱いてることを感じ取り、あたしは、また・・・・ゆっくりと涙を長し
今度は男によって、唇を奪われた・・・・・

 

(・・・・・やっぱり、出会わなければ良かった)




出会わなければ、こんな思い、しなかった
あたしも・・・・この男も・・・・こんな、こんな苦しい思いなんてしなくて済んだのに



でも・・・・・




(それ以上に、出会えたことが・・・嬉しい、なんて・・・・・)




触れ合う唇を感じながら
止め処ない涙を流しながら
あたしは・・・・『運命』というものを、密かに呪いながら
目の前の男に、ゆっくりと体を預けた







「闇色アリス」  song by clear
 

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