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降りそうな幾億の星の夜



このお話は 槇村 × 冴子 のお話です

リョウと香は一切でてきませんので、ご注意ください
















「・・・まったく、手間かけさせてくれたものだわ」


思わずこぼれた愚痴に冴子は、やれやれと肩をすくめた
本来であれば人の目を意識、無防備な姿なと見せることなどないのだが
つい先ほど、追いかけていた山が片付いたこと
さらに、「少しは休んでください」という部下たちの気遣いから、冴子は現場での指示を一通り出すと
そのまま現場を後にし、愛車へと向かっていた


「まぁ、雑居ビルやらなにやらを爆発させないだけ、今回はマシってところでしょうけど・・・
揉み消すこっちの身にもなってもらいたいもんだわ」


誰とは言わないが、明らかに連想させる人物たちに対し愚痴をこぼす
もし、彼らがこの言葉を聞けば「だったらこっちを巻き込むな!!」とそれこそ烈火のごとく非難の声があがるだろうが
生憎この場にはもっこり虫も、それを排除するハンマー娘もおらず、冴子は一人、ふぅー・・・と白い息を吐き出し、冴子は天を仰いだ


「・・・・・・今日は、随分と空気が澄んでるのね」


白い息と共に、冴子の目に映ったのは、本来であれば都会のネオンに掻き消されているはずの星の光
しかもそれは、1つ2つではなく、まさにこぼれんばかりに煌めき輝いていた
今現在冴子がいる場所は大都会東京のはずれ
ここも間違いなく「眠らない街東京」だというのに、1,2時間車を走らせるだけでこうも風景が違うのかと
改めて都心部のネオンの多さに辟易しながら、冴子はゆっくりと愛車のポルシェに体を寄せた

冷たい空気を痛いほど感じるのに、今は車のエンジンをかけて温かい車内に戻る気にはなれなかった
明日からまた騒がしい日々が始まる
頭の固い上司や、女だからと僻みを見せる男の部下たちをあの手この手で頃がし、悪知恵を絞る馬鹿たちを検挙する日々
別に、それが嫌だというわけではない
背筋を伸ばし、颯爽と歩く、色香を使い情報を引出し、男社会の中でコネだなんて言わせない、確率した地位にいる
何もかも自分で選んだこと、自分で望んでいた日々・・・・けれど、常に肩を張り続けるのは・・・さすがに疲れる


現場から離れた静かな場所で一人、愛車に体を寄せ、冷たい空気に心地よさを味わう
満点の星空の下、ゆっくりと瞼を閉じ・・・ゆっくりと呼吸を繰り返す
1枚、1枚、自分を覆っていた鎧がはがれていく感覚を味わいながら、指先からゆっくりと力を抜いていく・・・
ほんの少しの休息、一時の休み・・・・それでもこうして体の力を抜くことに冴子は心地よさを感じていた



「随分疲れているようだな」


ハッッと冴子は我を取り戻したかのように飛び退く
体の力を抜き、リラックスしていたとはいえ、人の気配に気を配らないという間の抜けたことは一切していない
耳はいつ部下がきてもいいように済ませていたし、感覚も張り巡らせていた
にも関わらずすぐそばで聞こえた声に、正直冴子は驚きを覚えたが、それを表面に出すようなこともまた長年の経験から、しなかった
・・・・・・が、振り返り、臨戦態勢を取った途端・・・・・・、冴子の体に別の衝撃が走る


