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Dolls

 


柔らかな花びらが宙を舞う
ふわり、ひらり、風に煽られ、浮かび、飛んでいく
儚く散っていく花びら
同じ色ではない、様々な色の花びらが飛び交うその場所で
女は立っていた
深く深く、フードをかぶり、宙に舞っていく花びらを見上げ続ける女


 

「・・・・まだ、待ってるの?」


 

背後からかけられた声に女はゆっくりと振り返る
そこに居たのは、むせ返るような花の匂いにも負けぬほどの艶やかな色香を放つ女
だが、その艶やかな色香は今はなりを潜め、どこか憐憫の光を灯らせていた


 

「・・・諦めるという選択肢は、あなたの中には無いのかしら?」


 

女の言葉に、フードの女はわずかに唇を噛みしめつつも、拒否の感情を示すように
ふるふると首を横に振り、そしてそれ以上の言葉を拒むように再び背を向けた


 

「あなたがここにきて、彼を待ち続けて・・・もうどのくらいの月日が過ぎたと思ってるの?
・・・・もう、これ以上待ち続けても・・・彼は・・・・」


 

「来るわ・・・・」


 

女が初めて言葉を口にした
随分と聞いていなかった声音に一瞬女は驚きの表情を見せるが
それでもすぐに諦めとも苦笑とも言えぬ表情へと変化させた


 

「・・・根拠は、あるの?」



「アイツが、ここで待ってろって言ったのよ、必ず帰ってくるって、そう言ったの・・・だから、あたしは待つ・・・アイツが帰ってくるその日まで」



「・・・・・もう、何年も戻らないのに?」



「それでも、あたしは待ち続ける・・・だって、わたしは、アイツの相棒(パートナー)だから」


 

まるでそれが確固たる真実だとでも言うかのように
フードの女は宙を舞う花びらを眺めながら言い切る


 

「そうね・・・そうだったわね・・・・」

 


きっとこの世で誰一人、あの男の言葉を信じなくなっても
あの男がこの世に生きてることを諦めても
彼女だけは、アイツを信じ、待ち続ける・・・・
そういう女なのだ・・・・彼女は、槇村香は・・・・・


たとえこの世が滅びるその瞬間まで
この場所で、あの男を待ち続けるのかもしれない



「・・・・冴子さん、今日は風が強いからもう帰って・・・・あたしも、もう少ししたら戻るから」



「・・・・・わかったわ、無理はしないでちょうだいね」



これ以上体を冷やさぬようにね、と忠告を残しつつも
もう何を言っても無駄だろうと思いながら、冴子はその場を離れた


冴子の遠ざかっていく気配に香
はわずかに後ろめたいような申し訳ないような表情を浮かべるものの
小さく「ごめんなさい」とつぶやき、再び宙で舞散る花びらへと視線を向けた



「・・・・・・僚」



危険な依頼だった
自分がいったら足手まといになるとわかりきってるほどに
なので、今回は香は自分から残ることを決めた
どんなんに一緒に行きたくとも、少しでも僚の負担を減らすためと言い聞かせ・・・


一人あのアパートに待ち続けてもよかったが
あいにく海坊主やミックたちも手が離せる状況ではなかった
教授宅に留まることも検討したが、今回は香が身を隠したほうがいいという結論に達し
東京から離れ、安全の確保された場所へと香一人身を隠すことになった
・・・・それが、このたくさんの花が舞い散る花畑のある別荘





『ちゃちゃっと終わらせて・・・さっさと帰ってくるさ』





目を閉じれば、瞼の裏にしっかりとあの時の僚の姿が浮かぶ
いつものように笑っていた
けれど、どこか緊張感が伝わってくるような雰囲気が僚を包んでいた
だから、何度も出かかった「僚と一緒に」という言葉を飲み込むことができた
「パートナーだから」という言葉も言わなかった



僚と一緒にいたいから、我慢できる
パートナーだから、信じられる




すべては・・・・僚の傍にいるために・・・・・





「・・・・・・けど、ま・・・・ただ待ってるだけなんてしてないんだけど」





依頼内容を遂行しても戻ってこない僚を、何度も何度も探しに向かった
待ってろ、と言われたけど、迎えにきてはダメとは言われてないから
海坊主やミックと一緒に、何度も何度も、探し回った
・・・・・否、今も・・・・探してる




「早くしないと・・・アパート、もっとボロボロになっちゃうかもね」




僚と一緒に帰るはずだった場所に、一人で帰る気にはなれなくて
どれだけ周囲に言われても、香はあのアパートには戻らなかった



僚が帰ってきたら
僚を迎えに行けたら



そしたら・・・・二人で、あの場所へ・・・・



目を閉じ、二人あのアパートの扉をくぐることを想像する
決して一人なんかじゃない、二人、一緒で・・・・






「・・・・・りょう・・・・・りょ・・・ぉ・・・・」





花が舞う
たくさんの花びらが・・・
目がまわってしまいそうなほどのたくさんの花びらを見上げながら
香はそっと目から熱い涙をこぼした・・・・そのとき









「    香     」











その声に、体が一瞬固くなる
思考が凍りついたように動かなくなる











「・・・・おいおい、やぁーっと帰ってこれた相棒を無視するなんて、おまぁはどういう神経してんだぁ?」









吐き出される憎まれ口に
聞こえてくる声に
近づいてくる気配に

おそるおそる振り返れば・・・・そこには・・・・






「・・・・・りょ・・・・ぉ?」






夢にまでみていた姿に
声に、ぬくもりに、気配に



体中の血が沸騰し・・・・そして・・・・







「りょぉおぉおおっ!!!!」





耐えていたもの
我慢していたもの
一気に吐き出すように、香は絶叫し・・・・僚の腕の中へと飛び込んだ












舞い散る花びら
宙を舞う花びら
その花びらの中で、静かに空を見上げていた女は
まるで子供のようにむせび泣きながら、男の腕の中で・・・最高の笑みを浮かべたのだった












「Dolls」 Song by 浜崎あゆみ


 


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