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面倒見が良くて、友達思い
どんなにメディアから注目される存在になっても偉ぶることなんてないし
相手がどういう仕事をしていても偏見の目で見てこない
そんな絵梨子はあたしにとって自慢の親友なんだけど・・・
けど、そのパワーというか、強引さは少々呆れることも少なくない
・・・・・現に、今もあたしはどういう返事をしたらいいのは激しく戸惑っている
「ね?いいでしょ香?旅費はわたしが持つから?ね?」
「で、でも、絵梨子・・・いくらなんでも急すぎるわよ」
久しぶりに冴羽アパートにやってきた(僚曰く押しかけてきた)絵梨子は
あたしと僚に簡単な挨拶をすると、いきなりあたしの手を握り締めて
「一週間の休暇が取れたの!ね!香!!一緒に旅行に行かない?」
なんて言ってきたのだ
最初はスペインだ!フランスだ!イギリスだ!!なんて騒いでいたけど
さすがに急に海外になんて行けるわけもなく、あたしは「絶対に無理!!」と叫べば
絵梨子はしぶしぶ「じゃぁ、国内にするわ」と言ってきた
「屋久島もいいわねぇ、北海道も捨てがたいけど・・・あ、京都も久しぶりに見たいなぁ
やっぱり日本の和を感じるなら京都奈良よね?あ、大阪で食い倒れツアーも魅力的ね・・・香はどう思う?」
「い、いや・・・・どう思うって言われても・・・・」
さっきまで「パリはいいわよ~?日本のファッションもそこそこだけど、あっちはまさに洗練された
感じがたまらないの!!一度香も見たほうが絶対にいいわ!!」なんて意気込んでいたくせに
すっかり今は日本ツアーへと頭が切り替わっているらしい
この切り替えの早さが「世界のキタハラ」と呼ばれる所以(ゆえん)なのかもしれないけど
振り回されるコッチの身にもなってほしいもんだわ
「そもそも絵梨子、あたしはまだ一言も行くなんて言ってないのよ?」
「えーーー!!!旅費は全部コッチ持ちなのよ!!いいじゃない!!せっかくの休暇に付き合ってくれたって!!」
「あ、あのねぇ!!休暇は絵梨子の都合でしょうが!!こっちにはこっちの都合ってものがあるんだってば!!」
「・・・・・あるの?都合?」
「絵梨子・・・・喧嘩売ってる?」
暗に「仕事ないんでしょ?」と言ってくる絵梨子に、思わずジト目で睨む
そりゃぁ、「依頼」は無いわよ?
でもね、こっちには毎日毎日手のかかる図体のデカイ子どものような男の世話という
立派な「仕事」があるのも事実なわけで
アイツを一週間放置したら何するかわかったもんじゃない・・・・
まずお金は湯水のように使って、大量のツケを作るでしょ?
体が資本のくせにご飯だってまともに食べるとは思えないし・・・
下手にあたしの居ない間に依頼なんて入った日には誰が依頼人をあの野獣の手から守るつーのさ
「あ、あはははは、や、やだ、誰も喧嘩なんて売ってないわよ~・・・・ねぇ、香~?いいでしょ?
わたしだってたまにはゆっくりしたいのよー、でも、一人なんて寂しいじゃない?ね、この通り!!
この貴重な休暇を、寂しいものになんかしたくないのよぉ!!」
絵梨子はあたしの機嫌を損ねたと思ったのか、今度は泣き落としにかかってきた
・・・・まぁ、絵梨子の言い分もわからなくはないのよ?
実際絵梨子は忙しいのは事実だし、一人じゃつまらないっていうのもわかるよ
けど、・・・・だからといって僚を一人にしていい理由にはならないわけで・・・・
チラリと我関せずとばかりにソファでグラビア雑誌を読んでいる僚へと視線を向ける
すると、それを目ざとく見つけた絵梨子にギロリと睨まれた
「・・・・香、アンタどうしていつもいつも冴羽さん中心に考えてるわけ?」
「え”?」
一瞬自分の考えを読まれたと思い、冷や汗が流れるも
絵梨子はそんなあたしに構うことなく、ズイっと顔を寄せると僚に聞こえないように小声で喋りだした
「いい香?冴羽さんの世話があなたの仕事だとしても年がら年中365日一緒にいることもないのよ?
仕事ならちゃんと休む権利があるんだから!!もし、依頼が入ったら途中で帰ってもいいの!
