忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Style






毎度お馴染みのキャッツ・アイ
普段であれば、常連の2人の口喧嘩が炸裂し
男が女を怒らせ、店の備品を壊しつつ男に怒りのハンマーをぶつけているところなのだが
今日は女の怒声もなければ、男の悲鳴も無く、もちろん、備品が壊れる音も無い


変わりに聞こえてくるのは、2人の女性の甘えた声


「ねぇ、冴羽さん!いいでしょう?わたしと行きましょう?ね?」

「あら、僚?こーんなお子様と行ってもつまらないわよ・・・ここは大人同士で、ね?」

「誰がお子様ですか!!ピッチピチの女子大生とデートですよ?わたしのほうがいいに決まってます!!」

「ぐふ、リョウちゃん困っちゃうなぁ~」


普段は依頼人と会うとき以外座ることのないボックス席で、
僚はこれ以上無いほどのだらしの無い顔を披露していた

片方にキャッツのバイトのかすみ、反対側に美人探偵の麗香
2人は僚の腕に自分の腕を絡め、胸を密着させ(もちろん故意に)僚へと迫っていたのだった

そんな両手に花の状態の男を見ているのは、呆れた顔のキャッツ夫妻と
イライラとした表情を隠しきれない男ののパートーナー


「ったく、僚のヤツ・・・2人から映画誘われたくらいでデレデレしちゃってさ」

「あら、やっぱり気になる?」

「ふんっ、誰が気にするもんですかっ!!・・・・・・ただ」

「ただ?何?」



コーヒーを飲みながら呟く香に美樹が聞き返す
すると、香は一瞬しまった、という顔をした後慌てて首を「なんでもない」と首を振ろうとしたそのとき

「やぁ、カオリ!ミキ!!今日もキレイだね!」

「ミック!!」

カランとドアベルを鳴らして現れた金髪碧眼の男に香は心底ホッとした表情を見せる
もちろん、それはボックス席に居た僚からも確認できたし、ミックも気づいた
ミックは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐさま状況を把握するとにこやかな笑みを浮べて
香の隣の席へと腰を落ち着かせた


「まったく、リョウも酷いヤツだ・・・こんなにキレイでキュートなカオリが居るっていうのに
他のオンナに目を向けるなんて・・・」

「その台詞、是非かずえさんの目の前で言ってほしいわねミック・・・でも、慰めてくれてありがとう」


自分の手を握って迫ってくるミックに、香は一瞬ジト目で睨むものの
すぐさま苦笑しながらミックに笑みを向ける


「慰めなんかじゃないさ、カズエはもちろん愛しているし、美しいよ。だけど、カオリも十分に魅力的なのも本当だよ」

「ふふふ、お世辞言ったって何も出ないわよ?」

「Oh,本当だよ、カオリ。キミはとてもステキなレディだ・・・どうだい?この後よければ一緒に食事にでも」

「そぉーいうこと言ってるからカズエちゃんに薬の実験台にされるんだろうが」

「僚?」



突如後ろに現れた僚に香が眼を大きく開け驚いているのに対し
ミックはニヤニヤと笑いながら「どうした?美しい花たちを愛でないのか?」と問いかければ
リョウは「生憎、リョウちゃんってば、ほっとかれちゃったんだよねぇ」と言って
先ほどまで居たボックス席を指差した

ミックと香、そして静観していた美樹もボックス席に眼を向ければ
かすみと麗香が『どちらが僚と一緒にデートをする』から
『どちらがパートナーにふさわしいか』という論争になっていたらしく
僚が離れたことにも気づかずに激しく論争を繰り広げていた



「うまく逃げてきたようだな、リョウ」

「馬鹿言うな、二人が勝手に白熱してきたから火の粉がコッチに来ないうちに避難してきただけじゃねぇか」


そう言ってミックとは反対の、香の隣に座るリョウに、ミックはやれやれと肩をすくめる
おそらくこの男のことだ、自分が入ってきて香にちょっかいを出されるのが我慢できず
2人を論争に導くようなことを言って、逃げ出してきたのだろうと、ミックは予測をつける


「よく言うよ・・・ま、こんなへたれは放っておいて・・・カオリっ、さっきも言ったけどこのあと一緒に食事に」

「・・・・・ミック?何をしているのかしら?」

「・・・・・・・・カ、カズ、エ?」



ミックが香の腕を両手で握り締めたその瞬間、にこやかな笑顔を浮べながら
かずえがキャッツへと入ってきた


「こ、これは・・・・そ、そう、ゴカイ!ゴカイだよ!カズエ!!」

「あらそうなの?・・・・でも、ミック?わたしはまだ何も言ってないのだけれど?」

「い、いや・・・そ、それは・・・・・」

「うふふふふ、丁度研究もひと段落ついたところなの・・・・『ゆっくり』と『2人で』話し合いましょう?」

「・・・Yes,カズエ」



笑顔で、だが、決して逆らえないプレッシャーをミックへと向けるかずえに
その場に居た香と僚まで震え上がり、とばっちりはゴメンだとばかりに
「じゃ、じゃあ!あたしたちはこれで!!」と慌ててキャッツを飛び出したのだった


カラーンっとドアベルを鳴らして去っていた2人を見送り
キャッツ夫妻は小さくため息をついた



「・・・・まったく、冴羽さんも素直じゃないわねぇ」

「フンッ・・・アイツがあーいうヤツなのはいつものことだ」

「そうねぇ・・・でも、この状況の中逃げ出すのは酷いと思わない?」


カウンターにはカズエに謝り倒しているミック
ボックス席には未だに「僚にふさわしいのは自分だ」と言い争ってる美女2人
(ただし現在の顔は修羅そのもの)