ろくに整えていない髪
よれよれのくたびれたコート
どこか頼りなさそうな印象を与えるわずかにずれた眼鏡
けれど、その奥にある・・・何事も見逃さない鋭い光を宿した目




「・・・・まき・・・む・・・・ら・・・・・?」

「久しぶりだな、冴子」




苦笑にも似た笑みを浮かべる男に、冴子は呆然と立ち尽くした
が、それも一瞬
ふっ、とわずかに口角をあげて余裕の笑みを作り上げる


「随分と手の込んだ作りですこと・・・・それで、わたくしに何か御用?」

「・・・・・・・・俺が、偽物だと?」

「あいにく、オカルトを信じるほどわたしはピュアじゃないの」


以前にも、外見だけはやたら槇村にそっくりだった男を見ていることもあり
冴子は不敵な笑みを浮かべつつ、隙を一切見せずに目の前の「槇村」を観察する
少しでもおかしな動きをみせればナイフを躊躇なく投げるために、不自然にならない程度に構えれば
「ま、そりゃそうだよなぁ」と目の前の槇村がポリポリとそっぽを向きながら頭を掻いて見せる


「冴子、お前の心情もわかるが・・・・生憎こっちもそんなに時間は無くてなぁ
こればっかりは信じてもらうしかない」


「・・・・わたしが、そう簡単に首を縦に振ると?」


「まさか、が・・・さっきも言ったがキミを説得する時間もたいしてない
・・・・・これは神様というなんとも残酷な存在が気まぐれに作り出したとくべつな事情(こと)なんでね」



そう言うと、槇村そっくりの男はゆっくりと視線を冴子から天へと向けた
「・・・・・この夜空を見ていたら、いつだったか・・・・たまには星でも見て、ゆっくりしたいもんだって言ったときを思い出してね
ま、そんなことをする前に俺がその星になっちまったわけだが」
冗談にしても笑えないソレを口にしながら、槇村はふぅー・・・と息を吐き出す動作をしてみる
・・・・が、そこには先ほどから冴子が吐き出しているような白い煙は立ち込めることはない
この極寒とも言える寒さの中、「息が白くならない」など普通の人間では「ありえないこと」自体に冴子が目を見張る
なにより、その笑えない冗談のような台詞の手前で吐かれた台詞を・・・・以前、冴子は確かに耳にしていた



「そういや、奥多摩の・・・・空気が澄んだ場所なら、いいんじゃないかって言ったのもキミだったなぁ
それで、じゃぁ、今度香と行くかなって呟いたら『相変わらずあなたの頭にいるのは香さんなのね』って嫌味を言われたな」


「・・・・・・そこは、『じゃぁ、今度一緒に行くか?』っていう場面だったじゃないの?」


「あぁ、そうだな・・・そういえば、それでソレを僚に話したら随分と呆れられたんだったなぁ・・・・」



楽しそうにクスクス笑う男を眺め、冴子は寒さとは違う震えを感じた
かつて、確かに冴子と槇村はそんなやりとりをした
しかも、今回のようにとある事件を追いかけ、ようやく決着がつき二人して疲れてクタクタになっているときに
こうして二人きりで、なんとなく話した会話だった
冴子としては「今度の休みに連れてってよ」という意味を込めたのに、まさか妹と出掛けるなんて言ったバカ男に頭にきて
もう少しで頭からコーヒーをぶっかけるところだったのだ


「でも、俺は・・・・キミと見てる都会のネオンの光も満更じゃないと思ったんだがなぁ」


そうだ、槇村という男は・・・・こういう男だ
自分の好意に気づいているのか、いないのかわからないような態度をとり
ヤキモキさせるくらに、こういった何でもない一言で冴子の気持ちを簡単に動揺させる
刑事としての顔をしているときは精密な機械でも入っているんじゃないか、と思えるほど的確に、慎重に動く男が
ただの一人の男になった途端、計算もなにもない、天然に近い一言で冴子を捕えてしまう
僚という男とはまた違う意味で、とんでもなくズルイ男に、冴子は毎回毎回振り回されていた
いつも、冴子は振り回す側で、優位に立っていて、女狐という名に恥じない駆け引きをしてきたのに
この男の前でだけでは、そんなものはなんの役にも立たなかった