そこまで束縛するつもりなんて無いんだから!!それに、少し香の方から離れて冴羽さんに
香の大事さを認識させるっていうのも大事だと思うのよ、ほらよく言うじゃない?押してダメなら引いてみろって」
「・・・・・そ、そういう・・・もの、かな?」
あまりの絵梨子に剣幕に、思わず香あたしは怯え腰になりつつも
「僚に香(自分)の大事さを認識させる」という言葉に思わず気持ちがグラリと揺らぐ
「そうよ、ねぇ、冴羽さんに『香じゃなきゃダメなんだ』って言わせてみたくない?」
あたしの気持ちが揺れ動いたのをすぐさま感じ取った絵梨子は、トドメとばかりにそう耳打ちしてきた
瞬間、あたしの脳裏に
「やっぱり、お前じゃなきゃ駄目なんだ」と言う僚の姿が浮かび
思わずぽや~んと夢見心地になる
「どう?香?一緒に旅行行く?」
「行く!!行きたい!!行こう絵梨子!!!」
・・・・・というわけで、あたしはまんまと絵梨子の策略に乗ってしまい、絵梨子の旅行は決定した
ちなみに、僚に対しては絵梨子の「香を散々コキ使っておいて、自分は毎晩毎晩遊びほうけてるのに
まさか認めないなんてそんな無責任なこと言うわけないわよね?」というキツイ言葉をかけて無理矢理了承をもぎとっていた
*さらに補足をすると、絵梨子はその言葉以外にも
「やっと香の許可をもぎ取ったんだから、邪魔するなんて言うわけ無いわよね?」という無言のプレッシャーに
僚にこれでもかっと浴びせていたのだが、生憎それは香の目に映ることはなかった(合掌)
***************
香と絵梨子くんが旅行に出かけ、俺は新宿にお留守番・・・となったのは別に構わないんだが
香のヤツ俺をなんだと思ってるんだぁ?
出かける間際に、台所でガチャガチャやってたかと思えば
「一週間分の保存食ちゃんと作っておいたからね!朝ごはんは美樹さんのところに頼んでおいたから!
掃除洗濯は諦めるにしても、ツケはこれ以上必要以上に貯めるんじゃないわよ!!あと、依頼が入ったら
ちゃんと連絡を寄越すこと!!あたしが居ないからって路上で寝るんじゃなくてちゃぁんとアパートに帰ってくんのよ、それから・・・(以下略)・・」
お前はどこの主婦だと言いたくなる饒舌っぷりだったぞ、アレは
あれだけの長文をほどんど息継ぎ無しで言い切ったんだ、下手な女子アナよりも立派なんじゃねぇの?
「あー、わぁったわぁーった、それより時間いいのか?」
「へ?きゃぁーーー!!も、もうこんな時間!!?い、いい?僚!ちゃんと言ったとおり大人しくしてるのよ!
ご飯もちゃんと食べなきゃ承知しないんだからね!!あ、お土産買ってくるから楽しみにしててね?じゃぁ、いってきます!!」
バタバタと台風のように出て行った香を見送り
俺はあの騒ぎの中でもしっかりと用意されていた朝食にようやく手をつける
・・・・・ぐふwでも、これで香の束縛から逃れられるわけだよなぁ~
一週間!!自由の一週間!!
ナンパも夜遊びもし放題!!もっこりちゃんとウハウハ生活!!!
ひゃっほう!!薔薇色生活の始まりだぜーーーー!!!
・・・・・・っと、騒げればいいんだがなぁ・・・・
はぁ、なぁんでこのタイミングでアッチの仕事が入るかねぇ?