「冴羽さん、さっきかずえさんにこっそりメール打ってたこと、香さんに後で教えちゃおうかしら?」


ボソリと呟いた美樹に、海坊主は何も言わずにただ黙々と今日は無事だった皿を
一枚一枚丁寧に拭く
そんな自分の夫の態度に美樹は「了承した」と受け取り、いつ話そうかしらっと
悪戯を仕掛ける子供のような表情を浮かべたのだった


その頃、キャッツから脱出した2人はというと、アパートに向う公園で一息いれていた


「こ、怖かったぁー・・・・カズエさんってば、怒ると迫力あるのねぇ」

「おまぁみたく誰もがハンマー振り回せるほど乱暴なわけじゃねぇからなぁ、普通はあーいうもんでないの?」

「ソレどういう意味かしら?僚?」

「ぎょわっ!!だ、だから!!そうやってすぐにハンマー出すところだっつーの!!」

「アンタが余計なこと言うからでしょうが・・・・ったく、ほら、さっさと帰るわよ」

「へぇへぇー・・・まぁ、しょうがねぇか」




僚の言葉にムカっとしたのか、香はすぐさまハンマーを出現させるも
その通りの指摘に顔を顰めながらも、ハンマーを仕舞い、2人再び歩き出す


ただし、2人ともなんとなく無言で、さらに若干距離も置いて歩く


美樹たちの結婚式で、自分達も変わっていいはずなのに変わらない
だが、こういうふとした瞬間に、『以前にはなかった』空気になる
それがどことなく気恥ずかしくて、それでいて、耐えることもできなくて
香は無意識の内にパニックになりながら、口を開いた


「ね、ねぇ僚っ!!」

「・・・・なんだよ?」

「あ、あのさ・・・・僚は、ヤキモチ焼いて・・・くれたり、した?」

「・・・・はぁ?誰が、誰に?」



突然何を言い出すのかと言わんばかりの顔で僚が香の方を向けば
トマトもここまで赤くはならないだろう、というぐらい真っ赤な顔をした香がおり
「・・・・・ナンデモナイ」と蚊の泣くような声で呟いた


(・・・・・無意識で言ったわけね・・・・さすが天然)


そんな香を横目に、パニックになったあげくとんでもないことを言って
現在さらにパニックになってであろう相棒に、僚は内心ため息をつく
僚とて、こういう雰囲気にどうしたらいいのか戸惑っているのだが
大抵の場合こうして香が自爆したり、パニックになって気づいていないため
今のところ香本人に知られることはなかった



(けど・・・ま・・・そろそろ一歩くらい踏み出してもいいよな)


「何?カオリちゃんはリョウちゃんにヤキモチ妬かれたかったわけ?」

「へっ!!!!?」



僚の発言に香はポカーンとして見せた後
ドカンッと音が鳴るのではないかと思えるほど盛大に顔を再び真っ赤に染め上げた


「べ、別にっ!!あ、あああああたしは、アンタにヤヤ、キモチ焼いてほしかったとか!
あ、あたしばっか好きみたいでバカみたいとか!そ、そんな、バカ丸出しなこと全然っ、まぁーったく考えてないっ!!考えてるわけもないのっ!!!そもそもただあたしはっ!!・・・っ 」

「・・・・あたしは?」


電池を入れ替えたばかりのオモチャのように一気にしゃべりまくる香だったものの
ようやく自分の言っていることに気づいたのか、慌てて両手で口を塞ぐ・・・が、そんな香を
僚が逃がすわけも泣く、ニヤニヤと笑いながらズイっと顔を近づけてきた


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・忘れた」

「んなわけあるか、ホレホレ、言ってみ?リョウちゃんちゃぁーんと聞いててあげるか、な?」

「い、いいっ!!聞かなくていいっ!ていうか聞くなっ!寄るなっ!!このもっこり害虫っ!!!」



うりうりっとどこのかのいじめっ子のように香を追い詰める僚と
僚に仔犬のようにキャンキャン喚きながらも、一歩一歩逃れるように後ろに引き下がる香
そんな香の姿が余計に僚の中の嗜虐心を煽ったのか、それとも「香を構いたい病」が発動したのか
僚はにーーっっと笑ってさらに香を追い詰める


「いいじゃないか、香クン。せっかくだからこのもっこりお兄さんが一から十までぜぇーんぶ聞いてあげようじゃないか、うん。」

「だ、誰がもっこりお兄さんだ、この変態もっこりばかああああああああっ!!!!」

「ぎょえええええええっ!!!?」


その結果、ついに香の羞恥心の限界を向え「恥じらいハンマー」×2をモロに喰らうはめとなり
僚は公園の植木の中へと突っ込む形で潰された


「先帰って夕飯の支度してるからっ!!!アンタもいつまでも潰れてないでさっさとなさいよっ!!!」


そう真っ赤な顔で捨て台詞よろしく叫ぶと、香は僚に背を向け走り出した

その後、香はアパートまで一切スピードを緩めず、階段もいつもの倍以上のスピードで駆け上がり
なかば逃げ込むようにしてアパートの中へと張り込んだ



「はぁ・・・はぁ・・・・い、言えるわけ、無い・・じゃない」


公園から全速力+全速力での階段の駆け上がりに
さすがに息が切れたのか、香は扉にもたれかかるようにして
へなへなと倒れこみながら、肩で息をしつつ呟く


「たまには・・・・素直に、僚に甘えたい、なんて・・・さ・・・・口が、裂けたって言えない、わよ」


そう呟くと、香は自嘲的な笑みを浮かべ、履き捨てるように「可愛くないヤツ」とさらに呟やいたのだった




 

PR

Copyright © Short Short Story : All rights reserved

「Short Short Story」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]