「・・・・あなたって、アッチに行ってもそのままなのね・・・・・槇村」



夢なのか、幻なのか、冴子には判断がつかなかった
それでも、今目の前にいる、認識できる男は・・・・間違いなく「槇村秀幸」だと冴子は確信し
警戒を解き、もう二度と人前で見せることはないだろうと思っていた
何の気負いもない・・・・朗らかな笑みを浮かべた



「・・・・信じたんだな、俺が槇村秀幸だということを」


「あのときの会話を知ってるのは・・・あなた以外いないし・・・・
それに、せっかくできたチャンスを見過ごすほどわたしは愚鈍じゃないつもりよ?」


「これをチャンスと言えるかどうかはわからないが・・・・
俺個人としてはどういう経緯であろうと、ありがたいとは思ってるよ」


「・・・・・そう」



そう言うと二人は黙って星空を眺めた
かつて槇村が刑事であったときも、シティーハンターの相棒をしていたときも
こういう沈黙はあった
冴子も槇村も、饒舌というタイプではない
むしろ槇村は妹の香が関わらなければ寡黙と言っても過言ではない
そして、冴子はこの独特の沈黙をひそかに気に入っていた

気負わず、ただ力を抜き、安心できる空気
家でも、仕事でも、どこか力の入る毎日の中で、数少ないホッとできる場所
もう二度と味わえないと思っていた空気に、懐かしさと心地よさに、わずかに涙腺が緩みそうになりながら
ゆっくりと自らの口で、この沈黙を破った






「槇村・・・わたし、あなたに言いたいことがあるの」



槇村の言うとおり、きっと、こんなチャンスは二度とない
これが神の気まぐれであろうとなかろうと関係ない
チャンスは生かすためにあるのなら、冴子のすべきことは・・・・ただ一つ



「槇村、わたし・・・ずっと、あなたのことを・・・・あいして、」


「冴子」




意を決して言おうとしたその言葉を、槇村の静かな
けれど明確な「拒絶」が含まれた声音によってさえぎられた
・・・・・そして





「どうやら時間みたいだ」





ゆっくりと、空気にとけていくかのように、槇村の姿が薄くなる
空気が蒸発するかのように、煙が天へと上るかのように
実体を失っていく男に、冴子は顔をゆがませた


「また・・・・言わせてくれないの?」

「すまない・・・」

「酷い人・・・・勝ち逃げなんてタチが悪いわ」

「ただの脱落者を勝者呼ばわりするのはどうかと思うが・・・
生憎、死んだ人間にもそれ相応に嫉妬というものがあってね
・・・・キミが誰かと掴む幸せを、心から祝えるのはまだまだ先らしい」

「・・・・・馬鹿ね、そんなの」



(一生・・・・・くるわけないのに・・・・)



口に出そうとした言葉を胸に仕舞う
最後まで言わせてくれなかった男への意趣返しと
改めて胸に抱いた決意にも似た思いを抱きしめ
もうほとんど透けて消えかかっている男をじっと見つめる



「冴子」



あと少し、風が吹けば消えてなくなりそうなそんなタイミングで、再び槇村が口を開く
何を言うのか、冴子はわずかな緊張とともに、聞き逃さぬように一歩を槇村へと踏み出す
・・・・すると




「すまない」




苦笑とも自嘲とも取れる笑みを浮かべ
槇村の姿は・・・・まるでタイミングを計ったかのように吹いた一陣の風と共に完全に消え去った








「本当に・・・・槇村ってバカね」








「そういうときは・・・・『愛してる』ぐらい言うものでしょうが・・・・・」









空に吸い込まれるような澄んだ空気と、零れ落ちそうな星の海の下で
冴子は、自分以外誰もいない場所で、愛車にもたれかかりながら
音もなく・・・・静かに涙をながした




fin



twitterお題
とくべつなこと/「あいして、」/空に吸い込まれるような、

「降りそうな幾億の星の夜」 song by RAG FAIR

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