しかも冴子とは別口の・・・『シティーハンター』としての本来の仕事だ
まぁ、下手に香をここにおいておくよりはずっとマシなんだが・・・
「・・・・・一週間、ねぇ」
長い一週間になりそうだ・・・
俺はポツリと内心そう呟き、トーストを齧った
そして、予想通り・・・・それからの俺はアパートにはほぼ寝に帰るだけの生活になった
ほぼ、香からは「不携帯」なんて呼ばれている携帯に香からの着信が何度かあり
帰ったあと、まぁ、時間帯を見てだが・・・・適当に返事を返していた
下手に返さないでいるとアイツ間違いなく飛んで帰ってくるからな・・・
まぁ、その電話も「ちゃんと食べてる?ツケ貯めてない?美樹さんたちに迷惑かけるんじゃないわよ」
といった内容ばかりだったが・・・・
「おまぁ、せっかくの旅行なんだから俺のことなんか気にせずゆっくりしてくればいいだろうが?」
『そ、そりゃそうなんだけど・・・・や、やっぱり心配だし・・・・』
香の作っておいた夕飯(しかもちゃんと日付付き)を適当に食いながらそういえば
香は妙に歯切れ悪くボソボソと返してきた・・・ま、パートナー組んでここまで顔を合わせることなく
離れたことなんて無かったしなぁ・・・・俺も俺でいつもペースがつかめず多少言葉が少なくなっていた感もある
そもそも俺は電話つーものがそこまで得意ってわけじゃねぇんだよ
こう、顔が見えねぇくせに声だけ聞こえるつーのがなんとも妙な感じがするんだよなぁ
・・・・・・・・ま、毎日かかってくる電話になんと言ったらいいのかわからんつーのが一番の理由かもしれんが
『あ、今日ね!奈良の鹿公園に行ったの!!もう、すっごいの!鹿って一頭とか二頭なら
可愛いって言えるんだけど、餌をもった途端いっぱい来てね、なんかもうあれだけいると逆に怖いくらいだったんだから!絵梨子なんて服かじられて大騒ぎしててね、あ、それからね・・・・』
俺の沈黙を恐れてか、それとも別の理由からか、香は俺とは逆にいつもよりも饒舌だった
暗い部屋で、裏の仕事を一つずつ片付け、体は未だに緊張感を保っているというのに
耳から聞こえてくる香の声は、本来わずらわしいものになるはずなのに・・・・どこか居心地がよかった
(たぶん・・・・これが本来の距離感なんだろうな
電気をつけていないアパートの一室で、ただ目を閉じて香の声を聞き入りながら
俺はぼんやりとそう考えた
明るい声、明るい雰囲気の香と
暗闇の中で一人でいる俺
パートナーになるという香を拒絶し・・・俺と言う男から無理矢理離して
こうして、声だけ届く・・・・支援だけできる距離いれば・・・いや、声も届かない
香には俺の姿も声も見せない距離にいれば・・・コイツは常にこうしていられたんじゃないだろうか?
『・・・・・僚、どうしたの?体調悪い?そ、それとも、あたし煩かった?』
「あー・・・・違う違う、ちょっと昼間ナンパしたもっこりちゃんからもらった蹴りが今更響いてるだけだって』
『・・・・アンタ、相変わらずね・・・・明後日には帰るんだから、しっかりしててよ?』
「へいへい、おまぁもあんまり起きてると明日絵梨子さんに文句言われるぞ?そうでなくてもカオリンってばお肌の曲がり角なんだから♪」
『だ・れ・が・お肌の曲がり角だっ!!もぉ・・・じゃぁ、また明日電話するから・・・・・おやすみ、僚』
「あぁ・・・・それじゃな」
・・・・プッ と小さな電子音と共に通話を終わらせる
明後日・・・・明日には仕事のケリが着くはずだから
明後日までにはいつもの俺に戻れる・・・・戻れる・・・が
「・・・・・・・・・明日の電話に出られねぇだろうなぁ」
明日はおそらく、普段よりも派手に動く
それだけ多くの命を奪う
殺しをすれば、血の匂いがつく
命を奪えば奪うほど、体の芯が冷えていく
感情の一つ一つが鋭利に尖り
おそらく香の声一つ一つに相槌を打つことなどはできない
冗談で誤魔化すことも、きっとできはしない・・・・
香の声よりも、女の温もりが欲しくなる
酒を飲み、女に溺れ・・・自分が作った汚れをその女に無理矢理なすりつけ
ようやく・・・俺は、『俺』に戻れる・・・・
わかってる・・・・・そうしなければならないことも、そうするしかないことも・・・・
・・・・・だが・・・・・・
「・・・・・・・・・あと、3日・・・・か・・・・・」
通話を切った携帯を握り締めながら、俺はベッドへと身を投げ
そして、浅い眠りへと無理矢理落ちていった・・・・
