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SNOW



別に暑さや寒さが堪える、なんてことはない
確かに日本独自の湿気の多さや
薄いコート一枚での北風は身を竦ませるが、別に死ぬようなことはない
なんだかんだで環境適応能力ってヤツがそこそこで
こういう職業上、日々(隠れて)鍛えている俺に、そういった環境面というのは特にどうということはないんだが


・・・・ここ数年、冬というものが苦手になりつつある
いや、それだと若干語弊があるなか・・・・
正確に言うなら、ある一定条件を満たした冬が苦手になりつつある



朝も夜も寒い日が続くのが冬
北風に身を竦ませて情報収取という名の夜遊びや
とくに興味もわかないような雑魚の招待から帰宅したとき
ふと見上げたアパートの灯りが灯っていなかったとき
多少の労力をかけてあがった先にあるアパートの扉を開けたときの冷たい空気
真っ暗で、気配のない部屋たち


「・・・・今日は出迎えなし・・・か」


自分を迎え入れた空気にさらに寒さが強くなったような気分になり、誤魔化すように独り言をつぶやく
それがあまりにもガキくさく、苦笑いを浮かべ誤魔化すものの、やはり寒さは止まず
誰も見ていないとわかっていても、平静を装いながら俺は若干速足である場所へとまっすぐ向かった

向かった先は・・・・・客間兼相棒の部屋

深夜から夜明けになるとい時間に起きているにはきつい環境と時間
相棒が寝ているのなんざ百も承知だというのに、たった一枚のドア越しに感じる気配に俺は無意識の内に溜息を吐いた

はぁー・・・・とついた溜息は、寒さから、それとも訳の分からない安堵からなのか
一瞬脳裏をかすめた疑問は、答えを出すにはあまりにも危険で
俺はただ皮肉気に口角をあげるだけに留め自室へと戻る


別に、香が来る前なら当たり前だったはずの空気
灯りの灯っていないアパート
誰もいない部屋
冷えた空気

当たり前だったはずのソレを、なぜ今さら・・・・



「・・・・・・こういう風な環境になったから・・・・、か?」



以前なら、散らかった雑誌、寝乱れたベッド
適当に仕舞われた衣服たち・・・
それが今ではどうだ?
綺麗に整頓された雑誌に、キッチリとベットメイクが終えられたベット
乱雑に脱ぎ捨てていたはずの衣服は今ではすっかりクローゼットに綺麗に仕舞われていて
靴下一枚落ちてやしない


「これでベットを温めておいてくれたらパーフェクトなんだがなぁ」


そう言って寝る前に一本タバコを取り出し、フィルムを噛む
誰に、温めてほしいのか
本当にベットだけを、温めてほしいのか・・・


「って、・・・ボキちゃんってばなぁに考えてんデショ・・・アホくさ」


自分でも笑えないブラックジョークだとクツクツと笑いながら火をつける
ベッドサイドに置かれた灰皿を見て、翌朝相棒は呆れるだろう
「まぁた、寝たばこしたの!?火事にでもなったらどうするつもりなんだか・・・」
怒りと呆れと諦めと、いろいろな感情を一気に表に出す、素直で器用な相棒の姿が目に浮かび
皮肉気に歪められていた表情が一瞬だけ、柔らかくほどける


欲望に忠実に生きてきた自分が、生まれて初めて本気で欲しいと望んでいる者
欲しいと本気で欲しいと思ったのもは、いつも諦めてきた
こういう生き方をしてる自分には身分不相応だと、別の幸せがあると
そう思って、突き放して、傷つけて、離れていくように仕向け続けてきたのに・・・・


「・・・・・たいしたヤツだよ、まったく」


当たり前だった寒さを、寒いと思わせるほど身近に
これしかないと思っていた環境を、別のものへと変化させた
冬の北風も、雪も、冷たいけれど、それ以上も以下もなかったというのに
バカバカしいと思いながらも、「温もりがほしい」と思わせる
その「温もり」も手ごろに手に入るものではなく・・・・求めているのはたった一人
同じ屋根の下で今頃すやすやと色気もへったくれもないパジャマに身を包んでいる女・・・だなんて
今まで生きてきた中で、最高に笑えないジョークだ・・


「・・・・・・・ジョークにできれば、いいのになぁ」


いっそ冗談で夜這いをかけようか?
「さむくてねむれないの~~~」と酔っぱらったフリをして、押し倒して
喚くアイツの唇をふさいで・・・それで・・・・


「・・・・・・いやいや、マテマテ・・・・・・・さすがに、それは冗談にしては悪質すぎるんとちゃうの???」


冗談にしては一瞬で浮かんだ淫らな妄想に、自分の想像力の良さを恨みつつ
こんな妄想があのシスコンアニキにバレたら俺は呪い殺されるんじゃないだろうか?とわずかな冷や汗を流す
なんたって筋金入りのシスコンなのだ、あの男は
死んでいても、呪いやらなにやらをしてきても一向に不思議じゃない・・・・


「・・・・・ま、それだけ大事なお姫さん、つーことなんだがなぁ」


親友にとって、大事なお姫さま、大事な預かりもの
不埒な想いはもちろん、手軽に手を出していい相手でもない
わかってる・・・・わかってるはずなのに・・・・


「・・・・・・・・・酔って、抱きしめるぐらいは・・・・セーフ・・・・か?」  




「迎える人(香)がいない」という条件がそろった冬の寒さは、精神的にも肉体的にもキツいから
この寒さを俺に教えてくれた相手に責任をとらせるべく
少しだけ暖をとらせてもらうくらいなら、許されるんじゃないだろうか?・・・なんて
バカバカしいと悪ふざけだと思いつつ・・今度ためしにやってみるかな、などとひっそりと心の片隅で決意し
いつの間にか短くなったタバコを灰皿へと押し付け、冷たくもキチンと整えられたベットへと潜り込んだ




fin





「 SNOW 」   song by  B'z

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