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手を広げ
腕を伸ばし
もがき、苦しみながらも・・・生きてきた
バカみたいに足掻くこともあれば
なりふり構わず突き進むこともあったし
何もかもどうでもいいと投げ捨てていた時期もあった
そんな人生の中で、一体どれだけの命が俺の手の平からこぼれ落ちていったのか・・・
数えることがバカバカしくなるほど、奪ってきたが
それと同じくらい・・・奪われてもきたんだなと、今更ながら思う
(・・・・・考えてみれば、今が、これまでの中で一番平和、ってヤツなんだろうな)
暑い夜、自室のベッドに腰掛
ぬるくなったビールを一口飲む
シャツはさっさと脱ぎ捨て、ジーンズだけを履いた状態で
ぼんやりと窓から見える景色を眺める
守りたいと望んだヤツを第三者から奪われることもあれば
守りたいと望んでいたヤツの命を俺の手自らで奪うこともあった
体中にある傷跡、それらはもう痛むことも疼くこともないのに
なのに、鏡を見るたびに、視界に入るたびに
『忘れるな』と俺に言い聞かせているようにも思えてならなかった
「・・・・忘れるはずなんか、無いんだがな」
奪い、奪われ、何度死にいく者たちを見送ったことか
守れなかった者を慕う人々から、浴びせられた罵声も
恨みの篭った視線も・・・
自分の犯した所業の数々を、忘れるはずなど・・・ない
鮮やかだったであろう世界は、血でにじみ
いつの間にか色を失っていた
守りたいものが守れないのなら、もう二度と
守りたいものなど、作らなければいいと思った
もう二度と・・・自分の手から零すことなどせぬように
この手に残るのは、銃だけでいいと・・・そうとさえ思っていたんだがなぁ・・・
「・・・・僚?どうしたの?」
パジャマ姿で近寄ってくる女に視線を向ける
色気のいの字も無い、そう思っていたはずが
この女から感じる色香に悩まされ始めたのは果たしていつだったか・・・
色香に惑わされ
優しさに包まれ
怒りに苦笑いし
涙に戸惑い
笑顔に・・・安堵する
そう感じる中で・・・ゆっくりと、だが、確かに
もう二度と・・・作らないと誓ったはずの「守りたい者」に・・・・コイツはなっていた
「・・・・・んー・・・・別に~?」
ビールを置き、香を抱き寄せれば香は抵抗することなく俺の腕の中に納まる
コイツに手を出す、その瞬間まで俺は迷ったというのに
今では、もう二度と手放せないほどに・・・・以前にも増して執着している自分に内心苦笑しながら
さらに香を抱きしめた
「ただ、・・・ちょっと・・・な」
「・・・・そう」
後ろから香を抱きしめながら首筋に顔を埋める
香はわずかに体を揺らしたものの特に嫌がるそぶりを見せなかった
俺もいつもならすぐにでもこのおいしそうな項に食いついているところなんだが
・・・・今は、このままの状態を保ちたい気になり、そのまま動くことはなかった
「ねぇ、僚あのさ・・・・あたし、考えたんだけど」
しばらく二人じっとしていが、痺れを切らしたのかなんなのか
香が沈黙を破り口を開いた
「もし、あたしが・・・アンタよりも、先に・・・アニキのところに逝ったら・・・さ・・・」
「あ?んだよ、おまぁは俺の死に様を見るまで死なないんじゃないのかよ?」
「そ、そうだけど!万が一!!万が一よ、なにかの間違いが起きちゃったらって話!!!」
妙に必死に言い訳をする香に、俺はなんとも言えん顔を作りながらも
ここは一応同意しておいたほうがいいだろうと判断し「それで」と続きを促す
すると、自分で言い出しておきながら、香は一瞬言葉を詰まらせた
そんな香の行動を不審に思い、「何がしたいんだ?」と問いただそうとしたが
一瞬早く、香が先に口を開いた
「悔やんだり・・・しないで・・・ほしい・・なって」
「・・・・・は?」
「だ、だからっ!!あたしに、何かあっても・・・僚には悔やんで欲しくないの
後悔なんて、してほしくないって言ってんの!!!」
俺へと向き直り、ぎゅっとしがみついてくる女の言葉を飲み込めず
思わずポカーンとしたマヌケ面をさらす
だが、しがみついている香にこの表情が見えるはずも無く、香はそのまま
さらに俺を混乱させるていく・・・
「あたしさ・・・・こうしてる時間がすっごく好き・・・・馬鹿みたいに、幸せ感じちゃってるの」
ぎゅっと俺にしがみつきながら、しみじみと言う香に俺はどう反応していいのかわからなかった
確かに、俺と香がこうなるまでにはかなりの時間がかかった
周囲が呆れるほどの長い長い時間をかけてここまできた
だから、香の言ってる意味はわかるが・・・それがなんで、先ほどの言葉に繋がるのかがわからなかった
何がいいたいのかわからず混乱する俺に、香は俺からわずかに離れると
わずかに頬を染めながらも、真剣な目で俺を見据える
「だから・・・あたしを、絶対に守って、なんて言わないから・・・・・忘れないで欲しいの」
「この時間が、・・・僚もあたしと同じ気持ちなら・・・・忘れないで
他の女を抱いても、別のだれかを好きになっても・・・・あたしの温もりを忘れないで、
ここにあった時間を、あたしを、忘れたりしないで」
暗闇の・・・しかもベッドの腕で
男の腕の中に居ながら、なんとも色気のない台詞だと思いつつ
だが、香らしいとも思いながら、俺は再び香を抱き寄せた
「・・・・・おまぁ、ほんっと容赦ねぇなぁ・・・・ソレ、一番タチ悪いじゃねぇか」
「・・・・・呆れた?」
「うんにゃ、惚れ直した」
ニヤリと俺を笑みを浮べると、そのまま香をベッドへと押し倒す
まさかこのタイミングで押し倒されると思わなかったのか
香は一瞬呆気にとらわれたような顔をするが、それさえも妙に可愛らしく感じ
本当に、俺はコイツに惚れまくってるな・・・っと内心苦笑しながら、その口を塞いだ
忘れない
俺が数え切れないほどのヤツラを殺したことも
守りたかったヤツラを、守れなかったことも
殺したことによって浴びせられた罵声も、視線も、恨みも
・・・・忘れやしない
だが、この一瞬の・・・何ものにも変えがたいと思えるような
『幸せ』だと思える時間も・・・・
忘れやしない、忘れられるわけがない・・・・
「まぁ、おまぁが先に逝くことなんて無いがな・・・・ただし、ベッドの上は別だがな」
「・・・変態」
「それこそ今更だろうが・・・・惚れ直した?」
「・・・・・バカ」
こんなに強烈に自分を引き寄せ、魅了する女との一瞬を、忘れるなど
・・・・・・できるはずがない
(・・・・もし、できるなら・・・・やってみせろっつーんだよ)
ベッドの海に沈み、香の体の隅々まで味わいながら
俺はひっそりと笑みを浮べた
fin
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