****************
依頼により、殺しをした
多くの命を奪った
たとえそれが都会の「ゴミ」と呼ばれる連中であろうとも
「命」を奪ったことには変わりない・・・
深夜の時間帯ではなく、あえて賑やかなこの時間を狙って
人々の視線から逃れるように、1人、2人、と確実に仕留めていく
そして、全ての人間の命を奪った後、俺は俺がそこにいた痕跡を消し去り
ゆっくりと現場を後にした・・・・
時間はもうすぐ0時をまわろうかという頃合
今から歌舞伎町に行けばまだ店はあいている
売りの女の1人や2人簡単に手に入る
だが、俺はあえて歌舞伎町ではなく誰もいないアパートへと戻った
暗い部屋へ、誰も居ない冷たい部屋へ・・・・俺は戻った
「・・・・服を着替えたら、さっさと行くさ」
ただ服を着替えるだけ
この時間ではまだ怪しまれる
そう誰に言うわけでもない言い訳をして車から降り、アパートの階段へと向う
・・・・が、その足はすぐに止まることになった
「・・・・・香?」
俺の視線の先には、階段下でトランクケースに寄りかかっている香の姿が映った
香は俺に気づくと、呆れたような笑みを浮べて俺を見ていた
「・・・・・今日は大阪で食い倒れじゃねぇの?」
「うん、してきたわよ、たこ焼きもお好み焼きも安くておいしかった・・・で、それを食べたらそのまま後新大阪から帰ってきちゃった」
あっけらかんと言う香に、俺は何と言ったらいいのかわからず黙っていると
香はそのまま俺へと近づき、そして、抱きつくわけでもなく、ただ頭を俺の胸へと押し付けてきた
「おかえり、僚・・・・・オツカレサマ」
瞬間、「もうコイツには隠し事ができないんだな」と痛感した
思いを通じ合わせてからも、依然と変わりない態度でいても
こういうところで、香には敵わないと思わされる
言葉にしなくても、態度に出さなくても
香は不思議と俺の中の「何か」を汲み取り行動する
・・・・・正直、敵わないと思う・・・・
と、同時に・・・・どうしようもなく、いとしくて ・・・・そして、手放したくないと願ってしまう
まだ、最後の境界線は越えていない
超えるのは時間の問題だとわかっていても、俺はあえて引き伸ばしてきた
香に合わせるという言い訳をしながら、俺の中の迷いを隠してきた
他の女にうつつを抜かすフリをしながら、いつも香の様子をうかがって
香との距離感を測ってきた
だが・・・・・
「・・・・・・おまぁもな」
冷えた香の体に、腕をまわしそっと・・・香の耳に唇を寄せた
本当は知っていた
黙っていたのは声が聞きたかったからだ
歌舞伎町ではなく、アパートに戻ったのも、本とは香からの電話に出たかったから
できるなら他の女じゃなく、目の前の女の温もりが欲しかった
『冴羽さんに香じゃなきゃダメなんだって言わせてみたくない?』
一瞬、脳裏に絵梨子さんの言葉が過ぎる
あの言葉を聞いた瞬間、俺は内心苦笑していた
(そんなもん・・・・もう、何年も前から感じてるつーの)
どんなに過去を振り返っても
どんなに距離感を測っても
どんなに「こうしておけばよかった」と悔やんでも
結局、思い知らされる
この腕のなかのぬくもりは・・・・・手放せやしないのだと
覚悟を・・・・決めるしか、もう道は無いのだと
「りょ、りょぉ?」
「んー?どったのカオリン?顔が真っ赤だぞ?」
「そ、それは、あ、アンタがっ!!!」
「俺が?ん?リョウちゃん何したのかなぁ?」
「~~~~~っ!!!し、知らないっ!!ほ、ほら!!荷物!!お土産のせいで重いんだから上に運ぶの手伝ってよね!!!」
真っ赤になった香をからかけば、香は羞恥と怒りでますます顔を赤くし
俺の腕から逃れアパートの階段を駆け上がる
それがまたなんとも香らしく・・・・俺はクツクツと笑い声を漏らすと
お姫さまのご要望通り・・・これまた重そうな荷物を手に持ちあげた
「また、随分と買い込みやがって・・・・これは報酬ガッポリともらわないとな」
わずかでも、覚悟を決めてしまえば前進あるのみで
その前進の勢いにのって、できれば一気に進んでしまいたいわけで
俺はニヤリと笑みを浮べ、ゆっくりと階段を上った
・・・・今頃灯りをつけ、俺を出迎えてるパートナーをもう一度捕まえるために・・・・・
「Looking Back on Your Lover」 song by Every Little Thing
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