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momentum









雨が、降る・・・・
暗い暗い・・・どんな闇よりも暗い場所に
真っ赤な・・・雨が・・・
血の・・・雨が・・・
強く、強く、打ち付けるように、全身に降り注ぐ


手も、髪も、見える世界さえ赤く赤く染め上げる
むせ返るほどの血の匂いは、かつてのジャングルでの日々を思い出させる
土と、血と、雨と、緑の、むせかえるような匂い
充満する血の匂いは戦場の真っ只中で嫌というほどかいできた
ジャングルでも、アメリカでも、日本でも
数え切れないほどの、他人の血を浴びてきた


手も、顔も、髪も、腕も、足も、
全てが汚れている
赤く染まっている
匂いが染み付いている



綺麗なところなどどこにも無い
まともな部分など、あるのかすら怪しい


赤く汚れた手
汚れた手
だが、この手を嫌悪することは無い
この手が己を生かしてきた
この血を糧にして生きてきた


生きるために
生き延びるために
人の命を踏み台にして


生きて
生きて
生き抜いて・・・・


そして、いつか
自分がしてきたように、誰かの生きる『糧』になれば
踏み台となって朽ちていけば・・・・
誰にも悲しまれず、ただ淡々と・・・死んでいければ
そうなれればと思っていた・・・
そうありたいと、思っていた


なのに・・・・




「・・・・・変った・・・いや、変えられた・・・・か?」




小さな呟きは雨の中に掻き消されていく


真っ赤な雨が自分に降り注ぐ
痛いほど、打ち付ける血の雨
その雨から逃れることなど出来はしない
だから、この雨は甘受するしかない

それでも
出会ってしまったから
感じてしまったから



「・・・・・ん?」



天を仰ぐようにして浴びる雨の中で
ひらり ひらりと 頼りなく舞い降りるものを見つけた
それはとても頼りなくて
けれど、まるで行き先が決まっているかのように


ひらり・・・ひらり・・・と、揺れ動きながら
ゆっくりと僚の手の中へと落ちる





それは、真っ白な、一枚の羽だった
小さな小さな、頼りないほどに小さな・・・純白の羽根



真っ赤な手の上に落ちた羽は、わずかにその様を汚すも
不思議と赤く染まることなく僚の手の中にある





その様子は、まるで、・・・・・まるで・・・・・・・





『 僚 』






僚が結論を出すよりも早く、どこからともなく聞こえてきた『声』
その『声』に反応するように輝く『羽』

小さな羽根は、強く眩く、暗い暗い場所を照らし
そして・・・・僚に微笑かけた





「お前・・・・は・・・・、ほんっとに・・・・」





香の視線を避けるように、顔を伏せた
言葉は最後まで言えず、ただため息と化した

暗い暗い場所で
血の雨が降り注ぐ場所で
希望なんてものは、一切この場所に


平然と降りてきた
平然と傍に降りてきた
血にふやけた手を
全身あますところなく汚れた男を・・・


なぜ・・・なぜ・・・・お前は、その手で抱き寄せる?
その手で、俺の手をつかめる?





「僚は・・・・汚くない」

「・・・・お前ぐらいだろ、そんな事言うのは」

「血はいくらだって、流せるよ?」

「そんな少量じゃねぇんだよ・・・・俺のは、もう・・・染み付いてる」

「・・・・・あたしは、気にしない」

「少しは気にしろって・・・嫁のもらい手なくなるぞ?」

「なら、ずっと僚のパートナーでいる」

「・・・・・おまぁって、ヤツは・・・・」






再び、言葉に詰まる

そうだ、どんなに手放そうとしても
この手は離れなかった
真実を知っても
この姿を垣間見ても


動揺し、うろたえながらも
まっすぐに・・・ただ、まっすぐに・・・・俺を・・・見てきた




どんな言い訳も、理屈も、
コイツは蹴り飛ばして、再び俺の手を・・・掴んだ





ならば・・・俺も・・・・






「・・・・香」






抱き寄せれば、彼女の体が汚れる
白い彼女はみるみる内に赤く染まるだろう
それを見るのはまだできなくて・・・・
俺は、彼女の姿を見ないで済むように強く強く・・・抱きしめた・・・・



きっとこの想いは彼女をいつか殺すだろう
彼女にとっても、彼女を思う者の思惑とも違う
悲惨な結末を迎えるきっかけになるのかもしれない


手放せば、ありのままの「綺麗な姿」でいられる
手放さなければ、きっと不幸にする



わかってる・・・・わかってるさ、そんなこと・・・
それでも・・・・





「最初で・・・・最後、だ」




最初で、最後でいい
この『想い』も『願い』も・・・


これ以外、何も望まない・・・望まないから・・・・・
どうか・・・・どうか・・・・





『この《奇跡》 を、俺から奪わないでくれ・・・・』




守るから
何がなんでも、守るから
だから、どうか・・・・この『奇跡』を、少しでも・・・・長く、




少しでも彼女にこの『雨』が降り注がぬよう
怯えるように、祈るように、強く・・・・強く・・・抱きしめた





「momentum」 song by 浜崎あゆみ


 

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